第1351話 南エリアのサミュエルチーム
日向がラプター1ことノイマン准尉に通信を入れる十分ほど前。
そして同時に、マードックたちが南エリアからのSOS通信を受ける十五分ほど前。
こちらはセントルイスの南エリア。
その一角に、壮絶な戦闘の跡が残されていた。
非常に多くのレッドラムが倒されたのであろう。この一帯が真っ赤になっていると言っても過言ではないくらい、道路も建物も血まみれだ。
そして、その場所に三人の人影。
一人目はブレード兵のサミュエル中尉。
二人目は氷の異能兵のリカルド准尉。
三人目はこの二人のチームに配属されていたルカン少尉。
190センチ超えの長身で、黒い長髪を三つ編みにしてまとめた、整った顔立ちの男性だ。
ルカン少尉は、何があったのか上半身裸である。軍人らしい、たくましい肉体を惜しげもなく披露している。上着が破れた跡が残っているので、もともとは服を着ていたようだが。
彼らは先ほどまで、ここで四体の目付きのレッドラムを同時に相手取っていた。その戦闘は壮絶を極め、犠牲も出してしまったが、どうにか三人は勝利することができた。
「少尉、准尉、まだ生きているな」
「うっす。なんとか無事ですよ」
「はい中尉。しかし、ロットとリザと、それからケインは……」
「……どうしようもなかった。弔いは後にして、次の行動に移るぞ。まだ戦闘は終わっていない。むしろ全体で見れば始まったばかりだろう」
「ええ、分かっています……。大丈夫です、自分は冷静です」
「なら良い。まだレッドラムの数は多い。次の標的を探すぞ」
足取りはやや重いながらも、リカルドはサミュエルとルカンと共にこの場を去るべく動き出す。
その時、彼らが持つ通信機から音がした。
どうやら他チームの通信が入ったようだ。
『タイガー。こちらラプター1。ミサイルは始末したが、先ほどから中央エリア上空の天候がピンポイントで悪くなってきた。恐らくは天候を操る敵の仕業と思われる。風が強い。雷もだ。このままでは巨竜型を相手する日本チームの援護が難しい。天候を操っている敵を見つけたら、速やかに始末してほしい』
『前線基地より連絡です。ラプター1の通信を受け、各隊員のヘッドマウントカメラや無人爆撃機からの映像を分析。天候操作をしていると思われる目付きのレッドラムが映っていたポイントを特定しました。ここからだとサミュエル班が一番近いです。討伐をお願いできますか?』
サミュエルチームに、新たなレッドラム討伐のミッションが舞い込んできた。激戦の直後、そして何より同僚を失った直後なので、精鋭軍人である三人もさすがに少し表情が曇る。
しかし軍人である以上、基本的に下ったミッションに対してノーとは言えない。すぐに感情を切り替えて、サミュエル中尉は返答した。
「こちらサミュエル、了解した。指定のポイントへのナビゲートを頼めるか?」
『分かりました。指示を出します』
「それから、三人死んだ」
『……了解です。彼らに安息があらんことを。他チームをそちらの応援に向かわせます』
「了解した。だが時間が惜しい。こちらはすぐに行動に移る。あるいは、応援が来る頃には片付いているかもしれんな」
通信を終えると、サミュエルたち三人は移動を開始。
目的地は、ここから近い場所にある自然公園。
敵は森林地帯に隠れており、空から戦闘機で攻撃するのが難しくなっている。
三人が指定のポイントに移動し、木々の陰から周囲を窺う。
道の真ん中にレッドラムの集団がいた。
集団の中央にいるレッドラムが、空に向かって何やら祈祷を捧げているような動作をしている。あれが天候操作をしている目付きのレッドラムだろう。中東のシャーマンのような姿をしたレッドラムで、金の瞳は両目部分と、胸に下げたネックレスの中央の装飾部分だ。
「集団に囲まれて祈りを捧げて……。なんか、カルト教団の教祖みたいだな」
「というか冷静に考えて、連中、一応は宇宙からの侵略者なのに、やたらとキャラが地球の文明に寄ってませんか? バリエーションも豊富ですし」
「オレたちを飽きさせないための創意工夫だったりしてな」
「その努力をもっと別の方向に向けてほしい……」
「お前たち、喋り過ぎだ。そら、向こうもこちらに気づいたようだ。声を聞かれたのではないか?」
サミュエルの言う通り、シャーマン型のレッドラムが、三人がやって来たことに気づいて、彼らの方を振り向いた。
「誰ダ! 我ガ神聖ナル祈祷ヲ妨ゲルノハ!」
「教えてやろうか! サミュエル中尉とリカルド准尉だ! 覚えておけ!」
「ルカン少尉、さりげなく自分を外してターゲットを逸らすんじゃない」
「冷静に考えて、せこい……」
「邪魔ハサセンゾ、愚カナ人間ドモ! オ前タチ、ヤレ!」
シャーマン型のレッドラムの号令を受けて、周囲の下位個体のレッドラムたちが戦闘態勢を取る。数は九体。全て通常型のレッドラムである。
「一人につき三体ですかね、冷静に計算して」
「向こうが素直にその割り振りで来てくれるなら、だけどねぇ」
そう言うと、ルカン少尉の全身の筋肉が突如として肥大化。ただでさえ長身で筋肉質だったのが、今では筋肉の巨人のようである。
これが彼の異能。
全身の筋肉を「進化」させる能力。
「進化」の単語が指す通り、ただ筋肉量が増えるだけではない。筋線維の性能そのものが上がり、同じ量の筋肉でも数段高いパワーを発揮することができる。
「パンプアップし過ぎて、使うたびに服が破けるのがたまにキズだけどな!」
「SHAAAAAA!!」
通常型レッドラムが向かってきた。
ルカンはまず右拳を大きく振り抜き、一体目の頭を吹き飛ばす。
二体目は左腕のラリアットで沈めた。
三体目は拳の叩きつけで地面ごと粉砕。
四体目は飛び掛かってきたところを捕まえ、顔面を握り潰す。
五体目は、引っかきにかかってきた右腕を掴んで、そのままグルグルとぶん回し、近くの岩に投げつけて破裂させた。
「少尉のおかげで、僕たちはあと二体ずつで済みますね」
「どうかな」
リカルドの言葉に、サミュエルがそう返事をする。
そして、前方にいる三体のレッドラムに向かってダッシュ。
すれ違いざまに奔る剣閃。
三体の通常型は、サミュエルの高周波ブレードによって八つ裂きになった。
「お二方、張り切り過ぎでは?」
肩をすくめて声をかけるリカルド。
そのリカルドに、最後の通常型レッドラムが飛び掛かる。
「SHA――」
……が、リカルドとの距離がほぼゼロになった瞬間、彼の周囲に発生している超低温の冷気により、通常型レッドラムは氷漬けになった。
その凍ったレッドラムを、回し蹴りで破砕するリカルド。
これで残るはシャーマン型、一体のみだ。
「時間が惜しい。さっさと片付けるぞ」
「うぃっす」
「了解」