第1329話 光剣型のレッドラム
光剣型のレッドラムが北園を空中から叩き落とし、光剣型も北園めがけて急降下。今まさにトドメを刺そうとしている場面。
日向は光剣型に右脚を斬り飛ばされ、立てずにいる。
それどころか、光剣型のあまりの早業に、現状が呑み込めないでいるようだ。
今から日向が”復讐火”を使って北園の救援に向かっても、まず間に合わないだろう。そして北園も、地面に叩きつけられたダメージによって動けずにいる。
北園の死が、確定的だ。
しかし、その時。
光剣型のレッドラムの背後から、何かの鋭い飛行音が接近。
それは、アメリカ軍の戦闘機だった。
戦闘機は光剣型に照準を合わせ、バルカン砲を射撃。
「攻撃中断。防御実行」
光剣型のレッドラムは、両手に持つ二本の光剣でガードの構え。
刀身と銃弾が接触し、金属音が鳴り響く。
光剣型は、見事に剣で銃弾を防御してしまった。
しかし、さすがにバルカン砲の威力は強烈で、数発で光剣型を吹っ飛ばした。
戦闘機が光剣型のレッドラムを吹き飛ばしてくれたおかげで、北園がトドメを刺される事態は回避できた。光剣型は道路に剣を突き立ててブレーキをかけながら着地し、戦闘機は機体を翻してこの場から離脱。
北園を助けた戦闘機のパイロットは、ノイマン・ロビンソン准尉だ。
「タイガー、タイガー、タイガー。オキナワの時の借りの清算と、ラプター2の仕返しだ。しかし、バルカン砲を防御するとはな……。想定以上の化け物だぞアイツ」
恐らく光剣型は、この戦闘機がもう少し接近していたら、バルカン砲に吹っ飛ばされながらも剣を振るって、この戦闘機まで墜としていたかもしれない。そんな予感がノイマンの頭をよぎったため、ノイマンはいったん光剣型から距離を取って離脱することを選択した。
視点は戻り、地上。
北園がダメージに耐えながら、ようやく立ち上がった。
「げほっ、げほっ、いたた……。あのレッドラム、なんて動きするの……!?」
日向を含む六人をあっという間に切り刻み、すでに十メートル以上離れていた北園との間合いも一瞬で詰めてくるあのスピード。タクティカルアーマー・ホワイトメイル四機を十五秒足らずで全滅させたという前評判は伊達ではなかったようだ。
北園の危機は、まだ去っていない。
光剣型はすでに体勢を整え、北園のすぐ前方に立っている。
「ど、どうしよう……。あのスピードが相手じゃ、絶対に逃げ切れない……」
「目標再補足。排除続行」
「させるかぁっ!!」
日向の声がした。
弾丸のような速度で、北園のすぐ側を通過する。
斬られた足を”復讐火”で治し、身体能力も強化したようだ。
そして日向は、光剣型の正面から、燃え盛る『太陽の牙』を振り下ろす。
光剣型は、左右の剣を×字に構えて、日向の振り下ろしを防御。
重々しい金属音が鳴り響き、火花と火の粉がまき散らされる。
日向は光剣型と鍔迫り合いをしながら、北園に声をかける。
「北園さん! 今のうちに飛んで逃げて! こいつは二人じゃ勝てない!」
「り、りょーかい!」
北園は日向の身が心配だったが、あの光剣型なら一瞬で日向を振り払い、再び北園を狙うことくらい造作もないだろう。日向の行動を無駄にしないため、北園はすぐにこの場から離れた。
そして案の定、光剣型は一瞬で日向を振り払った。
その場で高速で一回転して、剣を薙ぎ払って日向を弾き飛ばしたのである。
「SHA!!」
「くぅっ!?」
人間が耐えられるような威力ではなかった。
日向は、プロ野球の投手が投げたストレートのように、右方向へまっすぐ吹っ飛ばされる。
そして、背中から高層ビルの壁に叩きつけられた。
右エントランスと左エントランスの、ちょうど間になっている部分の壁だ。
「ごほっ……!? ぐ……!」
「追撃。排除続行」
光剣型が距離を詰めてくる。
それこそ戦闘機のような、凶悪極まりないスピードで。
一瞬で日向の目の前までやって来て、宙返りしながらの斬り上げを繰り出した。
「HAA!!」
「うおおっ!?」
右へ向かって飛びこむように回避する日向。
ほとんど山勘、考えるより早く行動した。
光剣型の宙返り斬りが、先ほど日向が叩きつけられたビルの壁に食い込む。
すると、斬撃の余波がどんどん壁を昇っていき、五階から上の全面ガラス張りの壁まで到達。このガラス張りの壁も斬撃の余波によって派手に破壊され、割れた窓ガラスが地上に降り注ぐ。
「うわわわ……!? ガラスが落ちてくる……!」
急いでその場を離れる日向。
一方で光剣型は、降り注ぐガラスの雨の中を、悠然と歩いてやってくる。あらかじめ自分にガラスは当たらないということを分かっているかのように、平然と。
「何なんだあいつ……! いくら何でも戦闘力が他のレッドラムと違い過ぎるだろ! 下手すれば『星殺し』級か……!?」
光剣型がゆらりと動く。
距離を詰めてくる。
そこまでは、日向も先読みできる。
しかし、そこからどういう攻撃をしてくるかが分からない。
光剣型が一瞬で日向の懐に潜り込んできた。
右手の光剣を左から右へ振るう斬り払い。
「……けど、動くタイミングだけでも分かっていれば、こういう手も使える!」
すると日向は、光剣型が接近してきたタイミングで”最大火力”を使用。『太陽の牙』の刀身が緋色の灼光に包まれ、尋常ではない熱波が周囲に放たれる。
「ム……!? 緊急後退……!」
これには光剣型も面食らったようだ。
焼き尽くされる前に、後方へ大きく跳躍して日向から距離を取る。
日向も”最大火力”を使い続けるつもりはなかったらしく、光剣型が下がったのを見て、発動を中断させた。
間合いが大きく開き、睨み合う両者。
すると、光剣型のレッドラムが声を発した。
「……周囲ニ敵性反応ヲ多数確認」
その時、光剣型の頭上から火炎の塊が降ってきた。
光剣型は左に跳んで、これを回避。
火炎の塊を撃ったのは、北園だ。
上空から、日向に向けて手を振っている。
「日向くーん! 待たせてごめん! 応援を連れてきたよー!」
すると、日向の背後から誰かがやって来た。
本堂とシャオラン、それからレイカだ。
また、周囲の建物の陰や屋上に、複数のアメリカ兵の姿が見える。およそ二十人ほどいるだろうか。それぞれ銃を構え、あるいは異能の発動準備を行ない、光剣型を遠巻きに包囲している。
「よく持ちこたえてくれました日下部さん! ここからは私たちも加勢しますよ!」
レイカが代表して、日向にそう告げた。