第1331話 六対一
たった一体で、一瞬のうちに多くのアメリカ兵たちを死傷させた光剣型のレッドラム。
現在は日向、北園、本堂、シャオラン、レイカの五人が光剣型のレッドラムと直接対峙しており、コーネリアスが遠方からの狙撃で援護。合わせて六人がかりで光剣型と戦闘を繰り広げている状況である。
シャオランの空の練気法”無間”があるため、光剣型は迂闊にシャオランの”空の気質”の領域内に踏み込むことができないでいるようだ。
今のシャオランの拳は、あの”嵐”の星殺しドゥームズデイとも渡り合える。あれをまともに受けたらタダでは済まない、ということを光剣型も分かっているのだろう。
そこに付けこみ、本堂とレイカが前に出る。
少し斬りかかって、危なくなったらシャオランの”空の気質”の中に逃げ込む戦法だ。
「時間をかけて、じっくりと相手をすることにしよう。敵は手強い。動きをよく見ておかねば」
「ですね。そして、大尉や日影さんといった援軍が来る時間稼ぎにもなります。長期戦で不利なのは向こうの方です!」
そして北園は、少し高めの空中から火炎や電撃を放って、光剣型に攻撃を仕掛けている。
「”発火能力”っ!」
北園が大爆炎を放ったが、すでに光剣型はその場から逃げている。誰もいなくなった道路に爆炎が叩きつけられるだけで終わった。
「うう……。やっぱりこの距離じゃ、撃ってから着弾まで時間差があるから、炎も電撃もだいたい避けられちゃうなぁ。でも近づいたら、また叩き落とされちゃうかもだし……」
負傷者が出たら、光剣型への攻撃の手が減るだけでなく、その負傷者をカバーするために人手を割かなければならなくなる。
あの光剣型を、負傷者をカバーしながら相手取るのは極めて難しい、いや事実上の不可能だ。だから誰も負傷で離脱するわけにはいかず、ゆえに北園も注意深くなっている。
「さっきはやられかけちゃったし、気を付けないと。でも……やっぱり少しでもみんなの役に立ちたい気持ちもある。けれどやっぱり落ち着いて冷静に……。うー、こういうの、もどかしいなぁ!」
言いながら、北園が電撃を発射。
光剣型の足元の道路を粉砕して機動力を奪うのが目的だ。
だが、光剣型はすでに、その場から消えるような速度で後退。
北園の足場粉砕にはまったく巻き込まれず、彼女の作戦は失敗に終わった。
コーネリアスの狙撃が光剣型めがけて飛んでくる。
彼は、ここから三百メートルほど先のビルの屋上から光剣型を狙っているようだ。
しかし、光剣型は大きく剣を振るい、弾丸を切り裂いてしまう。
「チッ。奴め、何らカの手段デこちらヲ見ていルのカ?」
これにはコーネリアスも思わず悪態をつく。
普通なら有り得ない。はるか遠くからの狙撃を、こうまで完璧に防ぐなど。
「……こちらノ居場所が割れていル以上、狙撃ノ射線も予測されルか。ポジションを移動してミよう」
そうつぶやき、コーネリアスはその場から移動。
地上では引き続き、日向たちが光剣型のレッドラムと戦闘中。
本堂とレイカが同時に光剣型に斬りかかる。
シャオランも光剣型を”空の気質”の領域に捉えようと動いている。
日向もまた『太陽の牙』を構えて、光剣型に攻撃を仕掛けるタイミングを見計らっているようだ。
しかし光剣型は、本堂とレイカを相手しながら、驚異的な身体能力でアグレッシブに動き回るので、”復讐火”が使えないと一般人程度の身体能力しか発揮できない日向はついて行くことができないでいる。
その時、日向は光剣型の動きを見て、何かに気づいた。
「あいつ、逃げようとしているように見える……? けど、戦闘そのものを放棄するような雰囲気には見えない。まさか、俺たちよりもっと戦力が低いチームを狙いに行こうとしてるんじゃ……」
その日向の予感は的中していた。
光剣型は、本堂とレイカとの間合いが大きく開いたのを見計らって、背中を見せてこの場からの移動を図る。
「あいつ、他のチームを狙いに行く気です! 逃がさないで!」
日向が皆に声をかける。
しかし、光剣型のスピードは速い。
本堂とレイカとシャオラン、三人の速度でも追いつけるかどうか。
その時、コーネリアスの狙撃が飛んできた。
狙いは光剣型の足。
光剣型の移動経路を予測して、そこに弾丸をあらかじめ置いておくような一射。
光剣型はとっさに急ブレーキをかけて、弾丸を回避。
だが、そのおかげで光剣型の足を止めることができた。
その隙を逃さず、レイカが斬りかかる。
今の彼女の髪と瞳は、鮮やかな赤色に変色している。
レイカからアカネに切り替わったのだ。
「逃がしゃしないよ! りゃああああッ!!」
義足のパワーであっという間に光剣型との間合いを詰め、目にも留まらぬ勢いで連続斬りを仕掛けるアカネ。
「シャオランの”空の気質”の領域から離れるのはちとマズイけど、ここが攻め時! 一太刀だけでも入れてやるよ!」
しかし、その全てを光剣型は防御。
隙を突いて、アカネに斬りかかる。
だが、レイカは身を屈めて光剣型の斬撃を回避し、そのまま居合の構えに移行。
この、人格の切り替わりを予測させない戦い方。
かつて沖縄で日影も苦しめたことがある”夢幻殺法”だ。
「捉えました! ”超電磁居合抜刀”!!
鞘の機構に組み込まれたレールガン式の射出装置を用いて、レイカは居合を繰り出した。爆雷の剣閃が光剣型に命中。
……したかに思われたが、光剣型はギリギリのところで、右手の光剣でレイカの居合をガードしていた。光剣型は仰け反りながら後ろへ押し飛ばされたものの、ダメージは無い。
「今のを初見で防ぎますか……! 本当に手強い……」
「……別人格カラ別人格ヘノ極メテ円滑ナ切リ替ワリ。学習」
そうつぶやいた後、光剣型がレイカに斬りかかる。
常人では防ぎ切れない威力の斬撃が、レイカに襲い掛かった。
だが、レイカは高周波ブレードを正眼に構え、光剣型の斬撃をうまくいなす。光剣型の斬撃をそのまま受け止めるのではなく、斬撃の軌道を逸らすような防御だ。
「私は、私よりずっとパワーもあって体格も大きいマモノを相手に、刀一本で戦ってきたんですよ! 圧倒的なパワーで暴れ回る怪物の相手は慣れっこなんです! むしろ今回の相手は人型なぶん、まだやりやすい気さえしますね!」
光剣型の攻撃を凌ぎながら、レイカは光剣型の次の攻撃を予測。
(次は、右手の光剣を使った縦斬りが来る……)
ここまで光剣型の戦い方を観察してきたので、確信があった。
その縦斬りにカウンターを合わせるべく、構えるレイカ。
次の一撃で致命傷を負わせるつもりで行く。
光剣型が次の攻撃を仕掛けてくる。
右の光剣を振りかぶっての縦斬りだ。
「予想通り! これで決める!」
……だが、しかし。
光剣型は右で縦斬りを繰り出しつつ、左の光剣で横斬りを放った。
十字の剣閃が迸る。
レイカは、縦斬りは避けたものの、横の剣閃にみぞおちを切り裂かれてしまう。
「うぁ……!?」
斬られた部分を左手で押さえながら、レイカは背中から地面に倒れてしまった。