第1343話 少年型のレッドラム
北園たち三人の前に姿を現した、少年型のレッドラム。
どうやら彼は、北園たちの目の前で大破しているタクティカルアーマー・ホワイトメイルを破壊した張本人のようだ。
少年型のレッドラムが、北園たちに声をかけてきた。
「そのロボットは僕がやっつけたんだから! お姉ちゃんたちが盗っちゃダメ!」
「ご、ごめんなさい?」
「はいだめー。もうお姉ちゃんたちは許しませーん。死刑けってーい。さて、今日の人間たちはどれくらいで死んじゃうかな? へへへ!」
なんともふざけた口調で、少年型のレッドラムはそうのたまった。
そんな彼を見て、本堂が呆れた様子で口を開いた。
「下らん。どの道、俺達が人間でお前がレッドラムである以上、必ず戦闘になるだろうに。北園、シャオラン、さっさとこいつを片付けるぞ。こいつも、こんなふざけた態度で人を殺して回っていたかと思うと虫唾が走る」
「うわぁ、なんかホンドーが怖い……」
「医者志望で、人の命に対して真剣に向き合ってきたぶん、ああいう性格が許せないのかもね……」
顔を見合わせつつ、北園とシャオランも少年型のレッドラムに向かって戦闘の構えを取った。
そんな三人を見て、少年型のレッドラムはニヤニヤと微笑みながら話しかけてくる。
「あっれー? いいのかなー? 僕はそこのポンコツロボットを一秒で壊した超強いレッドラムなんだよ?」
「一秒だと……」
「ビビった? ビビったよね! 今すぐ謝れば、許すかどうか考えてあげてもいいよ?」
一秒。
あの光剣型のレッドラムでも、四機のホワイトメイルを全滅させるのに十五秒ほどかかったという。つまり、一機につき四秒近くかかった計算になる。
この少年型のレッドラムは、あの光剣型より四倍も強いのだろうか。
これに対して、三人は……。
「嘘だろうな」
「まぁ、ウソだろうね」
「ぼくちゃん、笑わないから本当のこと言ってごらん? 本当はどれくらいかかったのかな? 三十秒くらい?」
「な、なんだよー! 揃いも揃ってウソだって決めつけて! 僕がウソついてるって証拠でもあるのかよー!?」
……と、その時だった。
破壊されたホワイトメイルから、ノイズ混じりの声が聞こえてきた。
声の主は、前線基地にいる技術班、ハイネのもののようだ。
『あ、あー、聞こえるー? この機体の様子をモニターしてたんだけど、そいつ普通にウソついてるよー! 実際は一分くらいかかってるから! おまけにいくらか反撃も受けてダメージ入ってるよ!』
「う、うぐぐ……うるさいうるさい! 黙ってろよー!」
『へへ、悔しそうな表情が見ものだね。まぁでも、そいつがけっこう強いのは残念だけどホントだよ。このホワイトメイルを一分で破壊しちゃうんだから。けれどキミたちなら勝てるって信じてる。この機体の仇を討ってちょうだい! お願いね!』
その音声を最後に、ハイネの声は聞こえなくなった。
北園たち三人は、改めて少年型のレッドラムを見る。
「一分かぁ。まぁ私たちも、沖縄であのホワイトメイルと戦ったことがあるけれど、あの時は日影くんも入れて四人で十分近くかかったから、それを考えるとすごいよね」
「たしかその時は、マトイがタクティカルアーマーで援護してくれたから、実質五人がかりになるのかな?」
「だが、今の俺達は、あの時よりも格段に強くなっている。一分でいけるかは不明だが、破壊するだけなら俺一人でも達成できる自信があるぞ」
「とりあえず、油断しないように気を付けようね」
「くっそー! なんだよなんだよ、皆して僕をバカにして! いいよ、もう許さないからね! まずは、そこのノッポのお前! ムカつくからお前からだぁ!」
そう言って少年型のレッドラムは、本堂に飛び掛かった。
その両拳は、激しく燃え盛る炎が宿されている。
「僕の拳は、殴ったものを爆破してこっぱみじんに吹き飛ばす! 直撃した時が、お前の最後だよ!」
「そうか。つまり当たらなければ良いのだな? わざわざ教えてくれて有難う」
少年型のレッドラムが、左右の拳でラッシュを仕掛けてきた。
しかし、本堂は後ろに下がりながら、そのラッシュをヒョイヒョイと避ける。
少年型のレッドラムが突き出した拳を戻す前に、本堂がその少年型の腕に軽く触れて電撃を流す。
触れるのは軽いが、電撃は重い。
攻め立てている少年型が、逆にダメージを蓄積されていく。
「あぐぅぅ!? なんで当たらないんだよー!?」
「スピードと手数に自信があるようだが、その程度ではな。日影も同じような技を使うが、当て方の工夫の度合いが全然違う」
