第1358話 こうして三人は駆けつけた
ARMOUREDの四人はユピテルの背中に乗って、スピカ型のレッドラムが出現している東エリアへ向かっている。
そろそろ目的地が近くなってきた。
そのタイミングで、コーネリアスが三人に声をかける。
「皆。俺はここデ別行動ヲとらせてもらウ」
「はぁ!? ちょっとアンタ何言ってんのさ!? アタシら、今からスピカ型と戦うんだよ!? 今からいったい何しに行くって――」
「待て、アカネ」
声を上げるアカネを、マードックが制止。
そしてマードックはコーネリアスの方を見て、声をかけた。
「少尉。何か考えがあるのだな?」
「悪いガ、詳しくは言えなイ」
「そうか、分かった。ではお前の好きに動いてみろ」
「感謝すル」
マードックに返事をすると、コーネリアスはここでユピテルの背中から飛び降り、近くのビルの屋上に着地した。
「あ、行っちゃったよ!? 大丈夫だったのかよ大将?」
「少尉を信じる。アレは普段はふざけているが、ここぞという場面でふざけ倒すような男ではない…………よな?」
「いや最後の最後でアンタまで不安がってんじゃないよ」
「まぁいいじゃねーか。アイツが単独行動なんて今に始まった話じゃねーだろ。俺たちが前線で戦って、狙撃手のアイツが遠くから狙撃。なんなら今回もそれが目的なんじゃねーの?」
そのジャックの推測は正しい。
コーネリアスは、スピカ型のレッドラムを狙撃するために、仲間たちと別行動をとった。
その目的を仲間たちに伝えてしまったら、スピカ型は仲間たちの心を読み、コーネリアスが狙撃しようとしていることを察知してしまうだろう。だから、単独行動の詳しい理由を説明することができなかった。
「幽霊の……こちラ側のスピカは言っていタ。スピカ型のレッドラムヲ倒すにハ、俺の狙撃ガ最も効果的だろうト」
つぶやきながら、コーネリアスは対物ライフルにバイポッドを取り付け、ビルの屋上の端に固定。スコープを覗き込み、狙いをつけ始めた。
「光剣型の話ガ出た時ハ、話ガどんな方向へ転ぶか内心緊張していたガ、こちらノ予定通りスピカ型ノ相手をすることになっテ助かっタ。この仕事、確実に成功させル」
そして、ようやくユピテルが目的地に到着。
ARMOUREDの三人はユピテルの背中から飛び降り、地上へ着地した。
ニコがジャックたちに声をかけてきた。
「ARMOURED! やっと来た! 遅いよ!」
「悪ぃ、けっこう急いだんだけどな。手遅れだったか……」
「テイラーたちがやられちまってんな。アンタらの犠牲は必ず活かす。ゆっくり休みな……」
「”瞬間移動”の超能力により、瞬時に戦線離脱も復帰も可能なスピカ型を捕捉したまま逃がさないためには、誰かがスピカ型の注意を引いて、その場に縛り付ける必要があった。これ以上の犠牲は出さん。ここから犠牲になるのは、あの邪悪なレッドラムだけだ」
力強いマードックの言葉。
ローガン隊の面々は、いったんARMOUREDの後ろへ下がる。
一方、スピカ型はARMOUREDの面々の方に眼を向け、ジッと見つめてきている。恐らくは三人の心を読んでいるのだと思われる。
「キミたちが来るであろうことは、ここにいる兵士さんたちの心を読んで分かってたよ。犠牲になった彼らは、キミたちをワタシにぶつけるための生贄だったワケだね。でも、甘いんじゃない? キミたちが来たらワタシは逃げて、他の弱い兵士さんたちを襲いに行くっていう発想、無かったのかい?」
スピカ型はそう言うが、それに対してマードックが動じずに返答。
「逃げんよ、お前は。あれだけ好き放題に人間のことをなじっておいて、我々という『人間』が来たら逃走するというのは、実に臆病で滑稽だ。それからどれだけお前がレッドラムとして猛威を振るおうと、人々はお前を指さして笑うだろう。そうなればお前の怨みは晴らせない。だからお前は、ここで我々から逃げるワケにはいかない」
「よく分かってるじゃん」
ニヤリと微笑むスピカ型。
