第1364話 堅牢な指揮
ビルの屋上で北園たちの戦闘を見ていた将軍型のレッドラム。
その将軍型のレッドラムを見つけて攻撃するため、飛空艇がやって来た。
「北園ちゃんの読み通りだったねー。もしもこの場に将軍型のレッドラムがいるなら、戦闘の状況を効率よく把握してレッドラムに指示を出すため、高いビルの上から戦闘を見ているかもしれないって。だから、ビルより高い位置から将軍型を探せるワタシたちが呼ばれたってワケさ。それじゃあアラムくん、ミサイル用意ー!」
スピカが、操縦桿を握るアラムに声をかけた。
アラムもうなずき、ミサイル用の精神エネルギーを、操縦桿を通して飛空艇に流し込む。
「わかったよスピカお姉さん! ターゲットロックオン! 発射!」
アラムの掛け声と共に、飛空艇の両側面から金色のエネルギー弾が次々と発射され、将軍型のレッドラムめがけて飛んで行く。
将軍型も、その場でジッとしてはいない。
すぐさまビルから飛び降りて、エネルギー弾を回避。
飛んできたエネルギー弾がビルの屋上に次々と命中し、そのビルの上部が崩壊した。派手な破壊だったので、街中でレッドラムの群れと戦闘を繰り広げていた北園たちも、これに気づく。
ビルから飛び降りた将軍型は、落下途中で自身の目の前に次元の裂け目を開く。
その次元の裂け目の中に落ちて、地上に開いておいた次元の裂け目から出現。まだ五十メートル以上はあった落差を一気にゼロに縮め、着地までのタイムラグを大幅短縮した。
北園たちと将軍型のレッドラムの距離は、およそ七十五メートルといったところ。将軍型がいたビルに注目していた北園たちは、将軍型がビルから落ちてきた場面も目撃していた。
「いた! 将軍型のレッドラムだよ!」
「あのビルの屋上にいたのね! あぶり出されて落ちてきたなんて、ざまぁないわね!」
「確実に仕留めるぞ。奴を討伐したら勝ったも同然だ」
「ボクが負傷兵の人たちを守ってるから、みんなは切り込んで!」
今のシャオランの実力ならば、たった一人で負傷者四人を守らせても安心だ。北園、本堂、オフィーリア、テリーの四人は、遠慮なく将軍型めがけて駆け出した。
将軍型は、向かってくる北園たちに告げる。
「スグニ後悔スルコトニナル。アブリ出サナケレバ良カッタト」
その将軍型の言葉と共に、彼の周囲に六つの次元の裂け目が出現。そこから次々と、新手のレッドラムが湧いて出た。通常型、刃型、クロー型、大盾型など、近接戦闘特化のラインナップだ。
「SHAAAA!!」
「SIIIEEEE!!」
「一掃するよ! ”発火能力”っ!!」
北園が両手から火炎を発射。
このストリートを端から端まで埋め尽くすほどの、膨大な量の炎だ。
しかし、四体の大盾型のレッドラムが前に出てきて、右の大盾を構えながらバリアーを発動。北園の火炎を防ぎ、他のレッドラムも守られてしまう。
北園が炎を撃ち切ると、待ってましたと言わんばかりにレッドラムたちが一斉に飛び掛かってきた。横に大きく広がり、北園たちを左右と正面から囲い込むように。
「ここは一旦、足を止めて迎撃せざるを得ないな」
本堂がそうつぶやき、飛び掛かってきた通常型レッドラムの顔面を鷲掴み。そのまま顔面から地面に叩きつけ、頭部を潰した。
オフィーリアは射撃と銃剣を華麗に使い分けて、レッドラムたちを近寄らせない。テリーもショットガンによる接射で、筋肉型のレッドラムの頭部を吹き飛ばした。
だがその時。
一体のクロー型レッドラムがテリーに飛び掛かり、彼の背中を鋭い爪で貫いてしまう。
「SHAAAA!!」
「ぐっ……!?」
