第1339話 巨竜型のレッドラム
人間陣営の地上部隊がセントルイスの街に降り立った、その頃。
このセントルイスのひと際高いビルの屋上に、三体のレッドラムの姿があった。鮮血旅団と呼ばれる三体だ。
「やぁやぁ、人間たちが攻め込んできたねー。こちらはさっそくミサイル砲台が潰されちゃって大変だー。さて、ワタシたちはどう動くべきなのかな、将軍?」
スピカ型のレッドラムが、将軍型のレッドラムに尋ねた。
将軍型は、表情を変えずに答える。
「敵ハ個々ノ戦闘力ハ高イガ、総合力デハ此方ガ上ダ。ソレヲ利用スル」
「と言うと……物量に任せて押し潰すー?」
「否。此方ヨリ少ナイ戦力デ切リ込ンデ来タ以上、多少ノ物量ニハ負ケナイ自信ト戦略ガ有ルト見ルベキダ」
「じゃあどうするのさー」
「我ラ三体デ各個撃破シテイク。敵ハ戦力ヲ分散サセテイル。弱イ部隊カラ一ツズツ始末スル。数デ押シ潰スノハ、連中が最後ノ残リカスニナッテカラダ」
「あっはっは、キミもなかなか良い趣味してるよねー。おっけー、了解―。それじゃワタシは東エリアに行こっかなー」
「ナラバ我ハ北ダ。光剣型、オ前ハ……」
「南ヘ」
「良イダロウ。デハ行クトシヨウ。各々、上手クヤレヨ」
それぞれの担当を決めると、将軍型は時空の裂け目を開いて、そこから北エリアへ。スピカ型は”瞬間移動で東へ。光剣型は南エリアへ向かって大きく跳躍した。
◆ ◆ ◆
日向が持つ通信機から、各部隊からの報告が入ってくる。
『こちらチャーリー隊! レッドラムの集団を発見! 交戦を開始する!』
『こちらアーサー隊。目付きのレッドラムと交戦開始。もしもの時は援護を頼む』
『こちら北園隊ー! C区域のレッドラムはあらかた片付いたよー! 次の区域に移るねー!』
「北園さんの声がした。かわいい」
「呆けてる場合じゃねぇぞ日向! 集中しろ!」
日向と日影、そしてエヴァの三人が相対するのは、巨竜型のレッドラム。このセントルイスの街を一日もしない内に火の海にすることができる火力と飛行能力の持ち主だ。
この巨竜型のレッドラムが好き勝手に暴れては、街中に展開する各部隊は作戦行動どころではなくなってしまう。この巨竜型を野放しにするのは、実質的な人間陣営の敗北条件だ。
近くで纏わりつくように戦う日向と日影を、巨竜型のレッドラムは踏み潰そうとしてくる。前足を持ち上げて道路に叩きつける。
硬いコンクリートで舗装された道路が、巨竜型の一踏みでひび割れ、粉砕される。
巨竜型が踏みつけを繰り出すたびに、地響きの音がオフィス街にこだまする。
「は、迫力がやばいな……。怪獣大暴れだ」
「あの巨体だ。思いもよらねぇ距離から攻撃が伸びてくる可能性もある。気を付けろよ」
「ああ、分かってる」
「エヴァに言ったんだよ」
「お前ほんと俺のこと大嫌いだよな」
やり取りを交わしつつも、日向と日影は巨竜型のレッドラムの踏みつけ攻撃をうまく回避しつつ、引き続き巨竜型の至近距離をキープしつつ攻撃を仕掛ける。
日向は”点火”を使用し、日影は”オーバードライヴ”を使用。二人の燃え盛る『太陽の牙』が、巨竜型の足を斬りつける。
並大抵のレッドラムなら一太刀で即死する火力を誇る二人の斬撃。
だが、巨竜型のレッドラムは面倒くさそうに足を下げるだけだ。
「いくら『太陽の牙』でも、さすがに一回や二回斬りつけただけじゃくたばらねぇよな、その図体だとな!」
「でも効いているはずだ! 地道に攻撃を続けていこう!」
