第1354話 捕食と強化
巨竜型のレッドラムが、プリースト型のレッドラムを食い殺した。
その瞬間を、ちょうど日向たち三人も目撃していた。
突然に味方を攻撃した巨竜型を見て、日向たちも衝撃を受けている。
「あいつ、仲間を食った……?」
「いったい何のためにだ? あの修道女みてぇなレッドラムは、巨竜型を回復させてたじゃねぇか。害を与えていたワケじゃねぇのに」
「巨竜型が俺たちの仲間になる展開……とかだったら嬉しいんだけどなー」
「残念ですが、違うと思います。あの女性のレッドラムを食べたことで、巨竜型のエネルギーが高まっていくのを感じます」
巨竜型は、噛み砕いたプリースト型を咀嚼。
そしてゴクリと呑み込んで、日向たちに向けて声を発し始めた。
「GURRR……。オ前達カラ受ケタダメージハ大キカッタ。アノプリースト型デモ完治ニハ時間ガカカル程度ニハ」
「そうか、お前たちがあのまま回復を続けていれば、その隙を俺たちに狙われていた。プリースト型のバリアーも日影に破壊されたし。だからキリの良いところで回復を切り上げて、ついでにプリースト型を食べてパワーアップも同時に果たしたってことか」
「ソウイウ事ダ」
「けど……馬鹿だな。回復役がいなくなるって、それ相当な損失だろ? いくらパワーアップするからと言っても、自分で食べちゃうなんて。下手なパワーアップのために一人になるよりも、敵が複数の方が厄介なパターンって多いんだぞ」
「奴ハモウ用済ミダ。コレ以上、我ノ回復ヲ任セタトコロデ、回復デキルダメージ量ハ、タカガ知レテイル。ソシテ、オ前タチニ真ッ先ニ狙ワレテ始末サレテイタダロウ。ナラバ、ソノ前ニ我ガ有効活用シテヤロウト思ッタダケノコト」
すると、巨竜型の身体が震えだす。
まるで、彼の身体の内側からどんどん力が湧き上がってくるかのように。
バキバキバキ、という音と共に巨竜型の甲殻が進化、発達し、強化されていく。元からささくれ立って刺々しかった全体的なシルエットは、さらに刺々しく攻撃的なものに変化。背中などまるで針山だ。
肉体の変化が終わり、巨竜型が大きな咆哮を上げた。
日向が”星殺閃光”で抉った背中の傷も、ほとんど塞がってしまっている。
「GUURRROOOOOAAAAAAA!!!」
「背中の傷が消えた……。ダメージはほとんど回復されちゃったのか。俺もしばらくは”星殺閃光”を使えないし、まずい状況だぞ……」
「いえ、あくまで外側だけのようです。内部のダメージはまだ回復しきれず残っているはず。最初と比べて、あの竜が体力的には非常に弱っているという事実に変わりはありません。頑張れば、このまま私たちと戦闘機の攻撃で押し切れるかと」
「GRRR……! ソウサセナイ為ノパワーアップダ! 行クゾ!」
そう言うと、巨竜型が襲い掛かってきた。
右前脚を大きく振り上げ、叩きつける体勢。
振り上げられた巨竜型の右前脚に、砂色のスパークが奔る。
だが、見た感じ、日向たちはギリギリ叩きつけの射程範囲外だ。
「これなら、そんなに動かなくても当たらない……」
日向はそう考えたが、エヴァが慌てたように声を上げた。
「これは……いけない! 皆さん跳んでください!」
「え?」
「GRRUUOOO!!」
巨竜型が、右前脚を道路に叩きつけた。
すると、巨竜型の本来のパワーよりもさらに大きい衝撃が発生。
半径二十メートル近くにわたって、道路に大きな蜘蛛の巣状のヒビ割れが刻まれた。衝撃は道路の表面を伝播し、道路上に立っていた日向たちにも襲い掛かる。
エヴァと、エヴァの声にいち早く反応した日影は、事前にジャンプしていたので震動を回避することができた。
