第1349話 駆けつけたのは三人
ARMOUREDの四人は、ローガンチームがスピカ型のレッドラムと遭遇したという信号を受け取った。
「ついに来やがったか! 急いで駆けつけてやろうぜ!」
「ああ。今、予知夢の五人……いや、六人が連れてきた大鷲のマモノのユピテルに連絡を入れたところだ。彼は先ほど、ミス北園たちのチームをオフィーリアチームの元へ送り届けたため、現在は北エリアにいるようだ。ここに来るまで一分ほど時間がかかるだろう」
一分。
それはジャックたちにとって、非常に長く感じる時間だった。
戦闘行為というものは、たった一秒二秒で状況が大きく変わることなど珍しくない。特に、相手の命を刈り取る瞬間など、大抵の場合は一瞬だ。
ユピテルがここまで来るのに一分。
そして、ここから東エリアへ向かうのに二分弱。
三分近く待たせて、はたしてローガンチームは生き残ってくれているだろうか。
「それでも、待つしかねーな」
ジャックがつぶやく。
ここからジャックたちが走って駆けつけるより、大人しくユピテルを待った方が、ずっと早くローガンたちのもとへ駆けつけることができる。その事実に変わりはないからだ。
待っている間に、マードックは通信機を取り出す。
通話の相手は、シャオランの師匠であるミオンだ。
「ミス・ミオン。そちらにも連絡はいったか? スピカ型のレッドラムが現れたらしい」
『ええ、聞いているわよ~! 私は西エリアと南エリアの間あたりにいるのだけど、ちょうど今、ウチの飛空艇が来てくれたわ。そちらも拾っていきましょうか?」
「そうだな、ユピテルの到着に時間がかかるのなら……」
……と、答えかけたマードックだったが、すぐにその言葉を訂正した。
「……いや、大丈夫そうだ。どうやら特急便を手配していたようだ」
「ケェェン!!」
大鷲の鳴き声が、ARMOUREDの頭上で響き渡る。
ユピテルの声だ。
相当急いで来てくれたのだろう。一分はかかると思われていたユピテルの到着は、わずか三十秒ほどで完了した。
ユピテルは着地と同時に背中を差し出し、早く乗るようにARMOUREDの皆に促す。
「ケェェン!!」
「よっしゃ頼むぜゴールデンイーグル! 一つ、かっ飛ばしてくれよ!」
「ケェン! (僕は鷲だから、イーグルじゃなくてホークじゃないかな)」
ARMOUREDの四人を乗せて、ユピテルは東エリアへ向けて飛び立った。
その直後、マードックの通信機からミオンの声。
『どうやらそちらも上手く拾ってもらえたようね。それじゃあ現地で落ち合いましょう~』
「うむ。思考を自在に停止できるという貴女の能力、頼りにしている」
そう告げて、マードックはミオンとの通信を切る。
……だが、その直後。
また別のチームから通信。
南エリアを担当している兵士からのものだった。
「こちらルカン! ちょっとマズい状況だ! ARMOUREDか、予知夢の五人か、とにかく誰でもいい! 今すぐ応援を要請する! このままじゃ命の危機だ!」
◆ ◆ ◆
その一方で、こちらはスピカ型のレッドラムと対峙しているアメリカチームの兵士たち。
ニコやロドリゴ、それからカインが所属しているローガン隊に加えて、別のチームも応援に駆けつけてくれた。現在、十二人の兵士がスピカ型のレッドラムを取り囲んでいる。
「ふふ。頭数だけ、よくもまぁこんなに揃えて」
スピカ型がつぶやく。
その直後、ニコとロドリゴを含む八人の兵士がアサルトライフルを一斉射撃。
「ちょっとは顔色変えろっての……!」
しかし、スピカ型はバリアーを球状展開し、全方位から襲い来る弾丸をいとも容易く防いでしまう。
それからスピカは、右方向を一瞥。
そこには頑丈なアーマーに身を包んだ重装甲兵が、どっしりとガトリング砲を構えてスピカ型を狙っていた。
「ウォォォォ!!」
「悪いけど、毎回大人しくバリアーで受けてくれると思ったら大間違いだよ?」
そう言って、スピカ型が”瞬間移動”で姿を消した。
その直後に重装甲兵のガトリング砲が火を吹いたが、そこにスピカ型はいない。
