第1344話 蜘蛛女型とプリースト型
こちらは東エリアの様子。
ここでは女性兵士のニコ、ラップ好きなロドリゴ、そして気の抜けたブレード兵のカインの三人が活動している。
彼らと行動を共にする、また別の三人の兵士の姿もある。
フードを被った白髪の女性ブレード兵のリリアン。
神を信仰する衛生兵のジョーンズ。
アメリカのマモノ討伐チームでは最年長の老兵ローガン。
六人は現在、街中で二体の目付きのレッドラムと交戦していた。
一体は、背中から蜘蛛のような八本の脚が生えた、蜘蛛女型のレッドラム。
そしてもう一体は、真っ赤な修道服に身を包み、背中に大きな十字架を背負っている、プリースト型のレッドラム。
蜘蛛女型は、他のレッドラムと同じく奇形で、顔面に八つの金色の複眼を持っている。プリースト型は、人間とそう変わらない容姿をしていて、言葉もカタコトではなく流暢に喋るのが特徴だ。
カインとリリアンの二人が、蜘蛛女型のレッドラムに接近して果敢に斬りかかる。
「よっと」
「えいっ」
「KIIIII!!」
蜘蛛女型のレッドラムは、背中の八本の脚で次々と刺突を繰り出し、二人のブレード兵を迎え撃つ。
斬撃と刺突がしばらく火花を散らす。
互いに決定打を与えられず、攻撃と防御を繰り返す。
「KIIISHAAAA!!」
蜘蛛女型のレッドラムが八本の脚を大きく振るい、二人のブレード兵を強引に押し退けた。
それを見計らって、ニコ、ロドリゴ、ローガンの三人が、蜘蛛女型のレッドラムめがけてアサルトライフルを集中射撃。
大きな動作の攻撃を仕掛けた直後のために、蜘蛛女型は足が止まっている。
そのまま、三人の銃弾を浴びせられた。
「AAAAAA!! 鬱陶シイッ!!」
叫び、蜘蛛女型が八本の脚の先端から赤い糸を射出。
レーザーのように速く、まっすぐ三人の兵士に向かって伸びていく。
三人は糸に捕まる前に、すぐさまその場から飛び退いて糸を回避。
その際、ニコがアサルトライフルの銃身下部に取り付けられたグレネード弾を発射した。
「オマケだよ、取っときなよ!」
狙いは蜘蛛女型の糸。
ニコが発射したグレネード弾は、蜘蛛女型の糸に触れると、高圧電流をまき散らす爆発を発生させた。糸を通して蜘蛛女型が電気に焼かれる。
「AAAAAAA!?」
ニコが撃ち込んだのは、もともと対マモノ用に製造された電撃グレネード弾だ。電気が苦手なマモノを倒すために作られた武装だが、今はもっぱらレッドラムを倒すのに使われている。
蜘蛛女型が怯んだのを見た老兵のローガンは、素早く手榴弾の安全ピンを抜いて、蜘蛛女型に向かって投げつけた。
「隙ありじゃ! そうれ!」
……だが、そこへプリースト型のレッドラムが割り込んできた。
”念動力”のバリアーを球状展開し、手榴弾の爆発を防いでしまう。
「大丈夫ですかー? あちらさん、けっこうお強いですよね」
「ク……、分カッテイルナラ、モットオ前モ加勢シロ!」
「そうは言われましても、私の性能は後方支援特化ですからねぇ。ささ、怪我の回復をしてさしあげます」
そう言って、プリースト型のレッドラムは球状のバリアーを展開したまま、蜘蛛女型に”治癒能力”を行使。せっかく兵士たちが与えたダメージを回復させ始めてしまう。
「くそ、まただ! このままじゃ、また振り出しに戻されちゃうよ!」
「一斉攻撃じゃ! 何とかして、あのバリアーを突破するんじゃ!」
「オーケー了解! アクセル全開! 邪魔なバリアー全部破壊!」
ニコ、ロドリゴ、ローガン、さらに衛生兵のジョーンズまでもが射撃に参加。そしてブレード兵のカインとリリアンが両側面からバリアーに斬りかかる。
だがしかし、それでもバリアーは破壊できず、蜘蛛女型のダメージは全快してしまった。
