第1326話 コロンバス攻略戦
ブリーフィング、朝食などの前準備も終わり、いよいよ日向たちとアメリカチームによるコロンバス攻略戦が開始される。
コロンバスの街は、日向たちが現在の拠点にしているピッツバーグにも負けず劣らず、それなりの規模を誇る都市である。中心街には見上げるほどに高いビルもいくつか建てられている。
日向たちは飛空艇に乗って、コロンバスの街へ向かっている最中。
その飛空艇の後ろを、六機のアメリカチームの戦闘機が追従している。
本来、戦闘機の最高飛行速度は、飛空艇よりもずっと速い。
現在、戦闘機はスピードを調節し、あえて飛空艇よりも遅く飛行している。
これは、もしもコロンバスにも航空機を撃墜する手段があった場合、バリアーを展開できる飛空艇が盾となることで、戦闘機が撃墜されることを防ぐためである。昨日の偵察機の偵察では、コロンバスには超長距離砲型レッドラムといった航空機撃墜手段は無かったようだが、新たに新設した可能性もある。
コックピットのメインモニターを注視するオネスト・フューチャーズ・スクールの男子生徒二名が声を上げた。
「コロンバスの街まで、残り五十キロメートルだよ!」
「ここまで近づいても何も攻撃してこないってことは、向こうには相変わらず航空機を撃墜する手段は無いのかも!」
その報告を聞いて、マードックが通信機を使い、六機の戦闘機のパイロットたちに一斉通信を行なった。
「ラプター部隊。コロンバスに対空攻撃手段の類は無さそうだ。予定通り、切り込んでくれ。諸君らの対地攻撃の後、我らが生き残りを刈り取る。派手にやってもらって構わない。以上だ」
『了解』
マードックの通信に返答して、六機のF-22ラプター戦闘機が一気に飛空艇を追い抜く。
街に突入する前に、戦闘機のパイロットの一人が、他のパイロットたちに通信を行なった。
『タイガー、タイガー、タイガー。こちらラプター1。姓はロビンソン、名はノイマン。近代戦争にて必須と言っても過言ではない対空戦力を疎かにした阿呆どもに痛い目を見せてやろう』
『ラプター3からラプター1へ。近代戦争って言うと、十八世紀から二十世紀くらいを指すんじゃないか? これは現代戦争だろう』
『ん、そうだったか? まぁいいか、どっちでも』
『よくねぇよ。お前そういうところは相変わらず適当だよな』
ラプター1ことノイマン・ロビンソンは、沖縄で予知夢の五人との対決にも参加していたアメリカのマモノ討伐チームの一員である。あらゆる乗り物の操縦を得意とし、沖縄の時は対戦車ヘリを操縦していた。今回はこのラプター戦闘機を操縦しているようである。
やがて六機の戦闘機は、あっという間にコロンバスの街の上空に到達。
街の道路に集まっていたレッドラムたちが、一斉に戦闘機を見上げた。
六機の戦闘機は、レッドラムたちが集まる地上に向けて、一斉にミサイルを発射。大勢のレッドラムがいっぺんに吹き飛ばされた。
生き残ったレッドラムたちは、戦闘機へ向けて超能力による火球や電撃、ライフル型の射撃などで、戦闘機の撃墜を図る。
しかし、音速で飛行する戦闘機にとって、彼らレッドラムの攻撃は、まさにハエが止まるような遅さだった。レッドラムたちの攻撃が放たれた時には、すでに戦闘機はレッドラムたちの攻撃の射程圏外まで出ている。
この街のレッドラムたちのリーダー格である、左右の手に巨大な爪を持つ大柄な体格のレッドラム……大爪型のレッドラムとでも呼ぶべきこの個体は、空を飛ぶ戦闘機を見上げながら忌々しそうに叫んだ。
「ウヌヌゥ……! コウイウ事ヲサレル心配ガアルカラ、コチラニモ超長距離砲ヲ寄越セト言ッタノニ! 将軍型メ、『セントルイスヲ重点防衛ライントシテ要塞化スル』ナドト言ッテ、コチラニ回ス戦力ヲ渋リヤガッタ!」
戦闘機は引き続き地上へ攻撃を行ない、さらに日向たちが乗る飛空艇も到着した。レッドラムたちが集まる地上にエネルギー弾を発射しながら、艇内の地上部隊を投下する。
