第1348話 デュラハン型と軍馬型
ニコたちのチームが、まだ蜘蛛女型のレッドラムと戦闘している頃。
こちらは、西エリアにいるARMOUREDのジャックとアカネの様子。
彼ら二人もまた、二体のレッドラムと交戦している。
どちらも上位個体である目付きだ。
二体のうちの一体は、見上げるほどに大きくガッシリとした体格を持つ軍馬のレッドラム。そしてもう一体は、その軍馬型のレッドラムにまたがる首なし騎士……デュラハン型のレッドラムだ。デュラハン型の金色の瞳は、彼が右手に持つ両手剣の刃の付け根にある。
ちなみに、コーネリアスとマードックは別の目付きのレッドラムの相手をしている。二人からの援護は期待できない。
軍馬型のレッドラムが、デュラハン型を背に乗せて疾走。
蹄が道路を蹴るたびに、赤い稲妻が迸る。
「HIIIIIINN!!」
巻き込まれたらタダでは済まない。
ジャックが右、アカネは左に分かれ、軍馬型の突撃を回避。
回避の際、ジャックは軍馬型の右前脚にデザートイーグルの銃弾を撃ち込んだ。
左に回避したアカネが、馬上のデュラハン型めがけて飛び掛かる。
全体重を乗せた渾身の縦斬りだ。
「はぁぁぁッ!!」
だが、デュラハン型はこれを剣一本で防御。
そのまま剣を振り抜いて、アカネを吹き飛ばす。
アカネは上手く地面に着地。
そのアカネに向かって、デュラハン型が剣を縦に振る。
すると、剣から真空の刃が射出された。
アカネは右に飛んで、これを回避。
彼女が立っていた道路を抉るほどの、強烈な威力の剣風だった。
次にデュラハン型は、ジャックにも剣風を放つ。
彼の足を狙った、横薙ぎの一閃だ。
ジャックは宙返りしながらジャンプし、この剣風を回避。
着地するより早くデザートイーグルを射撃し、デュラハン型を攻撃。
しかしデュラハン型は、左手に持っている盾でジャックの弾丸を防いでしまう。
これを見たジャックは舌打ちし、次は軍馬型の右前脚を射撃。
「チョコマカト! 踏ミ潰シテヤル!」
デュラハン型が声を発し、軍馬型のレッドラムを走らせる。
ジャックを追い詰めて仕留めるつもりだ。
「こりゃやべーな!」
ジャックはデュラハン型たちに背中を見せて全力疾走。
走りながら後ろへ両腕を突き出し、デザートイーグルを射撃。
弾丸は軍馬型の胸や前足に命中したが、止められない。
ジャックが走る先はビルの壁だ。行き止まりである。
「追イ詰メタゾ! コレデトドメダ!」
デュラハン型の言葉と共に、軍馬型がジャンプ。
稲妻を帯びた蹄で、ジャックを粉砕しにかかる。
「そういうのを待ってたぜ!」
ジャックはそう言うと、目の前のビルの壁に向かってスライディング。
そしてビルの壁に両足をつくと、今度は両足でビルの壁を蹴り、自身の身体を真後ろへと押し出す。
後ろに向かって頭からスライディングをするような形で、ジャックはジャンプしてきた軍馬型の真下をくぐり抜けた。くぐり抜けるついでにデザートイーグルを発砲し、軍馬型の前足や腹部に銃弾を撃ち込む。
その後、軍馬型のレッドラムが着地。
着地と同時に赤い電撃が発生し、道路を粉砕した。
だが、もうその場所にジャックはいない。
「オノレ……!」
せっかく追い詰めたジャックを逃がしてしまい、忌々しそうに声を上げるデュラハン型。
今度はアカネが仕掛ける。
刀を構えながら、デュラハン型めがけて飛び掛かった。
刀の刃には、異能による真空刃が渦巻いている。
この構えた刀はフェイント。
本命は、刀に意識を引き付けてからの、義足による飛び蹴りだ。
「ふんッ!!」
だが、これはデュラハン型の盾にガードされた。
アカネは諦めず、さらに連続で蹴りを放つ。
しかし、デュラハン型は盾を振るい、アカネの蹴りを弾く。
彼女の体勢を崩してから、大きなモーションで横斬りを放った。
