第1359話 世界最高の連携力
ARMOUREDのジャック、アカネ、マードックの三人が、スピカ型のレッドラムと戦闘を繰り広げている。
その様子を、ローガンが生成した岩壁の後ろから覗き見るローガンチームの面々。彼らは先んじてスピカ型と戦闘をしていたため、今は戦闘をARMOUREDに任せて、彼らは消耗の回復に専念中だ。
そして彼らは、ARMOUREDの戦いぶりを見て、感心していた。
「YOー……。こりゃすげぇや、パネェや、マジやべぇや……」
「流石は、儂らアメリカチーム最強の対マモノ特殊部隊じゃのう……」
「こりゃ、手を貸すべきか迷っちゃうっすね。下手に俺たちが参戦したら、逆に彼らの息を乱しちゃいそうっす」
「……強い」
そんな彼らが賞賛するARMOUREDがどんな戦闘を繰り広げているかというと、恐ろしいほどに連携が取れているのである。
ジャックがスピカ型の正面から、二丁のデザートイーグルを射撃。スピカ型の頭部、心臓、両肩、両脚、とにかく撃ちまくる。
そのジャックの弾丸を、スピカ型が球状のバリアーで防御。
球状のバリアーの中にいるスピカは、どんな方向からの攻撃も防いでしまう。
ジャックが射撃を続けている途中で、スピカ型の右後方からマードックが接近。右腕に装着したガントレットで、スピカ型のバリアーを殴りつける。
「ぬぅん!!」
ガントレットを装着した拳が、スピカ型のバリアーに命中。その瞬間、轟音と共にバリアーが粉砕され、スピカ型本体も弾き飛ばされる。それほどまでに、マードックの拳の威力がすさまじかったのだ。
マードックが装着しているガントレットは、ただの防具ではない。エネルギーを直進移動に変換する装置……つまりアクチュエーターが搭載されている。
簡単に言えば、彼のガントレットは、ガントレット自体が内蔵するエネルギーによって、マードックの拳の威力を飛躍的に増大させる機能を持っているということである。
「おっとぉー!? 思ったよりすごい威力だねー!」
吹っ飛ばされながらも、スピカ型はまだ余裕な様子だ。あくまでバリアー破壊の余波で飛ばされただけなので、スピカ型本体にダメージはほとんどない。
その吹っ飛ばされていくスピカ型の背後に、アカネが目にも留まらぬ速さで回り込んだ。日本刀を改造した高周波ブレード『鏡花』を左に構え、飛ばされてきたスピカ型を狙って大きく右へ振り抜く。
「はぁぁッ!!」
……だが、アカネの斬撃は空振り。
スピカ型は”瞬間移動”を使い、アカネから離れた場所に姿を現した。
スピカ型が姿を現したその瞬間に、ジャックが素早くスピカ型を狙って射撃。
「喰らいな!」
「っと!?」
スピカ型は慌てて頭を傾け、眉間を狙ってきた弾丸を回避。
そこへ、今度はマードックが攻撃。右手のガントレットで自身の足元を殴り、粉砕した地面をスピカ型めがけて飛ばした。
「これはどうだ!」
しかし、スピカ型は”念動力”を行使。マードックが飛ばしてきた岩を受け止め、そのまま投げ返す。
「お返しするよー!」
そのスピカ型が飛ばした岩を切り刻んで、岩の向こうからアカネが飛び出してきた。あっという間にスピカ型に肉薄する。
「しゃあああッ!!」
……ところが、アカネの動きが止まる。
スピカ型が”念動力”を使って、アカネの動きを封じたのだ。
「うっ!? く……!」
「さーて、捕まえ――」
「遅ぇッ!!」
動きを封じたアカネの背後から、ジャックが飛び出してきた。
彼はスピカ型の右側面に回り込み、スピカ型のこめかみを狙って射撃。
スピカ型は上体を逸らして、ジャックの弾丸を回避してしまう。
「わっ!?」
