第1330話 恐るべき強さ
突如としてコロンバスの街に現れた光剣型のレッドラム。
日向が一人で引き付けていたが、北園が応援を連れてきてくれた。
来てくれたのは本堂、シャオラン、レイカと、二十人ほどのアメリカ兵。
アメリカ兵たちは、近くの建物の陰や屋上から光剣型のレッドラムを狙い、遠巻きに包囲してくれている。
本堂が、周囲を見回しながら日向に声をかけた。
「この、周囲が強烈な熱によって焼かれた跡……。”最大火力”を使ったのか日向。それほどの相手ということか」
「ええそうですよ! これだけの戦力じゃ、まだ足りないかもしれない……。日影もエヴァもミオンさんも、他のARMOUREDのメンバーも、投入できる戦力は全て投入するべきです!」
それを聞いて、本堂の表情にわずかな緊張が走った。
シャオランとレイカも、それぞれ衝撃を受けている。
「うぇぇ、そんなにやばい相手なのぉ……!? 皆と一緒に行けば怖くないと思ってたのにぃ……」
「日影さんとコーネリアス少尉は、レッドラムの残党の処理。エヴァちゃんはグラウンド・ゼロの地震の食い止めのため、万全な状態で戦闘には参加できない。ジャックくんは身体の軽い麻痺のため、こちらへの救援を見送り、ミオンさんとマードック大尉はここから離れているため、すぐには駆けつけられない。以上の理由から、まず私たちが派遣されたわけですが……これは判断を間違えちゃいましたかね……?」
「俺を見捨てず、すぐに駆けつけてくれたのは本当に嬉しいんですけど、できれば皆そろって来るべきでした。このまま皆が順番にここに来るようじゃ、いわゆる『戦力の逐次投入』になってしまう……!」
その一方で、光剣型のレッドラムは、突如として湧いてきたこの敵援軍に、大した動揺は見せていない。軽く周囲を見回した程度だ。
そして、光剣型が言葉を発する。
「目標多数確認。脅威度数、ホボ変動ナシ。殲滅続行」
光剣型が動く。
誰もがそう予期した時、周囲のアメリカ兵たちが一斉に銃を射撃した。
しかし、その時にはすでに光剣型はそこにおらず、道路の上に銃弾が撃ち込まれるのみ。
近くの建物の陰にいた兵士二名に、光剣型が接近。
「What!? 速い……!?」
「うわ、やば……!?」
赤黒い剣閃が奔る。
二名の兵士が、胴体を真っ二つにされてしまった。
真っ二つにされた二名の兵士が倒れるよりも早く、光剣型はその場から移動。次に狙うのは、道路の真ん中で隊列を組んでいた五人の兵士。
「くっ、化け物め!」
「ヤツを近づけさせるな!」
アメリカ兵たちは、それぞれの銃や異能を連射して弾幕を張る。
だが光剣型は、銃弾を二本の光剣で防御して、火球や電撃は回避しながら、アメリカ兵たちに迫ってくる。
そして、あっという間に五人の兵士たちに肉薄。
身体を大きくスピンさせて光剣を振るい、兵士たちを薙ぎ払った。
「ぎゃああ!?」
「うぐぁぁ!?」
あっけなく蹴散らされてしまった五人の兵士。
彼らを援護するため、周囲の他の兵士が光剣型めがけて射撃。
だが、五人の兵士を蹴散らした光剣型は、すぐにその場から移動。
回避された弾丸が、光剣型がいなくなった道路を虚しく砕く。
光剣型は、今度は五階建てのオフィスビルの屋上にいる二人の兵士を狙いに行ったようだ。もうビルの真下まで移動している。
「奴を近づけさせるな!」
「撃て! 撃て!」
アサルトライフルを乱射して、弾幕を張る二人の兵士。
しかし光剣型は、またも二本の光剣で銃弾を防御。
そのまま大きくジャンプし、窓枠に足をかけ、そこからさらにジャンプ。
気が付いた時には、もう光剣型は、二人の兵士の目の前まで飛び上がっていた。
「うお……」
「バカな、なんだその動き……」
そして光剣型は右手の光剣を左から右へ、左手の光剣を右から左へ、×の字を書くように同時に振るう。
二人の兵士の鎖骨に光剣の刀身が食い込み、そのまま心臓まで切り裂かれる。二人の兵士は即死してしまった。
地上では六人の兵士たちが建物の陰から出てきて、三人が光剣型に向かって射撃しつつ、残り三人が先ほど薙ぎ払われた五人の兵士たちの介抱をしている。五人のうち、二人は死亡、一人が重傷、残る二人は命に別状は無いようだが、それでも傷は軽くない。
”生命”の異能を覚醒させ、仲間たちの怪我の治癒ができるようになった女性兵士が、斬りつけられた仲間たちを回復させようとしている。しかし……。
「どういうことなの!? 傷が塞がらないわ!」
「なんでだよ!? お前の異能、人の怪我を治せるんだろ!? ぐ、痛つつ……!」
「そのはずなのに……。あ、まさか、あの光剣型の赤黒い光の剣、ニホンチームの報告にあった”怨気”ってヤツなの……!?