「だったら、これはどうだ!」
そう言って、少年型は本堂に飛び掛かり、大きく右拳を振りかぶる。
特に何の変哲も無さそうな、これまで通りの直線的な攻撃のように見える。
本堂は後ろへ下がって、この拳も回避。
ところが、少年型の拳が道路に叩きつけられた瞬間、爆炎が起こって本堂の視界を塞いだ。
「む……!」
「今だ! 死ねぇぇ!!」
爆炎の向こうから少年型が現れる。
もう本堂との間合いは目と鼻の先。
回避不可能の距離まで詰めて、少年型は燃え盛る拳を繰り出した。
だが、それよりも先に、本堂が腕を伸ばす。
そして、少年型の顔面を捕まえた。
すかさずそのまま顔面を持って少年型を持ち上げ、背後の道路に後頭部から叩きつける。
「あぎゃ!? な、なんで爆炎の目くらましが効かないの……!?」
「あれくらいなら、黒煙の向こうからお前が現れた瞬間を見てから反応できる」
少年型を叩きつけた本堂は、引き続き少年型の顔面を掴み、自分ごと回転してからのサイドスローで勢いよくぶん投げた。
地面と平行にまっすぐ投げ飛ばされた少年型のレッドラム。
その先には、蒼白い気質を全開にして待ち構えているシャオランが。
「瞬塊爆炎鉄山靠ッ!!」
「ごぁぁっ……!?」
山が衝突してきたかのような衝撃。
飛んできた軌道をそのまま帰っていくように、少年型は吹っ飛ばされた。
そのまま帰っていったということは、その先に待っているのは当然ながら本堂。
彼は”迅雷”を発動させ、速度を上昇させた右脚で回し蹴りを繰り出し、飛んできた少年型を蹴り飛ばした。
「ふんっ!!」
「ぎゃあああ!?」
蹴り飛ばされ、ボールのように道路上をバウンドする少年型。
十メートルほど飛ばされて、ようやく止まった。
「あ……あぐ……あぐう……」
息も絶え絶えといった様子で、身体を起こす少年型のレッドラム。
その時にはすでに、本堂たち三人が少年型の目の前に。
「ひ……ひ、卑怯だぞ卑怯だぞ! 三人がかりで寄ってたかって!」
「私、何もしてないけどね……」
「口ほどにも無かったな。弱い者いじめで良い気になっていただけだったか」
「う、ウソだ! こんなのウソだ! 認めない! 僕は認めないもん! もう一回だ! 次やったら絶対に僕が勝つから……!」
その言葉を聞くと、本堂は大きなため息を吐いた。
今まで北園もシャオランも、こんなため息を吐いた本堂は見たことがないくらい、大きなため息だった。
そして本堂は、口を開いた。
「そうか。それじゃあ早速、第二ラウンドを始めよう。行くぞ」
「え……あ、ちょっ、ま、タンマ……」
「”轟雷砲”」
本堂が右の拳を突き出し、そこからビームのような電撃を発射。
少年型のレッドラムの上半身が消し飛ばされ、残った下半身は爆ぜて血だまりとなった。
「うわぁ、ホンドー大人げない……」
「殺しを愉しむ輩にはお似合いの末路だろう。まぁしかし、あの自信過剰さについてだけは、シャオランに見習わせたいほどではあったかな」
「なんだよー!? ボクだって最近はちょっとはマシになってるでしょ!?」
「まずその勇気の源である”空の気質”を解除してみろ。話はそれからだ」
「……え、えーとぉ、ボク、ニホンゴ、ヨク分カラナイアル」
「お前ほど日本語ペラペラな中国人も中々いないだろうに」
二人のやり取りを側で聞いて、北園は思わず笑ってしまった。
その時、三人が持っている通信機に一つの通信が入る。
緊迫した様子の女性兵士の声が聞こえてきた。
『こちらオフィーリアチーム! ねぇちょっと! 誰でもいいから手伝ってよ! 倒しても倒しても敵が湧いて出てくる! このままじゃ崩し切れずにジリ貧だよ!』
「今度は本当に助けを求める声だよ! 行ってあげよう!」
「ああ、同意だ。同じ北エリアからの通信のようだが、此処から少し距離があるな。徒歩で行くのは骨だ。北園、ユピテルを呼んでくれ」
「りょーかいです!」
本堂に言われて、北園は”精神感応”で金色の大鷲のマモノのユピテルに、ここまで来てほしいと声をかける。
すると、ほどなくして空からユピテルがやって来た。
「ケェェェン!!」
「ユピテル、来てくれてありがとう!」
さっそく三人はユピテルの背中にしがみつく。
ユピテルはそれを確認すると、SOSが発せられたポイントへ向けて飛び立った。
「ところで北園。レッドラムとはいえ、年端もいかなそうな少年を寄ってたかって暴行する展開になってしまったが大丈夫だったか? お前は子供好きなイメージがある」
「あ、大丈夫ですよ。レッドラムですし」
「清々しい割り切り方だな」