第1347話 生餌
ニコたちのチームが、蜘蛛女型のレッドラムと戦闘を繰り広げている頃。
こちらは北園、本堂、シャオランのチーム。
彼女たち三人は、アメリカ兵のオフィーリアの援護要請を受け、黄金の大鷲のマモノのユピテルの背中に乗って、現地に向かっている最中だ。
そして今、目的地に到着。
北園たちはユピテルの背中から飛び降り、道路の上に着地。
アーケード街のような、低い建物が密集したエリアだ。
「ユピテル! ありがとう!」
「ケェェン!!」
北園の礼に返事をして、ユピテルは飛び去った。
彼は彼で、他のチームの移動の手伝いや戦闘の援護など、多くの仕事がある。
北園たちもこの場から移動。
オフィーリアのチームは、すぐ近くにいた。
「お手伝いに来ました! 大丈夫ですか!?」
北園がチームの女性兵士、オフィーリアと思われる女性に声をかけた。
オフィーリアも北園の声に反応し、振り向いて返事をする。
見たところ、周囲に敵影は無い。状況はいったん落ち着いたのだろうか。
「やっと来てくれたのね! 待ちわびたわ! 連中、やけに動きが良くて、爆撃機で支援爆撃してもらっても余裕で生き延びてるのよ。こっちも何人か負傷しちゃったし……」
そう言ってオフィーリアは、チームメイトたちをチラリと見た。
彼女らは六人の兵士で構成されているが、そのうち一人の歩兵と二人のブレード兵、そして衛生兵が大きな傷を負っているようだ。特に衛生兵は意識を失ってしまっており、そのせいで他の三人の怪我も回復できていない。
「うわ、大変!? すぐに”治癒能力”かけますね!」
さっそく北園が、負傷兵たちの傷を回復させようとする。
だがその時、周囲の建物の陰や屋根の上から、たくさんのレッドラムが姿を現した。まるで北園たちが来るのを待ち構えていたように。
「わ、レッドラムがたくさん!?」
「あいつら、ちょっと攻めの手が緩んできたと思ったら、私たちをエサにして、他のチームをおびき寄せるのが目的だったのね……! ごめんなさい、あなたたちを巻き込む羽目になっちゃった……」
「気にしないでください! どのみち、困ってる人を見過ごすわけにはいかないですし! 罠と分かっててもこうしてました!」
「ふふっ、頼もしいわね。この子はいつもこうなの?」
オフィーリアが、本堂とシャオランにそう声をかけた。
二人は口は開かず、肩をすくめて返事をした。
本堂が、北園とシャオランと、それから二人のアメリカ兵に声をかける。
「北園。お前は負傷兵の治療を優先させろ。動けない人間を守り続けながら戦う方が負担だ。動けるようになってもらうのが有難い」
「りょーかいです! このちょっと狭い場所じゃ、私も考え無しに強いのを撃ちまくったら自爆しちゃうかもだし、ちょうどいいかも」
「シャオランは俺と共に北園と負傷兵を守りつつ、周囲のレッドラムを殲滅する」
「わかった!」
「其方の二人の兵士さんは、まだ動けますね? 共同戦線、宜しいですか?」
「もちろんよ! 元よりそのつもりで呼んだんだしね! あ、紹介が遅れたわね。私はオフィーリア。こっちのだんまりなのがテリー。よろしくね」
「宜しく」
「ええ。よろしくお願い致します。さて……そろそろ来るな」
「SHAAAAAAA!!」
本堂の言う通り、レッドラムが襲い掛かってきた。
まず飛び出してきたのは、右手に槍を持ち、左の小盾で身を守る槍兵型のレッドラムが複数。
本堂が三体に向かって電撃をばら撒き、シャオランが拳で一体を殴りつける。
しかし槍兵型たちは、左の小盾で本堂の電撃を防ぎ、同じく小盾でシャオランの拳を弾いた。
「む……!」
「わっ!?」
「KIEEEEE!!」
槍兵型が反撃に転じる。
槍を両手で構えて、本堂めがけて一直線に突進。
