第1337話 エア・アサルト
コロンバスからおよそ700キロメートルほど先に、セントルイスの街がある。
具体的な場所を説明すると、ミズーリ州東部。
ミシシッピ川とミズーリ川の合流地点に位置する。
街の右端に沿うようにミシシッピ川が流れており、その先にはイースト・セントルイスの街がある。他にも周辺には大小さまざまな郡市が存在し、セントルイスはその中でも最も規模の大きい都市だ。
現在のセントルイスの街は、グラウンド・ゼロの地震の影響によるものか、多くの建物が倒壊してしまっている。あちこちから黒煙が昇り、鮮血の異形たちが跋扈する。まさに地獄のような光景である。
そのセントルイスの東の空から、日向たちが乗る黄金の飛空艇が接近。
飛空艇の周囲には五機のラプター戦闘機。
さらに、七機の無人ステルス爆撃機。
『タイガー。こちらラプター1。作戦エリア、セントルイスを目視で確認。第一ターゲットである多連装ミサイル砲台型のレッドラム、まもなく射程圏内。これより戦闘を開始する』
「了解。東エリアの砲台はこの飛空艇で始末する。残り三基を頼んだ。幸運を」
ラプター戦闘機に搭乗するノイマン准尉と、飛空艇に乗っているマードック大尉の通信が行われた後、ラプター戦闘機部隊はそれぞれ展開し、飛空艇を追い抜いて先行。その後ろに無人ステルス爆撃機もついて行く。
セントルイスの四方に設置されたミサイル砲台型のレッドラムも、空から接近してくる戦闘機を捕捉。五十の発射口から次々とミサイルを射出した。
戦闘機と爆撃機が左右に展開。
地上から発射されたミサイルを回避し、追尾を振り切る。
それから遅れて、飛空艇も作戦エリア内に進入。
東エリアのミサイル砲台型レッドラムをロックオンする。
操縦桿を握るのは、オネスト・フューチャーズ・スクールのアラム少年。
飛空艇の接近を、東エリアのミサイル砲台型レッドラムも感知した。飛空艇めがけてミサイルを乱射してくる。
飛空艇は戦闘機ほど速くはないが、バリアー機能を搭載している。
ミサイル砲台型レッドラムが撃ってきたミサイルは全てバリアーで防御し、こちらからもエネルギー弾を撃ち返す。
飛空艇が撃ち出したエネルギー弾が地上を爆撃し、東エリアのミサイル砲台型レッドラムも巻き込む。十数発のエネルギー弾を撃ち込まれ、ミサイル砲台型レッドラムは崩壊した。
操縦を務めるアラムは、この戦果を見てガッツポーズ。
「やった! 一基やっつけたよ!」
「アラムくんすごい! それに、あれだけミサイルを撃ってもバリアーで敵の攻撃を受け止めても、まだ全然疲れてなさそうだし、超能力のスタミナもついたんじゃないかな?」
北園がアラムを褒め称えると、アラムも嬉しそうである。
年相応の少年のように得意げに語る。
「へへ、この数日間、実戦の中でみっちり鍛えられたからね。初めて操縦した時よりはずっと強くなってる自信があるよ!」
「おおー、それは頼もし……あ、ちょっと待って! あれ!」
そう声を上げて、北園がコックピット内のモニターの一部を指さす。
モニターに映し出されているのは、セントルイスの中心街。
地震に耐えて、倒壊を免れたビルが群立しているエリア。
そこに、巨竜型のレッドラムの姿があったのだ。
空を見回し、背中の翼を広げ、飛ぶ準備をしているように見える。
「例のドラゴン型だよ! こっちまで近づかれたら大変なんじゃないかな!?」
その北園の言葉を聞いて、マードックもうなずいた。
「その通りだ。予定より少し早いが、三人にはさっそく地上へ降りてもらって、巨竜型の足止めを行なってもらおう。日向、日影、エヴァ、よろしく頼むぞ」
「分かりました!」
「よっしゃ、任せとけ」
「了解しました」
マードックに返事をして、三人はこの飛空艇の甲板へ移動。
吹き付けてくる風を目いっぱいに受けながら、眼下の街を見下ろす三人。
ここから三人は地上へ降下するつもりだ。
日影は”オーバーヒート”を使って。
日向はエヴァの能力の補助を受けて。
「エヴァ、頼むからしっかり俺を地上へ降ろしてくれよ? 地表激突だけはやめてくれよ?」
「努力します」
「そこは『任せてください』くらいの頼もしい言葉が欲しかったなぁ!」
「泣き言いってねぇでさっさと行くぞ」
「くそ、今は自力で飛べる日影が羨ましい……!」
やり取りを終え、三人は共にジャンプ。
頭から飛び込むような体勢で地上へ降下。
真下には巨竜型のレッドラム。
翼を大きく羽ばたかせ、すでに身体が少し浮きあがっている。
この巨竜型が思うように暴れ回ったら、日向たちは地上部隊展開どころではない。この巨竜型を自由にさせるわけにはいかない。
エヴァが『星の力』を集中し、能力を発動。
「堕ちよ……”アバドンの奈落”!!」
エヴァの詠唱と同時に、巨竜型を上から押さえつけるような重力場が発生。巨竜型は羽ばたいても羽ばたいても上昇することができない。
「GRRRR……!?」
戸惑っている巨竜型。
それをチャンスと見て、次は日影が仕掛ける。
全身に業火を纏い、落下のスピードをアップ。
流星のような速度で、巨竜型めがけて突撃する。
「再生の炎……”落陽鉄槌”ッ!!」
そして日影は、巨竜型の脳天に着弾。
これには巨竜型もたまらず体勢を崩し、背中から地上へ落下した。
「GRRROOOO……!?」
道路や看板、標識やガードレールを破壊しながら地上へ落ちた巨竜型のレッドラム。
しかし、日影の最大火力を脳天に喰らったというのに、巨竜型はまだまだ健在だ。頭に燃え移った日影の火を、頭を振って消火している。必死にと言うより、煩わしそうに。
そこへ、三人も地上へ降りてきた。
日向は、エヴァの重力操作でゆっくり降ろしてもらいながら。
巨竜型も体勢を整え、改めて三人を見据える。
四つ足で大地を踏みしめ、顎下が地上すれすれの前傾姿勢。
そんな体勢でも、背中はビルの三階に届きそうだ。
仮に後ろの二足で立ち上がれば、それこそ見上げるような背の高さになるだろう。
「GRRRRRR……!!」
「うわぁ、さっき日影が激突したから怒ってるよ」
「日向が視界に入ったからブチギレてるんじゃねぇか?」
「視界に入っただけでかい。理不尽過ぎていっそ笑えてくるわ」
「お二人とも、話はそこまでに。……来ます!」
「GRRROOOOOOO!!!」