さっきから、こんな調子が続いている。
蜘蛛女型にダメージを与えても、結局はプリースト型が回復させてしまう。
この六人の兵士たちは、やや火力が不足気味だ。
銃器を使っても異能を用いても、プリースト型のバリアーを突破できない。
プリースト型を先に排除できればいいのだが、彼女は蜘蛛女型の後ろに隠れて、六人が攻撃しにくいように立ち回っている。おまけに基本的に常時バリアーを展開しているので、銃で狙い撃ちしても結局は攻撃を防がれてしまう。
「バリアーには耐久力があるみたいっすから、攻撃し続ければいつかは突破できるんでしょうけどね、そうなると今度は前衛の蜘蛛女型が邪魔っす。糸のトラップと好戦的なスタイルで、なかなかプリースト型に近寄れないっす」
「いっそ爆撃機で吹っ飛ばしてもらう?」
「それはやめた方が良いかと。爆撃機はそこまで精密な攻撃はできないっす。人間サイズの標的をピンポイントで狙うのは難しいっすよ。よしんば爆撃を当てたとしても、下手すると俺たちも巻き込まれるかも」
「ま、そうなるよね。はぁ……本っ当に面倒だね。まだレッドラムはたくさん残ってる。こんなところで足止め喰らってる場合じゃないのに」
悪態をつくニコ。
そんな彼女を見て気分を良くしたか、プリースト型が口を開いた。
「フフフ……。天に召します我らが主は、あなた方を救いません。なぜか分かりますか? あの御方……我らが新しき王は、主ですら止められないからです。迷える子羊たちよ、死を受け入れなさい。それこそが、この滅びゆく星に生きるあなた方に残された唯一絶対の救いなのですから」
「知ったような口を……。主もこれには激おこでしょう」
信仰深い衛生兵、ジョーンズがそう言い返す。
言い返しながら、最初の攻防で少しダメージを受けたリリアンの傷を”生命”の自然治癒力向上の異能で治療した。
「ありがとう」
「どういたしまして。さて……しかしここからどうしたものですかね。ここで足止めを喰らっていては、我々が他のチームを援護できないだけでなく、ここに他のレッドラムが加勢してくる可能性も高まってきます。そうなると、我々の勝利はさらに遠いものになってしまうでしょう」
「それはとても駄目な事。早くあいつら斬らないと」
「そうなのですが、何か有効な手は……」
ただのゴリ押しでは、また回復されるだけだ。
作戦を考える必要がある。
するとここで、ローガンが口を開いた。
「一つ、思い付いたかもしれん。あの蜘蛛女を回復させずに倒す方法を。上手くいくかは未知数じゃが、この老兵の案に乗ってみる気はないか、若い衆?」
「いいよ、乗った。他に選択肢は無さそうだし」
「よし。ならば、まずは……」
「ノンビリト話シ合イナンカ、サセナイヨッ!!」
蜘蛛女型がローガンたちに向かって飛び掛かった。
六人の兵士は素早く退避。
誰もいなくなった道路を蜘蛛女型の八本足が突き砕く。
その回避後の隙を狙って、プリースト型がエネルギー弾を発射。
狙いはジョーンズ。まず回復役を潰すつもりだ。
「神罰ですよー!」
「しまった、このタイミングで回避は……!」
しかし、そこへリリアンが割り込み、冷気を纏った高周波ブレードでエネルギー弾を叩き斬る。
「やっ」
エネルギー弾は誘爆。
巻き込まれたリリアンは少しダメージを受けたが、軽傷で済んだ。
ところが、その爆風の向こうから、蜘蛛女型の赤い糸塊が飛んでくる。
「モラッタヨ!」
「あっ……!?」
リリアンは反応が遅れ、この赤い糸塊を喰らい、糸で身体を拘束されてしまった。
「リリアン!」
ジョーンズがリリアンを助けようとするが、間髪入れずに蜘蛛女型が二人めがけて飛び掛かる。
「マズハ二人! マトメテ死ネ!」