第1361話 調子が悪い
スピカ型のレッドラムの”念動力”を受けて、マードックが無力化されてしまった。
現在、マードックはスピカ型の足元に転がされている。彼は脳が無事な限り、義体をどれだけ破壊されても死に至ることはないが、このままでは彼の脳まで破壊されるだろう。
そこへ、ジャックが援護に入った。
スピカ型の右から走り寄り、殴りかかる。
「うおおおッ!!」
「それは悪手でしょー。仲間がやられて気が動転したかなー?」
スピカ型が右手をジャックへ向ける。
マードックにやったのと同じように、ジャックの義体も故障させるつもりだ。
しかしその時、スピカ型がハッとした表情を見せる。
「この少年……心が読めない? いや、心が無い。そういえば、最初に戦った六人の兵隊さんたちの中に、霧で幻影を作り出せる能力者がいたね……!」
スピカ型の言う通り、この走り寄ってきたジャックは、ローガンチームのカイン曹長が”濃霧”の能力で生み出した幻影だ。マードックが倒れたのを見て、ローガンチームも戦闘に復帰した。
そして、幻影のジャックの反対側、スピカ型の左方向から、同時に本物のジャックも走り寄ってきていた。彼の必殺技、”パイルバンカー”の構えを取りながら。
「もらったぁぁッ!!」
ジャックの鋼の拳が突き出され、スピカ型のバリアーに激突。
拳は、先ほどマードックが殴りつけてヒビを入れた箇所に命中した。
拳を当てると、ジャックは素早く後退し、アカネの名を呼んだ。
「アカネ! ブチ破れ!」
「……ああ!」
返事をしたアカネが、ジャックと入れ替わりでスピカ型に接近。両腕ごと刀を引き絞り、踏み込みの勢いも乗せた力強い刺突を放つ。
「バリアーごと串刺しだよッ!!」
……ところが。
アカネが刺突を繰り出すより早く、スピカ型が右手で”念動力”の衝撃波を発生させる。アカネの目の前でだ。
回避する暇など無い。
アカネは、スピカ型の衝撃波を顔面に喰らってしまった。
「くぁ!?」
回転しながら吹っ飛ばされるアカネ。首がもげてもおかしくない威力だったが、無意識的に脱力して受けたことで、ダメージの一部を受け流し、即死を免れることができた。
だがそれでも、強烈な衝撃だった。
脳も揺さぶられ、アカネは立つことができずにいる。
「ちッ……しくじった……!」
「おいアカネ、大丈夫かよ!?」
起き上がろうとしていたアカネを、ジャックが助け起こす。
どうにか立ち上がれたアカネだが、まだ足がふらついているようだ、
ジャックはアカネを支えながら、彼女に声をかけた。
「なぁアカネ。オマエ、調子悪いのか? さっきの刺突、いつものオマエならもっと早く合わせてただろ? さっきのデュラハン型を相手した時もそうだ。デュラハン型に弾き飛ばされた時、受け身をミスってよく地面に転がされてたよな? 普段のオマエなら絶対にありえないミスだ。なんというか、今日のオマエ、全体的に動きが固いんだよ」
その言葉に、一瞬だけピクリと固まるアカネ。
図星を突かれたかのように。
アカネの中のレイカも「言われてみれば」と感じた。
「……さぁてね。アタシゃいつも通りにやってるつもりだけどね?」
「レイカがいねぇからか? やっぱりアイツと一緒じゃないと調子出ねーんじゃ……」
(そうなのアカネ? やっぱり私も一緒に戦った方が……)
「レイカは関係ない。それよりほら、無駄話してないで戦闘再開するよ! ローガンチームがスピカ型の気を引いてくれてるけど、このままじゃローガンたちが危ない!」
「あ、ああ! 仕方ねーな!」
返事をして、ジャックはアカネと共にスピカ型へ攻撃を仕掛けに行く。
アカネが言っていた通り、現在はローガンチームの六人が、スピカ型と交戦中だ。ローガン、ニコ、ロドリゴ、ジョーンズの四人が後方から射撃し、ブレード兵のカインとリリアンが斬りかかる。
