第1333話 次の一手に向けて
コロンバスの街を占拠していたレッドラムたちを殲滅し、街の奪還に成功した日向たちとアメリカチーム。
しかし、途中で現れた光剣型のレッドラムによって、十人のアメリカ兵たちが死傷。さらに新たに確認された巨竜型のレッドラムの乱入により、せっかく追い詰めた光剣型のレッドラムに逃げられてしまった。
その後、ピッツバーグに待機させていた後続隊をここコロンバスに呼び寄せ、ピッツバーグの時と同じようにコロンバスの空港を前線基地とする。
戦闘から数時間が経ち、現在は夕方。
マードックが各隊員から報告を受けている。
「セントルイスに向かわせていた偵察部隊からデータが届きました。現在、まとめの作業に入っています」
「うむ。頼む」
「ざっとこの街を見回ってきたがな、あの最後に出てきた……巨竜型のレッドラムだったか? アイツが燃やした街、まだ燃えてるぞ。炎が消える気配もない。炎の色も赤黒くて変な感じだし、自然には消えない炎なのかもしれねぇ」
「なるほど。報告感謝する」
「大尉ー! 街中のガンショップにこれだけ銃が残ってたぜ! 収穫の詳細はこのファイルにまとめてあるから暇な時にでも読んどいてくれよ!」
「分かった。ご苦労だったな。獲得した物資はいつも通り補給班へ引き渡してくれ」
「こちら医療班です。レイカさん、”怨気”の効果が抜けてきたようで、ミス北園の”治癒能力”が効力を発揮し始めました。現在、レイカさんの容態は安定し、落ち着いて眠っておられるところです」
「そうか、ありがとう。引き続きレイカをよろしく頼んだ」
今日の戦いの疲れも感じさせないほどに、精悍な姿勢で隊員たちに指示を出すマードック。
それからしばらくして、隊員たちの報告が落ち着いた後、マードックは日向に声をかけた。
「さて……日下部日向。お前たちも今日はご苦労だったな。お前たちがいなければ、光剣型の乱入による犠牲はこの程度では済まなかっただろう。感謝している」
「マードック大尉もお疲れ様でした。しかしまぁ、あれが光剣型のレッドラムですか……。話には聞いていたはずでしたけど、本当にやばい相手でしたね……。あんな動きをするとは……」
「ああ。改めて見ると本当に恐ろしい相手だった。殲滅力を上げるためにこちらの戦力を分散したが、誤った采配だったな……。犠牲にしてしまった隊員たちに申し訳が立たん……」
「マードック大尉のせいじゃないです。事前の偵察機のデータでは光剣型の姿は無かったですし、あの街のレッドラムの奴らも、最初から光剣型がいるのが分かっていたなら、あいつを軸にした戦いをしていたはずです。今回の光剣型はたぶん、たまたまあの街に居合わせて乱入してきたんだと思います。事故ですよ事故」
「そう言ってくれると気持ちが楽になる。ありがとう。だが、事故だとしても、その可能性を弁えた上で軍を動かすのが指揮官の役目。今朝のブリーフィングの時点で、鮮血旅団等の乱入は予測されていたことだった。その上でこの体たらく。失態だったが、この経験は決して無駄にはしない」
ミスは深く反省し、しかして心は折れず、より強く。
さすがはマードック、頼りになる大人である。日向の目にはそう映った。
この話がひと段落したところで、マードックが次の話に移る。
「本題に入ろう。次の我々の目標はセントルイスの街だ。あの街には、昨日は無人偵察機を向かわせ、現在も歩兵の別動隊による偵察を行なっている」
「かなり厳重に偵察してますね」
「ああ。というのも、無人偵察機の時点で、あの街には相当な数のレッドラムが集結していることが判明してな。恐らくあの街は、連中にとっての防衛ラインの一つなのだろう。あの街で我々を全力で阻止するつもりなのだ」
「向こうはどれくらいの戦力なんですか?」
「現在確認できているだけでも、通常個体のレッドラムは五百以上。上位個体たる『目付き』も三十以上が確認されており、その中には例の鮮血旅団、そして今日我々の邪魔をしてくれた巨竜型のレッドラムもいるようだ」
「うわぁ……ガチ配置……」
「さらに、街の四方には対空多連装ミサイル砲台型のレッドラムも設置されている。射程距離は推定、半径三十キロ以上。標的をロックオンすると、およそ五十発の誘導ミサイルを一気にぶっ放してくる。射程距離は先日の超長距離砲型には遠く及ばないが、火力と誘導力は超長距離砲型以上だ。偵察機もこのミサイル砲台型によって始末された」
「うわぁ……うわぁ……ガッチガチのガチ配備……。一応尋ねてみますが、セントルイス自体を迂回して避けるとかいう方法は取れないのですか?」
「そうなれば、移動中の我々を連中が横から叩くか、我々がグラウンド・ゼロのもとまで辿り着いたところで後ろから挟み撃ちにするかだろう。次元移動が使える将軍型がいる以上、我々がどれだけ速いペースで先に進んでも連中を振り切ることはできない」
「それは、確かに……」
「つまるところ、連中の拠点を放置するというより、あの敵戦力を放置しておくことが問題だ。敵戦力が一か所に集中している以上、厳しい戦いになるのは避けられない。だが逆に言えば、わざわざ姿をさらして一か所に固まってくれている、すなわち探す手間が省けるということでもある。ここで敵戦力を削り、対グラウンド・ゼロ戦に向けて後顧の憂いを断つ。それが大きな目標だ」
マードックの言葉を受けて、日向は納得。
納得して戦いに行くのと、納得せずに戦いに行くのでは、いざ戦場に出た時の覚悟が大きく違ってくる。戦場で全力が出せるかどうか、にさえ関わってくる。
しかし、それほど戦力が集中した街を落とすとなると、こちらも生半可な戦力では太刀打ちできないだろう。恐らくは日向たちとアメリカチームも、持っている手札のほとんどを出し尽くす総力戦で挑まなければならない。
「チーム分け、分けたチームの連携の確認、レイカさんを始めとした負傷兵の休息、もろもろ合わせて、セントルイス攻略は二日後ってところですかね?」
日向がそう尋ねるが、マードックは首を横に振る。
「いや、お前のタイムリミットの問題もある。作戦決行は明日だ。チーム編成は一晩あれば完了できる。連携も問題ない。たとえ我々とお前たちの人員による混合チームでも、戦闘の流れの中で問題なく連携は取れるだろう。昨日と今日の戦いでそう確信した。負傷兵も、ミス北園と我々の医療チームがいれば、明日にでも回復する」
「い、急いでくれる気持ちはありがたいんですけど、大丈夫ですかね? 俺が慎重すぎるのかな」
「明日でタイムリミットは11日なのだろう? 時間は少しでも短縮した方が良い。これから先、何が起こるのか分からないのだから」
「……そうですね」
11日。
日向は、改めてその数字を聞いて、自分に残された猶予の少なさを実感した。