ARMOUREDの三人も身構えた。
両者、いつでも戦闘を開始できる体勢。
その状態のまま、再びスピカ型が話しかけてきた。
「そういえば、キミたちのお仲間の狙撃手さんがいないねー? 遠距離からワタシを狙撃するつもりかなー?」
「知らんな。奴とは途中で分かれた。お前を狙っているのか、別の標的を狙っているのかも、我々には分からない」
そう答えるマードックの心を、スピカ型は読んだ。
嘘は言っていない。マードックは本当に、コーネリアスの行方も、単独行動の目的も把握していない。ジャックとアカネも同じだ。
「狙撃手の人は、彼らに何も伝えず単独で行動してるってことなのかなー。それはちょっと厄介だね。いくらワタシでも、超遠距離にいる相手の心までは読めない。ここにいるお仲間さんたちの心を読んで狙撃のタイミングを計れたら良かったんだけど、彼らも狙撃手がいま何をしているか分からないのであれば、このプランは使えない」
スピカ型は少し、面白くなさそうな顔をした。
……だがすぐにまた、スピカ型は不敵に微笑む。
「まぁ……対策しないワケにはいかない攻撃なんだ、狙われているかどうか分からないのであれば、狙われている前提で考えるべきだよね?」
そう言うと、スピカ型は右手の指をパチンと鳴らした。
すると、この周囲に巨大な円形状のバリアーが出現。中心にいるスピカ型ともども、ARMOUREDとローガンチームをバリアーの中に閉じ込めてしまった。
「なんだ? アタシらをバリアーの中に閉じ込めた?」
「おい、こりゃヤベーぜ。もしコーディがスピカ型を狙撃するつもりならよ、これじゃバリアーで射線が通らねーじゃねぇか」
「あ! 確かに……」
「ローガンチームまで我々と共にバリアー内に閉じ込められている。この閉所で、これだけの人数だと、下手に銃を乱射したり爆発物を乱用したりすれば、味方を巻き込む恐れがあるな……」
「通信機も使えなくなってるみたいだよ。今この空間はバリアーの密室。バリアーが電波を弾いちゃってるんだ」
「ふふ……さて、どうするね地球の皆さんー? このバリアーから出るころには、みんな揃って死体だよ?」
そう告げて、スピカ型が改めて戦闘態勢。
だが、ARMOUREDも負けていない。
「へっ、ナメんなよ。元よりテメーを正面からぶちのめすつもりで来てるんだぜこっちは。ちょっとバトルフィールドが狭くなっただけのことだ、何も問題はねぇ」
「我々ARMOUREDの戦闘術を甘く見ないでもらおうか、侵略者!」
「ふーん、なるほど、ハッタリじゃないみたいだねー。いいよ、かかっておいでよー!」
互いに啖呵を切り終えて、ARMOUREDとスピカ型がバリアー内で戦闘を開始した。
一方で、コーネリアスはというと、やはりスピカ型がバリアーフィールドを展開したことで、思わず忌々しげな表情を浮かべていた。
「おのレ……! これでハ狙撃ができなイ……!」
バリアーを破壊するために狙撃してみようか、とも考えたコーネリアス。
しかし、それは止めておいた。
下手にバリアーを狙撃したら、スピカ型に自分の居場所を知らせることになってしまう。
スピカ型には”瞬間移動”の超能力がある。その気になれば、今からARMOUREDとの戦闘を中断し、一瞬でここまで移動してくることも可能だ。
それをスピカ型がしてこないのは、まだコーネリアスの位置が分からないからだ。彼の居場所を掴んだ瞬間、スピカ型はすぐさまコーネリアスを始末しにかかるだろう。彼女の能力をもってしても、コーネリアスの狙撃は脅威だからだ。
距離を詰められたら、狙撃兵は脆い。
おまけに今、コーネリアスは単独行動中であり、頼れる仲間はいない。
スピカ型に狙われたら、まず無事では済まないだろう。
「ここハ……耐えル。三人にハ負担をかけテしまうガ、必ず最高ノ狙撃のチャンスが来ることニ賭けテ、今は狙いヲ定め続けよウ」
そうつぶやいて、コーネリアスは再び対物ライフルのスコープに右目を落とした。