第1355話 狂い竜
パワーアップした巨竜型のレッドラムを相手に、日向たち三人が戦っている。
その日向たちを援護するべく、ラプター戦闘機部隊も再び巨竜型にミサイル攻撃を用意。
『目標、ロックオン。発射!』
空から音速で飛んできたミサイルが、巨竜型に直撃。
巨竜型は体勢を崩すも、すぐにその身を起こした。
まだ余力がある様子の巨竜型を見て、ラプター1に搭乗するノイマン准尉も苦い表情をしている。
「タイガー。今ので仕留め切れないとは、本当に恐るべき怪物だ」
『けど、効いてないわけじゃない! このまま日本チームの援護を続けるぞ!』
ラプター4のパイロットが、ノイマンのつぶやきにそう答えた。
……だが、その時だった。
地上から、ラプター4に向けて多数の飛来物が。
「あれは……!? ラプター4、狙われているぞ!」
『え? うわ!? いつの間に……わぁぁ!?』
飛んできたのは、ミサイル砲台型レッドラムが発射するミサイルだった。
まるで魚の群れが獲物に群がるように、いくつものミサイルがラプター4に命中。大きな爆発が起こり、ラプター4も跡形もなく破壊されてしまった。
「ラプター4! 応答しろ! ラプター4! ……くそっ! 通信チーム、今の攻撃は!? 敵ミサイル砲台は全て始末したはずじゃなかったのか!?」
『今、映像を分析しています! ……出ました! この街の北東、北西、南東、南西、四つのエリアにある不自然に開けた場所から、ミサイルが発射されたのを確認しました!』
「確かにあったな、そんな場所。地震で建物が倒壊した跡地かと思っていたが……。だが、そこにミサイル砲台の姿は見えないぞ!?」
『敵ミサイル砲台は透明化しています! 恐らくは自前の異能力で、自身の姿と気配を消していたのかと! ミサイル砲台は最初から四基ではなく、八基あったということです!』
「ミサイル砲台そのものが異能力者だからこそできるマネか……やってくれる!」
ここまで透明化したミサイル砲台が手を出してこなかったのは、戦況が人間陣営に傾いたところでひっくり返し、損害を与えると共に動揺させ、最初から八基投入するよりも大きな戦果を挙げるのが目的だったと思われる。
それを考えると、残酷な考え方だが、被害がラプター4だけで済んだのはある意味で幸運だったかもしれない。下手をすれば、もう一機か二機は墜とされていた。
だが、だからと言って許すつもりは毛頭ない。
このままでは日本チームの援護どころではないため、残ったラプター部隊はターゲットをミサイル砲台に変更。
さっそく日向の通信機に、ノイマンからの連絡が入る。
『タイガー。こちらラプター1! 新たな敵ミサイル砲台を発見した! すまないが、先にミサイル砲台を始末する! そちらの援護を一時中断させてもらう!』
「うぇぇ!? できるだけ早めに戻ってきてくださいね!?」
懇願する日向。
彼らもまた、戦況はかなり激しく、そして厳しい。
日向が通信している隙を狙って、巨竜型のレッドラムが突進を仕掛けてきた。全身に”地震”のエネルギーたる砂色のスパークを身に纏いながら。
日向は急いで右へ全力疾走し、巨竜型の突進の進路から退避。
巨竜型が、日向が立っていた場所を通り過ぎた。
その先のビルに巨竜型が激突。
ビルは一撃で半壊し、そのまま損害に耐えきれず崩壊。
今、巨竜型は日向たちに背を向けている。
攻撃のチャンス……かと思いきや、砂色のスパークを帯びた尻尾を振り上げた。
「ジャンプ!」
日向が叫び、日影とエヴァも跳躍。
巨竜型が尻尾を道路に叩きつけ、周囲に激震が走った。
それが終わると、巨竜型は赤黒い炎を吐きながら、日向たちの方を振り向いた。炎のブレスが壁のように、日向たちに迫ってくる。
「何モカモ灰ニナレ!!」
「エヴァ!」
「はい!」
エヴァが地面に手を突き、横長の岩壁を道路から生やす。
