第1360話 アーリア最強の超能力兵士
ARMOUREDの三人が、スピカ型のレッドラムに対して優勢だ。
今も、ジャックが放った弾丸を避けるために、スピカ型が”瞬間移動”を行使。その移動先を先読みして、アカネが刺突を仕掛けた。
「そんだけ”瞬間移動”を使えば、移動先も読めてくるってモンだよ! らぁぁッ!!」
「わっと……」
スピカ型は左へ身体を傾け、アカネの刺突の回避を試みる。
腹部を狙って突き出されたアカネの刀は、スピカ型の右わき腹を浅く抉った。
「く……!」
スピカ型がアカネを突き飛ばし、距離を取る。
そして間髪入れず、スピカ型がエネルギーを集中。
「はぁぁぁ……!」
「む、これは……! ジャック、アカネ、私の後ろへ退避しろ! 恐らくは全方位への広範囲攻撃だ!」
「ラジャー! 肉壁頼むぜ!」
「耐えてよね、大将!」
指示を受けて、ジャックとアカネはマードックの後ろへ。
一方、ローガンチームの六人も石壁の後ろで固まる。
「こりゃいかん! 皆、しっかり隠れるんじゃ! はみ出すでないぞ!」
「了解」
「ロドリゴ、アンタもうちょっと詰めてよ!」
「もうこれで限界だぜニコちん~!」
「やぁーっ!!」
スピカ型が叫んだ。
そして、”念動力”の衝撃波が、彼女を中心として波紋のように放たれた。
地面の石畳を吹き飛ばし、その下の土を剥き出しにするほどの威力だったが、マードックはどっしりと構えて衝撃波を耐えた。ローガンチームも、石壁は吹き飛ばされて隊員たちも少し転がされたが、ダメージはほとんど受けていない。
そして、この衝撃波は、スピカ型が人間たちを自分ごと閉じ込めるように展開していたバリアーフィールドも一緒に粉砕した。
邪魔なバリアーが消えて、遠くのビルからスピカ型を狙っていたコーネリアスは、素早く射撃体勢に入る。
「今なラ……!」
……だが、スピカ型はすでにバリアーを展開し直していた。今度は人間たちを閉じ込める大きなバリアーではなく、自分だけを包み込む球状のバリアーである。
「ちィ……! もうバリアー破壊のためニ狙撃してしまおうカ……。いヤ、やはりまだ待っタ方がいいナ……」
居場所がバレたら、真っ先に狙われるのは自分。
コーネリアスは冷静さを取り戻し、再びスピカ型に狙いだけ付ける。
視点は戻り、スピカ型と直接対決しているARMOUREDの三人。
ジャックとアカネが、盾になってくれたマードックの後ろから出てきた。
「大丈夫だったかよ、マードック?」
「なんとかな。思ったより強烈な威力だった」
「……ねぇ、ちょっと見てみなよ。アイツ、雰囲気が変わったよ」
そう言って、アカネがスピカ型に目を向ける。
今まで気楽な、ともすれば人間たちを見下していたような微笑みを絶やさなかったスピカ型。今も微笑みを浮かべてはいるが、目が笑っていない。その微笑みには陰がある。
「なるほどね……。キミたちの実力を過小評価していたよ。それならこっちも態度を改めなくちゃね。もうなりふり構わない。アーリア最強の超能力兵士の名に懸けて、ワタシができる全てを使わせてもらうよー……!」
そう言うとスピカ型は、”念動力”のウェーブを発射。巻き込んだものを捻じ切りながら迫る、螺旋状のエネルギー波だ。
「回避しろ! あんなのに巻き込まれた即死だ!」
「オーライ!」
ジャックが右へ、アカネとマードックが左に動いて、スピカ型のサイコウェーブを回避。彼らの背後にあったタクティカルアーマーの残骸がウェーブに巻き込まれ、タオルでも絞るかのように捻られた。
ジャックがスピカ型に発砲。
鉄板だって貫通するデザートイーグルの弾丸。
しかし、スピカ型が展開するバリアーに阻まれてしまう。
「またバリアーを剥がねぇとな……」
すると、スピカ型がジャックの頭上に、たくさんのエネルギー球を作り出した。
そのエネルギー球が一斉に破裂。
ジャックがいる地上に、ビームの雨が降り注ぐ。
「うおおおっ!?」
ジャックは急いでその場から逃げて、どうにかビームに巻き込まれることは避けた。
スピカ型がジャックに気を取られている間に、アカネがスピカ型の左から接近。あっという間に距離を詰めて斬りかかる。
「やぁぁッ!!」
だが、アカネの斬撃は外れた。
スピカ型は”瞬間移動”を使い、アカネから離れていた。
スピカ型が、自分の左右に十個のエネルギー球を生成し、横一列に並べる。スピカ型自身も両手でエネルギー球を生成。
そして次の瞬間、計十一個のエネルギー球が、一斉に前方へ向けて太めのビームを発射。その先にいるアカネに迫ってくる。
「やっば……!」
右にも左にも避けられない。
しゃがむのも駄目だ。ビームは地面を削りながら迫ってくる。
アカネは真上に飛んだ。
義足による強力な脚力で、彼女はビームを楽々と飛び越えた。
しかし、その飛んだ先。
アカネの真上に、スピカ型が待ち構えていた。
「やぁ」
「しまっ……」
スピカ型が右手から衝撃波を放った。
強烈な衝撃により、アカネは地面に吹っ飛ばされ、叩きつけられた。
「あぐっ!?」
叩きつけたアカネを追い詰めるべく、スピカ型は”瞬間移動”。
地面に倒れているアカネの前に姿を現す。
そのスピカ型に、マードックが右拳を打ち込んだ。
「ぬぅんっ!!」
ガントレットによる拳の威力の増大化。
トラックだって殴り飛ばせるのでは、と思うほどの衝撃がスピカ型のバリアーに叩き込まれる。
ところが、スピカ型のバリアーには、ヒビが一つ入っているだけだった。
「馬鹿な……。先ほどと比べて、バリアーの強度が飛躍的に上昇している……!」
すぐに拳を引いて距離を取ろうとするマードック。
だが、動けない。
スピカ型の”念動力”に捕まってしまった。
「ぬ……!」
そしてスピカ型は、マードックの動きを封じながら、話しかけてきた。
「さっきはさー、ワタシへの狙撃を防ぐため、そして他の人間たちを逃がさないために、大きなバリアーを張ってキミたちを閉じ込めてたじゃん? あれだけのサイズのバリアーを張ると、けっこうエネルギー使うんだよねー。でも今はそれが無い」
「だから、我々を閉じ込めるために使っていたエネルギーを、お前自身の防御や我々への攻撃に回せる、ということか……!」
「察しが良いね、キミは」
そう告げて、スピカ型の右手の指が動く。
その瞬間、マードックの義体の内部でバキバキと音がした。
そして、マードックの黒鉄の巨体が、地面に倒れ込んでしまう。
どうやらスピカ型の”念動力”によって、マードックの義体の内部機構が破壊されてしまったようだ。
「効率よくやるなら、これだよね。キミたちは、その義体の内部をちょっといじってあげるだけで無力化できる。これはキミたちの装甲を無視できるワタシだからこそできる芸当。だから実際のところ、キミたちにとってワタシは相性最悪の相手なんだよ?」
「ぬ……ぐっ……!」
右腕しかロクに動かせない状態で、マードックは悔しそうにスピカ型を見上げた。