第1346話 心を見透かす瞳
蜘蛛女型のレッドラムを倒したニコたちのチーム。
だがその直後、鮮血旅団の一角であるスピカ型のレッドラムが彼女たちの前に姿を現した。人の良さそうな、しかしどこか薄気味悪い微笑みを浮かべながら、ニコたち六人に目を向けている。
「来たね、サイコキネシス女……!」
ニコは、ちらりとローガンの方を見た。
彼女の視線を察知したローガンは、ニコに向かって小さくうなずく。
スピカ型のレッドラムが現れた時、アメリカチームの兵士たちは予知夢の六人やミオン、それからARMOUREDなどを応援として呼ぶように、マードックから指示を受けていた。スピカ型に悟られないよう、ローガンが通信機でこっそりと信号を送り、他のチームにスピカ型の出現を伝えてくれたようだ。
だが、気づかれないように心がけても、スピカ型には意味がない。
兵士たちを見回した後、スピカ型が口を開く。
「ふーん、仲間を呼んだねー? ここでワタシを倒すつもりなのかい? やめといたほうが良いと思うけどなー。自分で言うのもなんだけどさ、生半可な戦力じゃワタシには勝てないよ? この街を攻略しながら、ついでにワタシも倒すって、そんな二羽のウサギをいっぺんに追うような真似が通用するとでもー?」
「やってみなけりゃ分からんじゃろう。案外、すんなりと儂らが勝つかもしれんぞ?」
スピカ型のレッドラムの言葉に、ローガンがそう言い返した。
とはいえ、これはかなり厳しい状況だ。スピカ型だけでも極めて手強い上に、今は回復や防御などの後方支援を得意とするプリースト型のレッドラムもいる。この二体を同時に相手しては、勝利などまず不可能だろう。
スピカ型よりプリースト型の方が、まだ倒しやすい。
いや、今は一方を先に排除することなど考えない方が良い。
生存重視だ。せめて応援が来るまでの間、持ちこたえねば。
六人の兵士がそう考えていると、スピカ型がプリースト型に声をかけた。
「キミー。ここはワタシ一人で大丈夫だからさー、キミは別のところに行きなよー。そうだ、街の中央で戦ってるドラゴンくんがちょっと苦戦気味みたいだからさ、そっちに加勢してあげるのはどうかなー?」
「お、いいんですかここ任せちゃって? それじゃあお言葉に甘えて!」
スピカ型にそう返事して、プリースト型はこの場を離脱し始める。
六人の兵士たちは慌てた。
確かにここでプリースト型がいなくなってくれれば、六人の生存確率は上がるかもしれない。
しかし巨竜型のレッドラムは、日向たちが三人だけで抑えてくれている。そこに少しでも敵戦力が追加されたら、彼らの状況は一気に厳しくなるはずだ。巨竜型のレッドラムが日向たちを振り切り、好き放題に暴れ始めたら、もうセントルイス攻略どころではなくなる。
ましてや、後方支援に特化したプリースト型など送らせてしまったら。
ニコとローガンが素早くアサルトライフルを構え、プリースト型の背中を撃とうとした。
しかし同時に、スピカ型がカッと目を開く。
念動力の衝撃波が地面を走り、道路がめくれ上がり、大量のアスファルト片が大波のように六人に迫ってきた。
このままでは道路ごと吹っ飛ばされる。
衝撃波に巻き込まれないよう、六人は素早く後ろへ下がる。
「やむを得ん! まずはあのスピカ型を相手するぞ!」
ローガンが皆に声をかけた。
五人はうなずき、スピカ型を取り囲むように動き始める。
スピカ型は余裕ぶっているのか、何も手を出さずに兵士たちの動きを見ている。
左右に分かれたニコとローガンが、アサルトライフルの副砲のグレネードランチャーをスピカ型に向けて、それぞれ電撃弾と火炎弾を発射。
スピカ型は、バリアーを球状展開して、二人のグレネード弾を防御。バリアーごとスピカ型が爆炎と爆雷に包まれる。
これを目くらましにしつつ、ロドリゴとジョーンズがアサルトライフルで射撃。さらにリリアンも左手でハンドガンを取り出し、スピカ型に向かって発砲する。