その一方で、屋上の二人を斬殺した光剣型は、宙返りしながら跳躍。
地上の兵士たちが撃ってきた弾丸を回避し、彼らの真上に移動。
すると光剣型は、空中を蹴った。
その勢いで光剣型は加速し、ミサイルのように地上めがけてまっしぐら。
それを見たシャオランが叫ぶ。
「今のは、風の練気法の”飛脚”だ!」
勢いをつけて落下してきた光剣型は、落下しながら剣を構え、着地と同時に剣を地面に突き刺した。
その瞬間、剣を突き刺した場所から赤黒いオーラの大爆発が巻き起こり、周囲にいた十一人の兵士たちをまとめて吹き飛ばした。
「わぁぁぁっ!?」
「のぁぁ!?」
「きゃああああ!?」
この赤黒い爆発も、恐らくは”怨気”。
アメリカ兵たちは、”怨気”の大爆発によって壊滅状態だ。
爆風が治まり、大きく砕かれた道路の上に、光剣型のレッドラムが悠然と佇んでいる。ただ立っているだけなのに、恐ろしいほどの威圧感だ。
ちらりと周囲を見回す光剣型。
爆風に巻き込まれたアメリカ兵たちは、とっさに回避行動に移ったおかげで、命を落とした者は一人もいない。
それは不幸中の幸いだが、まだ彼らの絶対的な危機は去っていない。
すぐそこに光剣型が立っているのだから。
「殲滅スル」
生存した兵士たちにトドメを刺すべく、光剣型が動き出す。
その時。
レイカが恐るべきスピードで光剣型に肉薄し、居合抜刀。
「これ以上はさせません!」
しかし、光剣型はレイカの居合を、光剣で下からすくい上げるように、難なくいなしてしまう。
その光剣型の後ろから、今度は本堂が攻撃。
右腕に生やした大振りの刃で、光剣型の首を狙う。
「はっ……!」
だが光剣型は、しゃがんで本堂の斬撃を回避。
そのまま横に跳んで、レイカと本堂の二名から距離を取る。
そこへ、今度はシャオランが攻撃を仕掛けた。
まずは”空の練気法”を発動させ、場を蒼白いオーラで満たす。
「空の練気法”天界”! からの”無間”ッ!!」
間合いを無視する無間の拳。
シャオランから数メートル離れている光剣型に、崩拳の衝撃が襲い掛かる。
……と思われたが。
光剣型はすでに大きなバク宙を繰り出し、シャオランの”天界”の領域から逃れていた。
「ああ! 逃がした!」
だが、なんとその光剣型めがけて、九時の方向から冷気を纏う対物ライフル弾が飛んできた。駆けつけてきたコーネリアス少尉の狙撃だ。
バク宙の途中の光剣型を正確に狙う神技。
これは間違いなく命中する。
……はずだったのだが。
光剣型は、着地する前に身体を回転させて斬撃を放ち、ライフル弾を弾いてしまった。
そして光剣型は、道路に着地。
日向たち五人を見据え、先ほどコーネリアスが狙撃してきた方向もチラリと見た。
ここまでの戦闘で、多くのアメリカ兵が光剣型一体の手にかかって死傷。
一方、光剣型は大したダメージは無い。
せいぜい、日向の”最大火力”に巻き込まれかけたくらい。
「本当に恐るべき強さですが、仲間たちが大勢やられたのです。黙って引き下がるわけにはいきません……!」
静かに怒りを燃やしながら、レイカはつぶやいた。