日向は、エヴァの声に反応するのが遅れてしまった。
その結果、道路に立っていた彼の両足から激震が伝わる。
「あああぁぁぁあ!?」
まるで足の骨の内側から、いくつものトンカチで思いっきり殴られたような衝撃。日向は立っていられず、道路の上に崩れ落ちた。
「日向がやられました!」
「クソ、トロいヤツめ! エヴァ、日向を助けてやれ! 巨竜型はオレが引き付ける!」
そう言って、日影は”オーバーヒート”を使用。
巨竜型の気を引くために周囲を飛び回り攪乱。
その間に、エヴァが日向の襟首を両手で掴んで引っ張り、彼を巨竜型の前から退避させた。安全な距離まで下げると、日向の脚のダメージを”生命”の再生力促進で回復させる。
「ぐ……助かったよエヴァ。けど、さっきの巨竜型の能力は……」
「どうやらプリースト型を捕食して、”地震”の異能を覚醒させたようです」
その日向とエヴァの視線の先では、日影と巨竜型が攻防を繰り広げている。
飛び回る日影に対して、巨竜型は炎のブレスをまき散らして撃墜しようとしている。しかし日影の飛行速度は速く、巨竜型の炎は当たらない。
隙を突いて、日影は巨竜型の頭部に激突。
しかし巨竜型も日影の接近を感知し、頭突きで反撃した。
「GRRRR!!」
「ちぃッ!」
巨竜型にダメージは与えたが、日影も道路に叩き落とされた。
それを見た巨竜型は、砂色のスパークを宿した右前脚でその場を踏みつける。
「日向! ジャンプです!」
「あ、ああ!」
巨竜型が右前脚で道路を踏みつけ、周囲に激震が響いた。
日影を狙った震動だったが、その攻撃範囲には日向とエヴァも入っている。
今回は、日向もジャンプが間に合った。
エヴァと日影も事前に跳んでおり、地震を回避。
「こ、これからは、俺を狙った攻撃じゃなくても、地震に巻き込まれないようにジャンプして回避し続ける必要があるわけか! きっついな!」
巨竜型は、今度は鼻頭に生えている角を、日影めがけて突き刺しにかかった。この角にも砂色のスパークが宿されている。
日影は”オーバーヒート”でその場から離れ、突き出された角を回避。
巨竜型の角は、日影がいなくなった道路を突き砕く。
再び激震が走り、日向とエヴァもジャンプで地震を回避。
道路に突き刺した角を、巨竜型が振り上げた。
粉砕された道路が波のように、前方の日向とエヴァに襲い掛かる。
「うわわわわ!?」
「急いで離れましょう!」
日向とエヴァは左へ走り、迫りくる地盤破壊から逃れた。
地盤破壊は、その先の一軒のビルを巻き込み、そのビルを倒壊させてしまった。
「れ、レッドラム一体食べただけで、このパワーアップかよ!? じゃあ仮に、ここでもう一体レッドラムを食べようものなら……」
逃げながら、最悪の可能性を想定する日向。
その時、逃げる彼の視線の先に、建物の陰から姿を覗かせる目付きのレッドラムらしき姿が。
「ククク。俺様ハ狼男型ノレッドラム。俺様ノ遠吠エヲ聴イタ者ハ皆、精神ニ異常ヲキタス……」
「また目付きだ! エヴァやれ! 消せ!」
「任せてください!」
「ナッ!? チョ、待ッ……」
エヴァの先制攻撃。
接近してからの”地震”の震動エネルギーで殴りつけ。
狼男型のレッドラムは爆発四散した。
「な、なんとか巨竜型に新しいエサを供給する事態は防げたか……。けど、”怨気”の炎の消火、地震の回避に加えて、ここに来た目付きのレッドラムを優先的に始末しろって? これ以上やることが増えたらキャパオーバーだ! まともに巨竜型と戦闘するどころじゃないぞ!」
悲鳴交じりの声を上げる日向。
戦況が悪い方向に傾いてきた。