だが六人の攻撃では、スピカ型のバリアーはビクともしない。
銃弾を受けても。鉄をも切断する高周波ブレードで斬られても。
スピカ型はバリアーで攻撃を防ぎつつ、”念動力”でブレード兵の二人を捕まえようとしているが、今のところ二人は回避できている。しかし、いつ捕まってもおかしくなさそうな危なっかしさだ。
ここで、リリアンが勝負を仕掛ける。
ブレードに冷気を纏わせながら、スピカ型の左に回り込む。
そして、スピカ型のバリアーの側面、マードックとジャックによってヒビを広げられた箇所を狙って、氷の刺突を繰り出した。
「決める……!」
……が、しかし。
それより早く、スピカ型がリリアンに向かって左の手のひらを突き出した。
スピカ型の左手から、螺旋状の”念動力”の波が撃ち出される。それは高周波ブレードを先端から持ち手部分まで捻り、そのブレードを持っていたリリアンの両手を捻り、両手から両腕へ、両腕から両肩へ……。
「……終わった。ごめん」
そして、螺旋の衝撃がリリアンの首まで到達。
首をゴギリ、と捻られて、リリアンは死亡してしまった。
「リリアン! アンタよくもっ!!」
ニコが怒りの声を上げて、スピカ型にアサルトライフルの銃口を向ける。
スピカ型は、そのニコのアサルトライフルに右手を向けて、右手を左方向へ薙いだ。
すると、ニコのアサルトライフルの銃口も左へ向けられる。
その銃口の先には、老兵のローガンが。
スピカ型を射殺しようとしていたニコは、そのまま引き金を引いてしまう。
「ぐぁ!?」
「え!? あ、お爺ちゃん!?」
すかさずスピカ型が、先ほど殺したリリアンの手から高周波ブレードを奪い取り、それを”念動力”でローガンへ向けて射出。
たとえ捻られていようとも、ブレードの切っ先は鋭いまま。
まっすぐ放たれたリリアンのブレードは、ローガンの頸動脈を抉り、貫いた。
「ぬ……、抜かったわい……」
首筋から大量の血を噴き出して、ローガンも死亡してしまった。
「あ……ああ……」
自分の攻撃がきっかけとなって、ローガンを死なせてしまった。
ニコは悲しみと自責で、頭の中が真っ白になってしまう。
ここで、ジャックとアカネが戦線復帰。
スピカ型の背後から、それぞれ接近して攻撃を仕掛けた。
「テメェよくも!! ブッ飛ばすッ!!」
「叩き斬るッ!!」
……が、スピカ型は二人の方を振り返ることなく、”念動力”で二人の動きを封じてしまった。
「ぐ!? しまった、動けねぇ……!」
「こ……んのヤロ……!」
そのままスピカ型は、二人を前方へ勢いよく投げ飛ばす。
その先にはローガンチームの面々がおり、ジャックはロドリゴとジョーンズに、アカネはカインに激突してしまう。
「うぐッ!?」
「おわっとぉ!?」
「うわ!? ジャックくん、大丈夫かい!?」
「っと……! 大丈夫っすか、アカネちゃん?」
「ああ、なんとか……」
幸い、五人のダメージは軽いものだったが、体勢は大きく崩されてしまった。アカネはカインが完璧に受け止めてくれたが、ジャックたち三人はまだ立て直しができていない。
そこへ、スピカ型が悠々と接近してくる。
アカネはすぐにスピカ型の前に立ち、彼女を牽制。
するとスピカ型は、なにやら面白いものを見つけたような様子で、口を開いた。
「健気だねー。そんな状態の心で、ワタシの前に立つなんて」
「あん? 何のことだい? 別にアタシはいつも通り……」
「隠しても無駄だよー。キミ、戦いを怖がってるよね?」
その言葉を聞いて、ジャックたちアメリカチームの皆が固まった。
誰もが目を丸くして、アカネの方を見ていた。
「アカネが……戦いを怖がってるって?」
「あの、一度戦い始めたら、敵の血を見るまで止まらないアカネがっすか?」
この皆の問いかけに対して、アカネは気まずそうに沈黙していた。