第1357話 彼らの誓い
ARMOUREDの四人が、南エリアのサミュエルチームに所属するルカン少尉からのSOS通信を受け取った。
『こちらルカン! ちょっとマズい状況だ! ARMOUREDか、予知夢の五人か、とにかく誰でもいい! 今すぐ応援を要請する! このままじゃ命の危機だ!』
「む……!? こちらマードック! いったいどうしたのだルカン! 詳しい状況を報告しろ!」
『大尉か!? ああ聞いてくれ、光剣型のレッドラムが出た! 今は中尉とリカルドが抑えてくれているが、あの二人でもいつまで保つか分からねぇ! ヤツはこちらの最大戦力を集めてボコるって話だろ? 早く加勢してくれ!』
「ぬぅ……ここで光剣型か……」
マードックは、苦い表情をした。
現在、光剣型のレッドラムだけでなく、スピカ型のレッドラムも東エリアにて出現が確認されている。そしてマードックたちはスピカ型を仕留めるために、ユピテルの背中に乗って東エリアへ向かっている最中だった。
光剣型は言うに及ばず、スピカ型も非常に手強い。こちらもミオンという対抗手段をスピカ型にぶつけるつもりだが、それだけではまだ足りないかもしれない。
そのためにARMOUREDもバックアップに駆けつけ、万全を期した状態でスピカ型を討伐するつもりだった。そしてスピカ型を速攻で始末してから、次の鮮血旅団の出現に備える予定だった。
そこへ、起こってほしくない事態が起こってしまった。
スピカ型と光剣型の同時出現。
そして、その相手をしている部隊が、どちらも非常に追い込まれている状況。
ジャックとアカネが、マードックに声をかけた。
「マードック! スピカ型はミオンって女に任せて、俺たちは光剣型の方へ行こうぜ! このままじゃサミュエルたちが危ないんだろ!?」
「そうだよ大将! 悩んでるヒマは無いよ!」
「ぬ……」
「大将! なに悩んでるんだよ!」
アカネに詰め寄られるマードックだが、彼は気まずそうに押し黙るままだ。
その時だった。
彼らの通信機から、光剣型を相手にしているであろうサミュエルの声が発せられた。
『ふん、なるほどそういう状況か。だったら取り消しだ。こちらに応援は不要! スピカ型を確実に始末しろ!』
「はぁ!? おいサミュエル何言ってんだ! そうしたら……」
『あぁ死ぬだろうな! だが覚悟の上だ! 俺達三人が犠牲になってでも、敵の重要戦力を確実に一つ減らすことの方が重要だ! 作戦前に言ったろう。勝てるのであれば問題ない、存分に負担を背負ってやる、とな!』
「そりゃ確かに言ってたけどよ!?」
『それに、忘れたわけではあるまい。この合衆国本土奪還作戦を開始する前に、我々が立てた誓いについて』
「そいつぁ……」
それを聞いたジャックもまた、マードックと同じように沈黙してしまった。
彼らは、この戦争が始まる前に誓った。
自分たちは、犠牲を恐れないと。
犠牲を出してしまうことを、厭わないと。
もしも、どうしようもないような強敵が出現したのなら、先陣を切る我らが命を賭して、その敵の弱点を見つけ出そう。
もしも、我らが往く先に深い谷があるのなら、先頭を行く我らが進んで穴の中に落ち、我らの死体で穴を埋め、後に続く者たちのための道になろう。
だから、生き残った者たちよ。
どうか、我らの犠牲を有効に活用してほしい。
我らの国を守るため、そして、この星を守るためならば、我らは喜んで奈落の底へ身を投じ、後に続く者たちのための道となり、土壌となろう。
アメリカのマモノ討伐チームは、作戦開始前に、皆がそう誓ったのである。
『故に! こちらに応援は不要! 東エリアのスピカ型を優先しろ! その代わり、必ず勝て! その後で光剣型にも必ず勝て! グラウンド・ゼロとやらにも絶対に勝て!!」
『冷静に考えてください! 我々三人の戦力を、三人合わせて百とすると、その百を助けるよりも、五千くらいの戦力を持つスピカ型を、少ない犠牲で確実に始末する方が有益です!』