するとスピカ型は、重装甲兵の右隣に現れた。
「ウォ!?」
重装甲兵は、構えているガトリング砲でスピカ型を殴り飛ばそうとする。
だがそれよりも早く、スピカ型が右腕を振るう。
薄いバリアーの膜が、重装甲兵の首筋を裁断してしまった。
「グォ……」
「こ、こいつ! よくも!」
仲間を殺され、怒った二人の兵士がスピカ型にアサルトライフルを向ける。
しかしスピカ型は、殺した重装甲兵の遺体を”念動力”で動かし、盾にする。
「う……!?」
遺体とはいえ、兵士たちは仲間を盾にされて、引き金を引こうとした指が止まる。
”念動力”が解除されたのか、重装甲兵がバタリと倒れた。
だが、その重装甲兵の後ろにスピカ型はいなかった。
「消えた!? どこへ……」
「ここですよっと」
二人の兵士の背後に現れたスピカ型が、左右の手を交差させるように振るう。
先ほどの重装甲兵のように、二人の兵士も首に深い切り傷を負わされて絶命してしまった。
今度は一人のブレード兵が、スピカ型に斬りかかる。
彼は”生命”の進化の異能で、腕力を大幅に強化している。
「きぇぇぇ!! 喰らえぇぇッ!!」
……だが、渾身の力を込めて振るったはずの高周波ブレードは、いつの間にか彼の手元から消えていた。
「……は!? 剣はどこに……!?」
周囲を見回すブレード兵。
すると、すぐ側で彼のブレードが、なぜか宙に浮いていた。
そのブレードがひとりでに動き、横一閃。
ブレード兵の首が斬り飛ばされてしまった。
これは、スピカ型がブレードを操っているのだ。
そのままスピカ型は、奪ったブレードを別のブレード兵に飛ばす。
狙いは兵士の首。白刃が高速回転しながら飛んでいく。
「くっ……!」
高周波ブレードを投げつけられたブレード兵は、とっさに自身のブレードを構えてガードしようとする。
だが、飛ばされたブレードは、その途中で急に不自然な勢いで軌道が落ちて、ガードを掻い潜り、彼の胴体を切り裂いてしまった。胴体真っ二つ一歩手前の、絶望的な致命傷だ。
「ごぽ……!?」
「ストライーク。バッターアウトー」
「さ……”念動力”で、剣の軌道を捻じ曲げたの、か……」
ブレード兵は血の海に沈み、起き上がっては来なかった。
これでとうとう、応援に来てくれたチームのメンバーは全滅してしまった。
「あ、アイツ……!!」
「許さない」
仲間たちが殺され、ニコとリリアンが怒りの表情を露わにする。
すると今度は自動操縦のタクティカルアーマーが現れて、スピカ型めがけて両腕のアサルトライフルを射撃した。
アサルトライフルとは言っても、タクティカルアーマーが使用するサイズなので、その威力は人間の火器とは比較にならない。
「なるほどねー。機械に心はない。だからアレにはワタシの”読心能力”は効かない。良い線行ってるけど……」
スピカ型が”瞬間移動”。
タクティカルアーマーの銃弾を回避し、同時に背後を取る。
「良い線は行ってるけど、結局ワタシが圧倒的に強いから意味ないんだよねー」
そう言って、スピカ型は右手を突き出して”念動力”を行使。
タクティカルアーマーがバギャバギャと音を立てて、内部機構が無残に破壊されてしまった。
「た、タクティカルアーマーが一撃っすか……。こりゃ本当にどうしようもないっすね……」
「関係ないよ! ペトロもトーマスもエリックもジェイもサムもスティーブも死んだ! あの女、絶対に私たちが倒す……!!」
「んー、熱くなってるねー。まぁワタシとしても、そろそろキミたちの顔は見飽きてきたところだし、そろそろキミたちにも死んでもらおうかな? 他にも人間は大勢いるし、キミたちばかりに構っているわけにもいかないんだよねー」
言って、スピカ型はローガンチームの六人の兵士たちに向かって歩き始める。
その時。
空から、三つの人影が降ってきて、着地した。
ニコたちとスピカ型の間に割って入るように。
「よーう! 待たせたな、真打登場だぜ!」
やって来たのはARMOUREDの三人。
ジャックとアカネ、そしてマードックであった。