だが、そのおかげで、アカネを捕らえている”念動力”の集中が途切れた。アカネはその瞬間を逃さず抵抗し、目の前のスピカ型へ無理やり斬撃を放った。
「らぁぁッ!!」
「く……!」
スピカ型は再び”瞬間移動”を使用。
アカネとジャックの背後の方の、バリアー領域の端へ移動した。
”瞬間移動”を終えたばかりのスピカ型へ、マードックが攻撃を仕掛ける。あらかじめ瓦礫を握り潰して作った石のつぶてを、右から左へばら撒くようにスピカ型へ投げつける。
「ぬんっ!」
マードックのパワーで石を投げれば、ただの石ころでも銃弾並みの威力になる。
スピカ型は自身の前にバリアーを生成し、マードックが投げつけてきた石を防御した。
「あぶな……」
そのマードックの肩を踏み台にして、アカネがジャンプ。
スピカ型に向かって飛びかかる。
「りゃあああッ!!」
「さすがにそんな真正面からの攻撃は通じないよー!」
……と、思ったスピカ型だったが、アカネの心を読んだ瞬間、嫌な予感がした。
(今、あの子、心が『攻撃』とは別の方向に向いたような……? この大振りの攻撃、まさかワタシの気を引き付けるための陽動……!)
そのスピカ型の予想は当たり。
本命は、マードックの後ろから飛び出してきたジャックの射撃。
「もらったぜッ!!」
狙いはスピカ型の左眼。
彼の射撃能力は、激しく動きながらの射撃でも正確無比の命中率を実現させる。
ジャックが放った弾丸は、まっすぐスピカ型の左眼へ迫る。
だが、アカネの攻撃が陽動だと、寸前のところで悟ったスピカ型は、ジャックの弾丸を避けるために、上体を大きく右へ傾けた。
ジャックの弾丸は、スピカ型の左の目元をかすめた。
かすめただけに終わったが、初めて人間陣営がスピカ型に与えたダメージだ。
その直後、陽動のための攻撃を仕掛けていたアカネが、そのままスピカ型へ斬りかかった。
「真っ二つだよッ!!」
「わわ……」
スピカ型は”瞬間移動”を使い、彼らの背後へ移動。
すると、ジャックが後方を見ないまま、スピカ型のいる方向へ大体の見当をつけてデザートイーグルを乱射。
”瞬間移動”直後のいきなりの攻撃に、さすがのスピカ型もジャックの心を読むのが間に合わなかった。一発、銃弾が右肩に命中。
「くっ……!」
ダメージで怯んだところへ、マードックが殴りかかる。
スピカ型は”念動力”でマードックを止めるが、すでにアカネがスピカ型に肉薄してきている。
やむを得ず、マードックを捕まえている”念動力”を中断し、スピカ型はまた”瞬間移動”でアカネから逃げる。
その逃げた先へ、すでにジャックが銃口を向けていた。
放たれた弾丸を、スピカ型はバリアーで防御。
このARMOUREDの連携力。
これにはスピカ型も戦慄した。
「いっそドン引きしちゃうほどの怒涛の攻め、そしてこの連携力の高さ。心を読むのが、追いつかない……!」
ゆえに、”読心能力”という超能力を有していながら、スピカ型はARMOUREDに追い詰められている。
スピカ型は知る由もないが、かつて狭山誠が予知夢の五人に向けて、ARMOUREDについて、こう評価したことがある。
『これはARMOURED全体に言えることだけれど、彼ら四人は一人ひとりが一騎当千の実力を持つ。けれど、彼らの真価はそこではない。彼ら四人を世界最強たらしめている最大の要因は、連携力だ』
『相手をするなら一度に二人まで。それも人数的に有利な状況が望ましい。一人でも向こうの人数が多くなれば、勝利の可能性は一気に減少する』
これこそがARMOURED。世界最強と称されたマモノ討伐チーム。
たとえ今の日向たちでも、連携力においては、ARMOUREDには及ばないだろう。