第1353話 悪の十字架
巨竜型のレッドラムにトドメを刺すため、日向が”星殺閃光”の発動準備を行なう。
「太陽の牙……”最大火力”ッ!!」
日向の掛け声と共に、『太陽の牙』の刀身に長大な緋色の光刃が生成される。この光刃は異常なまでの熱を有しており、発現と同時に周囲を、そして剣の持ち主である日向をも熱波で焼き尽くす。
日向はこの熱波に”復讐火”で無理やり耐えながら、巨竜型のレッドラムに狙いを定め始める。
巨竜型のレッドラムもすでに、日向が”星殺閃光”の発動準備を行なっていることを把握している。あれだけは絶対に喰らうまいと、回避動作の体勢に入っている。
その巨竜型の回避を阻止するため、日影とエヴァが動く。
日向の熱波に巻き込まれるのを避けるついでに、巨竜型へと疾走する。
まずはエヴァが、左手を振り下ろした。
「堕ちよ……”アバドンの奈落”!!」
エヴァが詠唱を終えると、巨竜型のレッドラムを押さえつけていた重力がさらに強くなった。もはや巨竜型であっても、飛行するどころか、その場から歩いて動くことすら難しいくらいの強烈な重力場である。
「GU……OOO……!!」
巨竜型のレッドラムが忌々しそうにうなり声をあげ、エヴァの方を見る。
そして巨竜型は、自分の動きを抑制するエヴァを最初に始末するべく、彼女に向かって炎のブレスを吐き出す。
「GUOO――」
「させねぇぜッ!」
巨竜型がブレスを吐き出す前に、日影が”オーバーヒート”を発動。
左に向かって大きくカーブするように、巨竜型の側頭部に激突した。
「GUUOOO!?」
まるで隕石に直接殴りつけられたような衝撃。
巨竜型の頭部は大きく傾けられ、炎のブレスの軌道もエヴァから逸れる。
さらにそこへ、空からラプター戦闘機部隊がミサイルでダメ押し。
巨竜型の背中に数発のミサイルが撃ち込まれ、爆炎をまき散らした。
「GOOOAAAAA!?」
ミサイルの直撃を受けて、巨竜型の体勢が大きく崩れた。
それでもなお余力がありそうなのが恐ろしい。
だが、”星殺閃光”の火力ならば、その余力もまとめて消し飛ばせるはずだ。
日影とエヴァ、そして戦闘機は、足止めの役目を十分に果たしてくれた。
あとは日向が決めるだけ。
「喰らえ! 太陽の牙……”星殺――」
……だが、その時だった。
今まさに剣を振り下ろそうとしていた日向の背後から、何かが飛んできた。
飛んできたのは、十字架を模した両手大剣。
それが日向の背中に突き刺さり、胸まで刃が貫通した。
「がふっ……!?」
意識が飛ぶ。
日向の体勢が崩れ、前のめりに倒れる。
それでも日向は、なんとか巨竜型にトドメだけでも刺そうと、狙いが定まらないながらも剣を振り下ろし、”星殺閃光”を撃ち出した。
「く……おぉぉぉっ!!」
何もかもを焼却する灼熱の閃光が放たれる。
狙いは悪くない。まっすぐ巨竜型に向かって飛んでいる。
しかし巨竜型は、その場で大きく身を屈めた。
その結果、日向が放った光線は巨竜型の背中をかすめるだけに終わった。
どうやら妨害を受けたことで、狙いが上にずれてしまったようだ。
かすめただけとはいえ、やはり”星殺閃光”の威力は絶大。それだけで巨竜型の背中を大きく焼き抉った。
「GUUUOOOOAAAAAAAA!?」
今までの中で最も大きな悲鳴を上げて、巨竜型が倒れ伏した。
そして同時に、日向も倒れてしまう。
突き刺さっていたツヴァイハンダーは、すでに日向が発していた炎によって跡形もなく焼き尽くされている。
日影とエヴァも、ここでようやく日向が攻撃を受けていたことに気づき、声をかける。
「ひ、日向……!? 大丈夫ですか……!?」
「ごほっ……、な、なんとか。もう傷は”復讐火”で消えてる」
「それより今のは、どこのどいつの仕業だ!? 新手のレッドラムか!?」
「そういうことですよー」
どこからともなく返事が聞こえた。
そして、巨竜型の側に着地するレッドラムが一体。
現れたのは、プリースト型のレッドラム。
東エリアでローガンチームと交戦し、スピカ型のレッドラムによってここまで逃がされた個体だ。
プリースト型のレッドラムは、巨竜型のレッドラムに歩み寄ると、その巨躯に右手を当てた。
「随分と派手にやられちゃいましたねぇ。でも大丈夫! この私が来たからには、こんな怪我なんてパパっと回復ですよ!」
そう言ってプリースト型は、巨竜型に”治癒能力”を行使。先ほど抉られた巨竜型の背中の傷や、これまで日向たちが与えてきたダメージが回復していく。
「あいつ、巨竜型を回復させてる!」
「ふざけんな! おい日向、もう一発”星殺閃光”ぶっ放して二体まとめて黙らせろ!」
「そうしたいのはやまやまだけど、冷却時間中だよ!」
「じゃあオレとエヴァでやる! いくぞエヴァ!」
「わかりました……!」
まずは日影が”オーバーヒート”を発動。
巨竜型とプリースト型めがけて、まっすぐ飛んでいく。
これに対して、プリースト型は”念動力”のバリアーを発動。
日影の激突は防いだものの、バリアーは一撃で破壊された。
「ひぇぇ、アメリカ兵さんたちの攻撃は何度も防いだのに、あなたはたった一発ですか!?」
「テメェも一撃で消し飛ばしてやる!」
日影はUターンし、再びプリースト型たちめがけて突撃。
しかしここで、巨竜型が動く。
飛んでくる日影めがけて、赤黒い炎を吐き出した。
「GUUUOOOAAAAA!!」
真正面から炎のブレスを浴びせられる日影。
強烈な熱に包まれるが、日影は歯を食いしばって炎のブレスを正面突破。
「おるぁぁぁッ!!」
だが、日影の接近に合わせて、巨竜型は右前脚を振り抜く。
炎のブレスによって視界を遮られていた日影は、この右前脚を避けきれず、殴り飛ばされてしまった。
「ぐぁッ!?」
そして、まっすぐ吹っ飛ばされた日影の先には、雷撃でプリースト型を攻撃しようとしていたエヴァが。
「ひ、日影が飛んできて……きゃっ!?」
エヴァに日影がぶつけられてしまった。
おまけに、日影に付着していた赤黒い炎が、エヴァのローブにも少し燃え移る。
「あ、熱、熱いです! し、消火を! アフリカの子から編んでもらったローブが燃えちゃいます!」
「わ、悪ぃ! けど落ち着けエヴァ! まずはオレの火で”怨気”を消してからじゃねぇと!」
エヴァに燃え移った炎を消火するためにあたふたする二人。
その間にも、プリースト型のレッドラムは巨竜型の回復を続けている。確かに傷は塞がっていっているが、まだまだ完治には時間がかかるようだ。
「くぅ……受けているダメージが大きすぎますね……。多少の時間は稼げていますが、このままでは完治は間に合わない……」
「……イヤ、モウ十分ダ」
「え?」
巨竜型のレッドラムが喋った。
そして次の瞬間。
巨竜型は口を大きく開いて、プリースト型のレッドラムを噛み砕いた。