「KAAA!!」
アカネはとっさに刀を構え、デュラハン型の斬撃をガード。
刃は防いだが衝撃は防ぎ切れず、アカネは吹っ飛ばされて道路に叩きつけられた。
「くッ……! レイカみたいに上手くはいなせないね……!」
(アカネ、大丈夫!? やっぱり私が代わった方が……)
アカネの意識の中にいるレイカが声をかけてくるが、アカネはそれを拒否した。
「アンタはそのままゆっくりしてな! まだ心が揺れ動いてるじゃないか。そんな状態で戦場に出ても足を引っ張るだけだよ! コイツはアタシらだけで十分さ!」
「フン、無駄ダ! ソノヨウナ矮小ナ武器ト異能デ、我ラハ倒セナイ!」
そう言ってデュラハン型は両手剣を振り上げ、軍馬型のレッドラムを走らせる。
アカネは素早くその場から退避。
軍馬型は突進を続行し、その先のジャックへターゲットを変更。
「HIIIIIINN!!」
「やれやれ、確かにコイツぁ強敵だな。パワーは見た目どおり強ぇー。機動力は軍馬型が優れている。デュラハン型は盾持ちだから防御も優秀だし、何より二体の息はピッタリと来た。こりゃホントに勝てねーかもしれねぇな」
「分カッタナラ、大人シク死ヲ受ケ入レ――」
「バーカ。まだ気づかねーのか。主人公がこういうセリフを吐いた時は、もうこっちの勝ちが確定してんだよ」
ジャックはそう言うと、右に飛んで軍馬型の突進を回避。
そして回避しながら、軍馬型の右前脚をデザートイーグルで撃ち抜いた。
すると、軍馬型が体勢を崩した。
これまでジャックの銃弾を何度も受けても、微動だにしなかった軍馬型が。
「HIIINN!?」
「ヌゥ!? 何事ダ!?」
軍馬型が突然に体勢を崩したので、馬上のデュラハン型も同時にバランスが崩れる。
そこへアカネが飛び掛かった。
刀を鞘に納め、身体を横に倒し、回転しながら。
「シマッタ……!」
「『将を射んとする者はまず馬を射よ』ってな。このために軍馬型の右前脚に狙いを集中させてたんだよ。んじゃ、頼んだぜアカネ!」
「あいよ! 超電磁居合抜刀、サーキュラースピンッ!!」
身体全体を使って繰り出された、アカネの居合抜刀。
その斬撃は、デュラハン型も、その下の軍馬型も、まとめて真っ二つに切り裂いた。
ついでに、その二体が立っていた道路にも深い斬撃痕が刻まれた。
こうして二人は、二体の目付きのレッドラムを仕留めた。
周囲に敵影は無く、二人はしばしの休息。
ジャックがデザートイーグルのマガジンを交換しながら、アカネに声をかけた。
「アカネ。さっきあの首なし野郎の斬撃を受け止めた時、けっこう派手に叩きつけられてたが、大丈夫だったかよ?」
「ん? ああ、問題ないよ。ダメージは軽い」
「そうかい。……んで、まぁ、その、レイカはどんな調子だ?」
「戦いたがってるみたいだけど、まだ心が安定してない。光剣型への恐怖心で揺れてるよ。この状態で戦わせても、いざという時に動けないと思うね」
「そうか。まぁしゃーないわな。人間誰でも調子悪い時はある。お前もムリすんなよアカネ」
「ん……」
ジャックの言葉に対して、アカネはどこか煮え切らないような返事をした。
するとここで、コーネリアスとマードックが合流してきた。
二人とも五体無事である。
「すまない、遅くなった。途中で別の目付きの個体が乱入してきてな。だが、そちらも無事に終わったようだな」
「おうマードック。見ての通りだぜ。首なしの騎士には、首だけじゃなく身体の半分ともお別れしてもらったところだ」
「ついでにこの世ともお別れだな。さて、では次の標的を探しに……」
……と、その時。
彼らが持つ通信機に、一つの信号が入った。
その信号を見たマードックは、顔をしかめた。
「これは……どうやらローガン達のチームがスピカ型のレッドラムと遭遇したようだ」