岩壁が防壁になってくれて、炎のブレスを食い止めてくれた。
その岩壁を、巨竜型が飛び越えてきた。
四つの脚に砂色のスパークを纏わせている。
「ジャンプ!」
日向たちはその場から離れ、巨竜型の着地のタイミングで跳んだ。
今回もタイミングはバッチリ。地面を走る震動を回避することができた。
「けど、さすがに攻撃が激しすぎだ! 近づけたもんじゃない!」
「無理やりにでも攻撃を通して、少しでもダメージを与えとかねぇと、いずれこっちが追い込まれるぞ。っつーワケで、行ってくるぞ!」
「いってら! あまり深追いはしすぎるなよ!」
日向の声を背に受けて、日影が”オーバーヒート”で離陸。巨竜型の背中に着弾した後、その大きな身体の周囲を飛び回って斬りつけまくる。
「おるぁぁぁッ!!」
「GUUUOOOAAAAA!!」
巨竜型も日影を追い払おうと、前脚を振るい、尻尾を振り回し、口から炎のブレスを吐く。
飛び回る日影を墜とすため、巨竜型があちらこちらに炎のブレスをまき散らす。日影は回避しているものの、ブレスのせいで周囲が火の海だ。日向とエヴァは動きにくそうである。
「また暑くなってきました……。巨竜型は至近距離の敵には炎を吐かないという話はどうなったのですか」
「俺が思うに、あの巨竜型は炎を吐くけど、巨竜型自身は炎への耐性は普通だと思うんだよね。ほら、あの前脚を見てみ?」
「本当です。地面に燃え移った炎に焼かれて、痛々しく焼け焦げてますね」
「だから巨竜型も、自分で自分を焼かないように、近くの敵に炎は吐かないと思ったんだけど、もうそんなことはお構いなしみたいだ。とはいえ、それは裏を返せば、俺たちはこのまま耐久戦を続けるだけで、巨竜型は自らの炎でどんどん体力を削っていくということでも……」
……と、その時だ。
巨竜型が日影の動きを捉え、右肩を突き出してタックル。
「GURROOOOO!!」
「ぐぁッ!?」
吹っ飛ばされて、日向たちの前に転がされた日影。
彼はすぐさま立ち上がり、何事もなかったかのように再度構える。
「大丈夫か日影!?」
「ああ。まだ”再生の炎”は生きてる」
その短いやり取りをしている間に、巨竜型が背中の翼を羽ばたかせながら、大きくジャンプして飛び上がった。
「GUURROOOAAA!!」
「あ、あいつ飛んだ!? エヴァ!」
「わかってます! 重力は今も効いています。このまま飛行はできずに落ちてくるはず……」
……ところが巨竜型は、落ちてはきたものの、日向たちめがけてまっすぐ落ちてきた。まるで初めから飛ぶ気など無く、日向たちを押し潰すのが目的だったかのように。そして、それを証明するかのように、全身に砂色のスパークを纏っていた。
「GUURROOOO!!」
「あいつ、最初から俺たちへの攻撃のために飛んだのか!」
急いでその場から離れようとする日向たち。
だが、先ほど巨竜型が吐き散らかした炎が邪魔で、とっさに動けない。
結果、日向たちの退避は間に合わず、彼らがいる場所に巨竜型が激突してきた。
「GAAAAAAAAA!!!」
「うわぁぁぁ!?」
「うおおッ!?」
「きゃ……!?」
とっさに逃げたため、巨竜型に直接押し潰されることはなかった。
だが、そのあまりの衝撃に、道路が完全に崩壊。
日向たち三人は、道路の下に空いていた空洞へと落下してしまう。
「うっ、ごほっ! げほっ! 背中から落ちた……。二人とも、無事か……?」
「はい、受け身は成功しました」
「こっちもだ。大したダメージじゃねぇ」
「二人とも身軽で羨ましいよ……」
しかし、のんびり談笑している場合ではない。
落ちてきた穴を見上げれば、地上には巨竜型の姿が。
そして巨竜型は、その大きな口から溢れんばかりの炎を蓄えながら、穴の中の日向たちを見下ろしていた。
「灰スラ残サズ焼キ尽クシ、コノ世カラ消滅サセテヤル!!」