シャオランの拳を弾いた個体は、そのまま右の槍で突き刺しにかかる。
だが、この程度でこの二人も負けはしない。
本堂は右腕の刃を大きく振るい、突撃してきた三体をまとめてぶった斬る。
シャオランは槍に突き刺されるより早く二連蹴りを繰り出し、槍兵型の頭を吹っ飛ばした。
その時、本堂の身体に複数の触手が絡みついてきた。
「ぬ……!?」
見れば、二体の触手型のレッドラムが、両腕の触手を本堂に伸ばしている。この触手に殺傷力は無いが、本堂の動きを制限されてしまう。
そこへ、周囲の建物の屋根の上から現れたライフル型のレッドラムが、動けない本堂に向かって射撃。本堂の身体に高熱の光弾が撃ち込まれてしまう。
「く……!」
本堂は全身から電撃を発し、触手型を焼いて振り払おうとする。
しかし、電撃を受けても触手型たちは怯まない。
どうやら電撃に耐性がある個体のようだ。
「しまった、見誤ったか」
「SHAAAA!!」
これをチャンスと見て、ライフル型たちが追撃を入れようとする。
その時、そのライフル型たちの眉間が、それぞれ一発で撃ち抜かれた。
アメリカ兵のオフィーリアが二丁拳銃で放った弾丸だ。
「GYA!?」
ライフル型たちは絶命こそしなかったが、大きく怯んだ。
その隙に、本堂が渾身の力で触手型たちを振りほどき、逆に触手を掴んで振り回し、地面に叩きつけた。
「ふんっ……!」
「GUEEEE!?」
「GYAAA!?」
「助かりました、ミス・オフィーリア」
「どういたしまして! この調子でどんどん借りを返させてもらうわ!」
そう言ってオフィーリアは、先ほど怯ませたライフル型たちに追加の銃弾を撃ち込んでトドメを刺していく。
その時、一体の通常型レッドラムが、オフィーリアの背後から引っかきにかかった。
「SHAAAA!!」
オフィーリアは、素早く屈んで引っかきを回避。
そして同時に振り返りながら、左の拳銃を右から左へ振り抜いた。
オフィーリアの二丁拳銃には、拳銃用の短くも鋭い銃剣が装備されている。その銃剣で通常型レッドラムの喉元をかっ切り、絶命させたのだ。
また別の通常型レッドラムが、オフィーリアに噛みつきにかかった。
その顔面に、右の拳銃の銃剣を突き刺し、オフィーリアは発砲。
頭部が破壊され、通常型レッドラムは血だまりになった。
一方、同じくアメリカ兵のテリーは、ショットガンで刃型のレッドラムを射撃。
だが刃型のレッドラムは、その右腕の刃の幅広な腹を使って、テリーの銃弾を防御してしまう。そのまま疾走し、テリーとの距離を詰めてくる。
そして刃型は、テリーを間合いに捉え、その大きな刃の右腕を振るった。
「KAAAAA!!」
するとテリーは、しゃがんで刃型の斬撃を回避。
同時に刃型の腹部にショットガンの銃口を押し当て、射撃。
「GYAAAA!?」
怯む刃型。
下がった頭に、すかさずショットガンの二発目。
バギャッ、という音と共に、刃型の頭部は吹き飛んだ。
その刃型の亡骸の後ろから、槍兵型のレッドラムがテリーを突き刺しにかかった。なんと刃型の亡骸ごとである。
「SHAAAAA!!」
刃型の亡骸に隠れて距離を詰めてきた槍兵型。
テリーは反応が遅れてしまった。
そのテリーを、本堂が引っ張って退避させた。
刃型の亡骸を突き破ってきた槍兵型の槍は、ギリギリでテリーには届かなかった。
「助かった……」
「どういたしまして。しかしこいつら、確かに動きが良い。これは、下位個体のレッドラムの動きを飛躍的に向上させるという、将軍型のレッドラムが近くにいるのかもしれないな……」
その本堂の推測は正しい。
将軍型のレッドラムは、ここの近くのビルの屋上から、この戦闘を眺めていた。
「アノ戦力デ、多少ナガラモ連中ニ手傷ヲ負ワセタノナラ十分ダナ。サテ、デハ次ノ手ダ」