さっそく散開してレッドラムたちを各個撃破し始める日向たちとアメリカチーム。
その中で、日影とジャックは、敵のリーダー格である大爪型のレッドラムをターゲットとして定めたようだ。
「アイツが大将首っぽいな。余計なことをする前に、さっさと倒しちまうか」
「オーケー。喜べヒカゲ、このジャック様が援護してやるぜ?」
「けッ、間違ってもオレに弾丸を当てるんじゃねぇぞ」
「小癪ナ! 死ヌノハ貴様ラダ!」
そう言って大爪型のレッドラムが飛び掛かり、右手の大爪を振り下ろしてきた。
日影とジャックはそれぞれ左右に跳んで、この大爪を回避。
二人がいなくなったアスファルトの道路に、爪による深い切れ込みが入る。
「おっと、爪の切れ味はけっこうクレイジーだな! まぁ、当たらなけりゃ意味ねーけどな!」
そう言ってジャックが二丁のデザートイーグルを射撃。
大爪型のレッドラムは、左手の爪を使って銃弾をガード。
右側に跳んだ日影が、大爪型に斬りかかる。
大爪型はジャックを警戒しつつ、日影を正面に捉え、迎え撃つ体勢に。
その時、ジャックが大爪型の膝裏に射撃。
予期せぬ箇所を撃たれ、大爪型の体勢が少し崩れる。
「グッ……!?」
「もらったぜッ!」
これをチャンスとして、日影が『太陽の牙』を振り抜いた。
だが、大爪型は力任せに右爪をぶん回し、接近してきた日影をがむしゃらに払いのける。
「黙レェッ!!」
「ちぃッ!? 見た目どおり、かなりパワーあるぜコイツ……!」
振り抜こうとした『太陽の牙』ごと仰け反らされ、隙を晒してしまう日影。
大爪型は、右爪を振り抜くために捻った体軸を戻すように、今度は左爪で日影を引き裂きにかかる。
しかし、今度はジャックが日影の右後方に回り込み、大爪型の正面から大爪型の顔面めがけて射撃。
「クッ!」
大爪型はとっさに左手の爪を防御に使った。
ジャックの射撃は受け止められたが、その隙に日影が大爪型から距離を取る。
大爪型のタフネスなら、あるいはジャックの銃弾をわざわざ防御せずとも、あえて受けながら日影に攻撃を仕掛けることができたかもしれない。しかし、ジャックが正面から射撃してきたので、反射的に防御してしまったようだ。
そしてジャックは、あの軽い性格に似合わず、駆け引きのセンスが鋭い。
日影を逃がすため、この展開を狙って、あえて大爪型の正面から射撃したのだ。
距離を取った日影を逃がすまいと、大爪型が踏み込む。
その踏み込んだ足に、ジャックが銃弾を撃ち込んだ。
大爪型の動きが止まる。
「グゥゥ……!?」
すると、先ほど大爪型から距離を取った日影が、その身を炎に包ませて大ジャンプ。上段に構えた燃え盛る『太陽の牙』を、大爪型めがけて一気に振り下ろす。
「”オーバードライヴ”ッ!!」
日影の一撃をガードするため、大爪型は両爪を盾に使おうとする。
その大爪型の右腕を、ジャックが射撃。
大爪型の右腕の動きが一瞬だけ鈍る。
その一瞬の鈍りのために、大爪型は万全の体勢で防御ができず、日影にガードを突破されて胴体を深く斬られた。
「GAAAAAAAA!! オノレ! サッキカラウザッタイ奴ダ!!」
怒りの咆哮を上げる大爪型。
大きなダメージを与えたはずだが、まだまだ健在のようだ。
日影とジャックは、油断なくそれぞれの武器を構えた。
◆ ◆ ◆
コロンバスの街中で人間たちとレッドラムが戦っている頃。
ここは、コロンバスの街はずれ。
そこに、一体のレッドラムの姿があった。
標準的な人型で、スカート付きの鎧を着こんでいるような造形。
兜のような形の頭部は、マスクをしているかのように鼻や口が無い。
目はある。機械のように無機質な金色の瞳が。
そして、このレッドラムは左右の手に、赤黒い不気味な光の刀身を持つ剣を、合わせて二本持っていた。
「……目標捕捉。撃滅開始」
短い言葉を発し、この目付きのレッドラムは街中へと向かった。