しかし、スピカ型のバリアーはビクともしない。
その耐久力は、間違いなくプリースト型のバリアーより数段上だ。
「プリースト型のバリアーだって、私らだけじゃ破壊できなかった。あのままバリアーの中に引きこもられてちゃ、手出しできないじゃない……!」
「でもよー、ヤツは今、バリアーの展開に能力を集中させてるじゃん? 今なら他の異能は使えないってことにはならないかねー?」
ニコのつぶやきに、ロドリゴが答えた。
それを聞いたニコは、こいつがラップじゃなくて普通に会話するの久しぶりだなと思った。
そして、同じくロドリゴの言葉を聞いたスピカ型は、次なる動きを見せる。
「んー? バリアー使いながら攻撃? 普通にできるけどー?」
そう言うとスピカ型は、近くに落ちていた、こぶし大の瓦礫の欠片を四つほど浮かべ、それをロドリゴめがけて射出。
まるで銃弾のように、目視では捉えきれない速度だった。
被弾してしまったのだろう。ロドリゴの身体がグラリと揺れる。
「ごっふ……!?」
「ロドリゴ!?」
「だ、大丈夫だぜニコちん、大したダメージじゃない……」
ロドリゴは、嫌な予感がしたため、事前にアサルトライフルを盾にして頭部及び顔面を守っていた。そのおかげで頭部への投石は防ぐことができ、被弾したのは防弾アーマーに守られたみぞおちと、左わき腹と右太ももの三か所。確かに致命傷ではないが、それなりのダメージだ。
その時、スピカ型が”瞬間移動”で姿を消した。
「消えた。奴は何処へ……?」
「む、あそこじゃ!」
ローガンが指さす先には、地震によって崩れた高層ビルの前に移動したスピカ型の姿が。六人との距離はさほど離れていない。
するとスピカ型は、超能力で十個ほどの瓦礫を宙に浮かべた。
一つひとつがちょっとした家ほどもある、巨大な瓦礫だ。
「キミたちにお似合いの死に方を考えたんだー。ハエみたいに叩き潰されて死ぬっていうのはどうかなー!?」
そう言って、スピカ型が右手を振りかざし、そして振り下ろす。
それに連動して、宙に浮かべられた瓦礫が、六人の兵士めがけて一斉に襲い掛かってきた。
「た、退避!」
「瓦礫と瓦礫の間に隙間がある! よく見て回避するんじゃ!」
六人は瓦礫が降ってこないポイントを見極め、そこに移動して瓦礫を回避。幸い、誰一人として潰されることはなかった。
だが、スピカ型の攻撃は一回だけでは終わらない。
叩きつけた瓦礫を再び宙に浮かべ、右手を振り下ろして叩きつける。
それを回避されたら、また瓦礫を宙に浮かべて叩きつける。
「め、滅茶苦茶っすね……。こんな規模の能力を通常攻撃みたいに……」
「あんなので潰されたら、私の能力ではとても回復できません。皆様、気を付けて……うわっ!?」
ジョーンズがバランスを崩して、転倒してしまった。
現在、繰り返された瓦礫の叩きつけにより、道路はボロボロに粉砕されてしまっている。その足場の悪さに足元をすくわれてしまった。
それをスピカ型は見逃さない。
ジョーンズの真上に一つの瓦礫を持ってきて、彼めがけて振り下ろした。
「そうはさせないっすよ……!」
「斬ります」
カインとリリアンが、ジョーンズを狙う瓦礫に向かって飛びかかる。
そしてそれぞれ、手に持つ高周波ブレードで瓦礫を切り裂く。
切り裂かれた瓦礫は複数に分かたれ、隙間ができる。
その隙間を縫うような形で、ジョーンズは被弾を免れた。
「め、面目ない、助かりました……」
「いいっすよ。それよりも……」
カインは、スピカ型に目を向けた。
スピカ型は瓦礫攻撃を終え、”瞬間移動”で再び六人の前へ移動。
心を見透かす金色の瞳で六人を見回し、スピカ型は口を開いた。
「『能力は凄いけど余裕ぶっこいてるみたいだから、このままいけば応援が来るまで耐えられそう』なんて思ってるー? ウケるねー。何がウケるかって、応援が来たらワタシに勝てる、なんて本気で思いこんでいるところだよね」