『ちぇっ、通信した張本人だけどさ、こうなったら覚悟決めるぜ! そういうわけで、この通信は無かったことに!』
その声を最後に、サミュエルチームは通信を終了してしまった。
「……これでいいのかよ、マードック」
ジャックが、消沈した様子でマードックに声をかけた。
それに対してマードックは、耐えるように瞳を閉じるのみだった。
……しかし。
ここでまた、別の通信が入った。
飛空艇に乗っているミオンからだ。
『それがあなたたちの覚悟なのね。見事だわ、アメリカチーム』
「……聞き苦しいことを聞かせてしまったな。すまない、ミス・ミオン。我々は当初の予定通り、東エリアでスピカ型を……」
『でもね? 私はあなたたちアメリカチームとは無関係なの。そして、最終的に勝つためとはいえ、ここで助けられるかもしれない三人を見捨てるというのは、私は気に入らない。私が求めるのは、全部総取りの完全勝利』
「なに?」
『というわけで……私は彼らを助けに行かせてもらうわね~!』
「なっ……!?」
唖然とするマードック。
ジャックとアカネ、そしてコーネリアスも驚いている様子だった。
だが、ジャックはすぐにその表情を明るいものに切り替える。
「は、ははっ! アンタ最高だな! そうだよな、一か所に集合なんかせずに、俺たちとアンタでスピカ型と光剣型をそれぞれやっちまえば万事解決だよな!」
『そういうことよ~! 南エリアは私の方が近いから、私が光剣型の相手をするわね!』
「ラジャー! 一応確認だが、すぐに南エリアに駆けつけるためとはいえ、心を無にできるアンタがスピカ型と戦わなくても大丈夫なのか? 俺たちだけでも勝てるって判断してくれたんだよな?」
『私はいけると思ってるわ。超能力を抜きにした純粋な実力という点では、あなたたち四人がそろった状態なら、あの子を圧倒してる。戦い方さえ間違えなければ、勝機は十分にあるはずよ』
「オーケー。それ聞いて安心したぜ。……っつーわけでマードック、それでいいよな?」
ジャックがマードックに尋ねた。
マードックは、穏やかな表情でため息を一つ吐いて、返答した。
「ここまで話が進んでしまったら、もはや止める方が野暮だな。分かった、予定変更だ。ミス・ミオン、三人を頼む」
『了解よ~!』
「それと……感謝する」
『……ええ。任せておいてちょうだいな』
こうして、ARMOUREDの四人はスピカ型を倒すため、東エリアへ。
そしてミオンは、光剣型を倒すため、南エリアへ。
飛空艇の中でミオンが、スピカとアラムに声をかけた。
「そういうわけで二人とも、進路変更よ~! 面舵いっぱい~!」
「わかった! よいしょ……!」
「ま、なんとなく、こうなる確信があったよ。じゃあ光剣型を抑えてくれている三人にも、この嬉しいニュースをお知らせしなくちゃね」
そう言ってスピカは、サミュエルチームに通信を入れる。
「あーもしもし? サミュエルチーム、まだ生きてるかいー?」
『何とかな! お前はニホンチームの幽霊女か! 何の用だ!』
「良いニュースだよー。厳正な話し合いの結果、ワタシたちは今から、そちらに決戦兵器を投下することに決定しましたー」
『は……何?』
「というわけでミオンさん、いってらっしゃい。くれぐれも気を付けてねー」
スピカがミオンに声をかける。
その時すでに、ミオンは飛空艇の甲板の上へ。
その甲板からミオンは飛び降り、地上へ急降下。
”地の練気法”をフル稼働させ、道路を粉砕して着地した。
「よいしょ~!」
「む……!?」
「新手出現。後退」
サミュエルチームと光剣型の間に割って入るように着地したミオン。
まずはサミュエルたちに視線を向け、それから光剣型の方を見た。
「待たせてごめんなさいね、アメリカチームの皆さん。助けに来たわよ~」
「お前は……。ふん、マードックめ、相変わらず甘いヤツだ……」
「それで……あなたが光剣型のレッドラムね?」
「……敵性個体捕捉。データ照合、ミオンクヌリフェ。脅威度数、レベル5。最大級障害トシテ設定。警戒セヨ」