「次は私が。”ゼウスの雷霆”!!」
エヴァが杖をかざすと、空から稲妻が落ちてきた。
轟音と共に、巨竜型の背中に命中する。
「GUUUUU……!!」
落雷の衝撃は、軽くトン単位に達する。
これには巨竜型もうなり声をあげた。
エヴァの能力を危険と見たか、巨竜型のレッドラムが、四つ足で駆けて突進してきた。
「GRRROOOO!!」
ただでさえ巨体で歩幅があるのに加えて、巨竜型の動きはその大きさに見合わず軽やかだ。時速にして六十か七十か、それくらいは出ているだろう。その突進はエヴァだけでなく、彼女の近くにいる日向と日影をも巻き込む軌道だ。
「は、速い速い!?」
慌てふためく日向。
右に逃げても左に逃げても、とうてい避けきれるものではない。
頭ではね飛ばされるか、足で踏みつけられるか。
これを見て、日影は素早く右へ跳んだ。
”オーバードライヴ”の身体強化により、その跳躍は常人の数倍以上に高められている。
エヴァも『星の力』による身体強化で、左へ跳んだ。
あっという間に巨竜型の突進の軌道から逃れる。
残るのは日向だけであるが、彼は二人のような超人的身体能力は発揮できない。まだ負傷していないため”復讐火”も使えない。
すると日向は、逆に巨竜型に向かって走り出した。
そして接触する直前、スライディングを繰り出す。
「な、南無三!」
仰向けの体勢で前方へ滑り込む日向。
巨竜型の足が、日向のすぐ上を通過。
そのまま日向は、巨竜型の腹の下へ潜り込む。
巨竜型はそのまま突進を続け、日向をまたぎ、その先に建っていたビルの壁に激突した。
巨竜型の巨体をぶつけられ、ビルの壁が派手に倒壊。
突進を回避された巨竜型は、方向転換して日向たちに向き直る。
「GRRRRR……GUUOOOOOO!!!」
雄たけびと共に、巨竜型のレッドラムは口から炎を吐き出した。
ただの炎ではない。赤色の中に黒色が混じった、禍々しい炎だ。
巨竜型は首を右から左へ大きく降り、この炎のブレスを薙ぎ払うように吐き出す。日向たちの視点では、見上げるほどの高さの炎の壁が迫ってくるような光景だった。
「え、エヴァ!」
「任せてください……!」
エヴァが道路に手を突いて、『星の力』を流す。
道路が大きく盛り上がり、分厚い壁となった。
日向たち三人は、その壁の後ろへ身を隠す。
巨竜型の炎のブレスが、エヴァが生成した壁に吹き付けられる。
赤熱して溶解しかけたものの、壁はなんとか炎のブレスに耐えきってくれた。
壁の後ろから出てくる日向たち。
周囲は巨竜型の炎のブレスが燃え移り、赤黒い炎があちこちに広がっている。
「地獄みたいな光景だな……」
「それより、これだけ炎が燃え広がると、オレたちも満足に動けねぇぞ。炎の影響でこのあたりの気温も上昇してやがる。炎が燃えているだけで、オレたちの体力が奪われちまう」
「私がなんとかしてみます。荒れ狂え……”ポセイドンの怒り”!!」
エヴァが『星の力』を水へと変換。
生み出した水球を地面に叩きつけると、津波が発生した。
巨竜型のレッドラムよりも高く、大規模な津波だ。
巨竜型は後ろへ飛び退き、津波に呑まれるのを回避。
周囲に燃え広がっていた赤黒い炎は、そのほとんどが津波に巻き込まれた。
……だが、しかし。
津波が引いても、赤黒い炎はその場で燃え続けていた。
「ダメでしたか……。アメリカの兵士さんの言う通りでしたね。あの巨竜型の赤黒い炎は、消火することができないようです」