第1340話 消せない炎
エヴァが発生させた津波では、巨竜型のレッドラムの赤黒い炎は消えなかった。
水に浸かっている間、赤黒い炎は少し勢いを弱めたものの、水が引くとすぐに元の勢いを取り戻してしまった。現在はもう、赤黒い炎が街の中で燃え広がる地獄絵図が蘇ってしまっている。
昨日、コロンバスの街を調査したアメリカチームの兵士が報告していた通りだ。あの巨竜型のレッドラムの赤黒い炎は、決して消えることのない”怨気”の炎。
巨竜型が、再び炎を吐き出してきた。
今度は薙ぎ払わず、明確に日向たちを狙う一点集中型だ。
「GURRRROOOOO!!!」
「これは……先ほどの炎とは違い、土の壁では焼き尽くされてしまう可能性がありますね。ならば……吹き荒べ、”セトの暴威”!!」
エヴァが詠唱と同時に、杖を巨竜型のレッドラムに向けて突き出す。
すると、エヴァの杖から竜巻が発生。
巻き込んだ道路の表面をめくり上げるほどの、猛烈な竜巻だ。
そして、正面から迫りくる巨竜型の炎のブレスとぶつかり合う。
風を受けても巨竜型の炎は消えないが、勢いはエヴァの竜巻の方が勝っている。巨竜型の炎はエヴァの竜巻を突破できず、周囲にまき散らされる。
やがて、エヴァの竜巻が炎のブレスを突破した。
竜巻はそのまま、その先にいる巨竜型の頭部に命中。
「GRRRRR……!!」
竜巻を受けた巨竜型は少し怯んだが、それだけだ。
頭を振るい、竜巻を打ち消してしまった。
それよりも、問題がある。
確かにエヴァの竜巻は炎のブレスを防いだが、まき散らされた炎はそのまま周囲に燃え移り、ただでさえ燃え盛って地獄絵図と化していたこの周辺が、もっと地獄絵図と化してしまった。
「あっついです。本当にどうにかしなければ。暑すぎて戦闘どころではありません」
「たしかにな……。いったん燃えていないところまで下がろう。巨竜型を誘導するんだ」
日向たちは後退し、炎が燃えていない場所へ。
巨竜型は日向たちを追って、前方へ大ジャンプ。
着地と同時に日向たちを踏み潰すつもりだ。
「GURROOO!!」
日向たちは、巨竜型の落下地点から素早く退避。
エヴァが後方上空へ跳び上がり、そのまま重力操作で空中浮遊。
「凍えてしまえ……”フィンブルの冬”!!」
空中に浮いたまま、エヴァは巨竜型めがけて猛吹雪を発射。
空気中の水分を凍らせて生成した大きな氷柱も一緒に撃ち出す。
巨竜型の身体に吹雪が吹き付け、大きな氷柱がミサイルのように撃ち込まれる。骨まで凍り付き、そして砕かれてしまいそうな規模の攻撃である。
だがそれでも、巨竜型は平然と耐えている。
氷柱の直撃には動じず、吹雪を受けても身体はほとんど凍らない。
そして巨竜型は、エヴァに反撃。
空中にいるエヴァに向かって、赤黒い炎を吐き出した。
「GURRRROOOO!!」
エヴァは重力を操作し、素早く地上へ着地。
彼女の後ろに建っているビルの壁に、巨竜型の炎が叩きつけられた。
巨竜型はそのままブレスを続行し、首を動かして自分の周囲を薙ぎ払うようにして吐きつける。
巨竜型の近くにいた日向と日影は、このブレスに巻き込まれないよう、いったん下がるしかない。
「くそ、結局ここも地獄絵図だ! やっぱりあの炎をどうにかしないと、このままじゃ俺たちが他のエリアまで押し込まれてしまう! 他の部隊を巻き込んじゃうぞ!」
「だが、あの炎は水でも消えねぇ。となると、もう短期決戦でさっさと終わらせちまうくらいしか方法はねぇんじゃねぇか?」
「存外、それしかないのかもな……。けど”星殺閃光”はまだだ。あいつ、意外と動きが軽い。今のままじゃ多分、見てから回避される。もっと弱らせてから使おう。もう少しダメージを与えるペースを速めるぞ」
「良いぜ、オレ好みの指示だ。素直に聞いてやるよ」
そう言うと、日影は巨竜型に向かって走りながら”オーバーヒート”を使用。”再生の炎”のエネルギー消耗は激しくなるが、”オーバードライヴ”とは比べ物にならない大火力を発揮することができる。
放たれた弾丸のようにまっすぐ、猛スピードで前進する日影は、巨竜型の右前足をすれ違いざまに切り裂いた。
「GURRRR……!?」
巨竜型の鳴き声が変わった。
日影の攻撃が効いたのだろう。
そのまま日影は、巨竜型に纏わりつくように周囲を飛び回り、尋常ならざるスピードでヒットアンドアウェイを繰り返す。
巨竜型は両前足や頭を振るって日影を追い払おうとしている。
しかし、その全てを日影は回避し、逆に巨竜型を斬りつけてダメージを与え続ける。
さらに、エヴァも落雷で巨竜型を攻撃。
巨竜型の動きが少し鈍ってきたように見える。
それを見て、延焼地帯を避けるために巨竜型の右から回り込んでいた日向が”紅炎奔流”を放つ。ここで一気にダメージを稼ぐ算段だ。
「今だ! 喰らえぇっ!!」
……しかし、巨竜型は両前足を上半身ごと大きく上げて、自分の身体の下をくぐらせるように日向の炎を回避してしまった。
「ああくそ! 炎を迂回する手間が無かったら当たってたかもしれないのに!」
それから巨竜型は、上半身ごと大きく上げたその両前足で、日向を狙って踏み潰しにかかった。
「GURRROOOOO!!」
「うわわわ……!?」
日向は背中を向けて、その場から逃走。
先ほどまで日向がいた場所に、巨竜型の両前足が落ちる。
道路は無残に破壊され、地響きは日向のもとまで届くほどだった。
そこへ、再び日影が巨竜型に攻撃を仕掛ける。
真後ろ、上空からの突撃だ。
「背中がガラ空きだぜトカゲ野郎!」
だが、接近してくる日影に対して、巨竜型は自身の長い尻尾を動かし、横殴りに叩きつけて撃墜してしまった。
「ぐぁッ!?」
容赦なく道路に激突させられた日影。
身体がバウンドするほどの衝撃だったが、そこから受け身を取って着地した。
「日影! 大丈夫か!?」
日向が日影に声をかける。
日影は痛みで顔をしかめていたが、すぐに立ち直った。
「ああ……。一瞬、肩あたりが砕けていたみてぇだが、すぐに治った」
「個体にもよるけど、竜の尻尾は鞭のようにしなって、周囲にいる敵を薙ぎ払える、竜のメインウエポンの一つだ。ましてや、あいつの尻尾は身体の動きに合わせて動くんじゃなくて、あいつ自身が手足みたいに自由に動かせるみたいだ。後ろから行くのは危ないかもしれない」
「クソッ、オーストラリアでもドラゴンのマモノと戦ったことがあるが、あの時の奴とは動きが段違いだな……」
「マモノになったばかりで、動きに慣れてなかったのかもしれないな……。まぁ過去に戦ったマモノの考察はここまでにしといて、そろそろ現実を見ないと……おや?」
その時、日向は巨竜型のレッドラムがまき散らした赤黒い炎を見て、何かに気づいた。