テリーの動きが止まる。
さらに、もう二体のクロー型がやってきて、同じくテリーの身体に爪を突き刺した。
「SIEEE!!」
「KEEEEE!!」
「がふっ……」
「テリーさん!?」
北園が悲鳴交じりの声でテリーを呼ぶ。
どう見ても致命傷だ。もうテリーは助からない。
……と、思いきや。
テリーは全身を力強く振るって、クロー型たちを振り払った。
「離れろ……!」
「SHAAA!?」
テリーは、足元に落ちたクロー型を踏みつけて押さえ、頭部をショットガンで吹っ飛ばした。
残った二体は、北園が火炎で消し炭にした。
さっそく北園は、テリーの怪我を治療しようとする。
「テリーさん、しっかり! すぐに”治癒能力”かけてあげますから!」
「いや……必要ない。もう治っている」
「え!? 治ってるって……?」
テリーの言う通り、彼の傷はもう塞がっていた。大量出血による血まみれの痛々しい姿はそのままだが、出血そのものはすでに収まっている。
「これは……何かの異能ですか?」
「”生命”といったか。俺の異能は超再生能力らしい。この程度の傷なら、立ちどころのうちに自然治癒してしまう。連中が爪に塗りたくっていた毒も分解できる」
「そうだったんですね! すごい能力です!」
「ありがとう。ただ、この場面では、火力に直結しない能力というのは、少し厳しいものがあるな……」
テリーの言葉の通りだ。少しレッドラムを減らしても、新しいレッドラムは将軍型のレッドラムが次々と召喚してしまう。
この場にいるレッドラムは、将軍型の指揮によって、動きが良くなっている。攻撃を仕掛ける時は常に複数同時で、反撃を受ける前に安全圏へ逃げてしまう。北園の大火力にも、あまり巻き込まれないように立ち回っている。
北園の火力と、本堂のスピード。
それからオフィーリアとテリーの奮闘。
これらをもってしても、このレッドラムの群れを突破して、将軍型へ直接攻撃を仕掛けに行くのは、かなり厳しいものがあった。敵ながら、非常に堅牢で見事な指揮である。
「火力か、手数か、何であれ、あと一つは欲しいな。このままではレッドラムが片付かん」
本堂がつぶやいた。
無表情だが、どこか忌々しそうに。
その時だった。
一つの人影が、この戦場に飛び込んできた。
やって来たのは、ブレード兵のカーク。
先ほど、毒に苦しみながらも玉砕覚悟で戦闘に復帰しようとして、オフィーリアに止められた青年兵士だ。
彼が握るのは、雷電を発する高周波ブレード。
それを、レッドラムの群れめがけて、思いっきり叩きつけた。
「おりゃああッ!!」
彼が高周波ブレードを振り下ろすと、そこを中心に爆雷が発生。周囲にいるレッドラムをまとめて吹き飛ばした。
「GYAAAA!?」
「GEEE!?」
「悪い! やっぱジッとしてるのは性に合わねぇわ! もう少し火力がいるんだろ? 付き合うぜ!」
そう言ってブレードを構えるカーク。
確かに、この強力な雷の異能があれば、レッドラムの群れを突破し、将軍型に届くかもしれない。
彼の体調は心配だが、渡りに船でもある。
本堂も、オフィーリアも、素直に彼に甘えることにした。
「どうか、無理はなさらぬように。体調が悪くなったらすぐに下がってください」
「もう、仕方ないわね! こうなったらキリキリ働いてもらうわよ!」
その一方で、将軍型のレッドラムはこの状況を見て、目元がニヤリと笑っていた。
決して彼にとって好ましい状況ではない。
むしろ悪い状況だ。敵が増えたのだから。
なぜ、彼は笑ったのだろうか。
「コレデ一人、死ンダモ同然ダナ」