第1350話 巨大な敵との戦闘術
こちらは日向、日影、エヴァの三人。
彼らは引き続き、巨竜型のレッドラムと対峙している。
三人は現在、巨竜型のレッドラムが”怨気”の炎をあまり吐かないよう、巨竜型との距離を常に至近でキープするように立ち回っている。
日向がイグニッション状態の『太陽の牙』で、巨竜型の右後ろ脚を三回斬りつけた。
「はっ! やっ! せやっ!」
超熱の刃は、巨竜型の硬い甲殻も楽々と焼き斬る。
巨竜型も日向の攻撃が気になったか、小ジャンプして方向転換。
素早く日向に向き直り、噛みつき攻撃を仕掛けた。
「GUOOO!!」
巨大な牙が一瞬で迫る。
日向は前もって回避行動に移っていたため、牙から逃れることができた。
「うおぅ!? 危なかった……」
その隙に、今度はエヴァが攻撃。
まずは巨竜型のわき腹に向かってジャンプ。
そして稲妻と、”地震”の震動エネルギーを込めた杖で、巨竜型のわき腹を殴りつけた。
「えいっ」
雷と激震が入り混じった、強烈な衝撃が響き渡る。
これには巨竜型も堪えたようだ。
ターゲットをエヴァに変更し、右前脚を振るった。
「GUUOOO!!」
「当たりません」
すぐさまその場から離れ、エヴァは巨竜型の前脚を避けた。
すると今度は日影が巨竜型に接近し、先ほどエヴァが殴りつけた巨竜型のわき腹めがけてジャンプ。
「”陽炎鉄槌”ッ!!」
エヴァが攻撃した箇所を、日影も炎の拳で殴りつけた。
大爆炎が巻き起こり、巨竜型が怯む。
「GUUUUU……!!」
三人の攻撃は効いているはずだが、恐るべきは巨竜型のタフさだ。これだけ三人から攻撃されても、まだまだ体力が半分を切ったようにすら見えない。
「野郎、下手な『星殺し』よりタフじゃねぇか?」
「もう少し、こちらも攻撃のペースを上げましょう」
「そうするか。だが、あまり踏み込み過ぎんなよ。ヒットアンドアウェイを忘れるな」
「わかってます」
やり取りを終え、日影とエヴァは再び巨竜型に接近戦を仕掛けに行く。
少し攻撃したら距離を取り、また少し攻撃して距離を取る。
これを繰り返し、少しずつ巨竜型の体力を削る。
巨大な敵との戦闘というのは、ある意味で「自分との戦い」のような面もある。
巨大ということは、おおよその場合、そのサイズに合わせて体力も膨大だ。それこそ、どれだけ攻撃しても、ちゃんとダメージを与えていることができているか、分からなくなってしまうほどに。
そして、敵が巨大だと、そのぶん攻撃できる箇所も多いということなので、この巨大な敵が動き回っているとしても、意外と攻撃のチャンスは多い。
ここで問題。
ちゃんと攻撃が効いているか分からなくなるほどの膨大な体力を持つ。
攻撃できる箇所とチャンスが多い。
敵がこれらの性質を持ち合わせている場合、戦闘を行なう人間にはどういう心理が働くか。
答えは、「少しでも多くダメージを稼ごうと、攻撃を欲張ってしまう」である。
あともう少し攻撃を当てれば、怯むかもしれない。
もう少し攻撃すれば、こちらの攻撃が効いているという、目に見える成果が手に入るかもしれない。
そういう心理が働き、人間は少しでも多く攻撃しようとしてしまう。
そうして踏み込み過ぎた人間を、巨大な敵が攻撃する。
そのサイズに見合った、強烈かつ広範囲な攻撃で。
しまったと思った時には、もう遅い。
人間は逃げること叶わず、攻撃に巻き込まれる。
これが、巨大な敵と戦闘することになった人間の、典型的な敗北パターンである。
だからこそ日向たち三人は、この巨竜型のレッドラムに対して、ヒットアンドアウェイを心がけている。踏み込み過ぎて敵の攻撃範囲から逃げられなくなるのを予防するためだ。
エヴァが”雷”と”地震”の杖を振るう。
攻撃は巨竜型の側頭部に命中し、巨竜型の頭が傾いた。
しかしすぐに巨竜型は復帰し、エヴァに噛みつきを仕掛ける。
その大きな口からは”怨気”の炎が漏れている。
あの口で噛みつかれたら、まず一撃死だろう。
エヴァもその場でジッとしてはいない。
すぐにその場を離れ、巨竜型の噛みつきを回避した。
巨竜型の側面に回り込んだエヴァ。
すぐ近くには日影がおり、協同して巨竜型の側面を集中攻撃。
「おるぁッ! うるぁッ!」
「えいっ、やっ」
「GUUOOO!!」
たまらず巨竜型は二人を攻撃。
だが、その時にはすでに、二人はその場からいなくなっている。
日影が攻撃を続けながら、エヴァに声をかけた。
「よぉエヴァ。今日は随分とアグレッシブに戦うんだな。ピッツバーグやコロンバスの時は、グラウンド・ゼロの地震を防ぐのに集中していて、ほとんど戦闘には参加しなかったじゃねぇか。助かるけどよ」
「ああ、そのことですか。今日は、私はグラウンド・ゼロの地震阻止に能力を使っていませんから」
「あ? つまり、ここでグラウンド・ゼロが地震を起こしたら……」
「直撃ですね。規模によっては、この街が全壊する恐れもあります」
「おいおい、大丈夫なのかよそれ」
「昨日も一昨日も、グラウンド・ゼロは地震を起こしませんでした。何か向こうも理由があるのかもしれません。その可能性に賭け、地震の阻止を捨て、私の戦闘力を存分に活かす。今回の戦闘ではそれが最善だと、そう判断しました。いざ地震が来ても、途中からで良ければ阻止そのものはできますから」
「なるほど、まぁ良いんじゃねぇか? 悪くないアイディアだと思うぜ」
「ちなみに、私も悪くないと判断して実行に移しましたが、発案者は日向です」
「前言撤回。クソみてぇなアイディアだな」
「お前ホントに俺のこと大嫌いだよな」
日影の後ろから日向の声。
単独で攻撃を行なっていた日向が、日影とエヴァに合流した。
そして巨竜型は大きくジャンプし、三人から距離を取り、同時に三人を自身の正面に捉えた。
「GURRRR……GUUOOOAAAA!!!」
「日向。そろそろトドメもいけるのでは?」
「いやどうかな……。あいつ、まだけっこう元気そうに見えるけど……」
「まだダメージを稼げってか? ったく、さすがにそろそろ疲れてきたというか、飽きてきたぜ。そもそも、アメリカチームの戦闘機が援護してくれるって話だったろ。アレどうなったんだ」
「それな。ちょっと通信入れてみようか」
そう言って日向は、前方の巨竜型に注意しつつ、ラプター戦闘機を操縦するノイマン准尉に通信を行なった。