第1324話 大尉とのブリーフィング
エヴァも起床し、準備を終えた日向たちは、今日の作戦を確認するためにマードック大尉のもとへ。
「集まってくれたか。少しバタバタしていたようだが、大丈夫か?」
「ああ、はい、大丈夫です。約一名、なかなか起きてくれなかっただけです」
「ふっ、なるほど」
事情を察したのか、マードックは軽く微笑んだ。
当の本人は、明後日の方向に視線を向けて知らんぷり。
それから日向たちは、本格的な打ち合わせに入る。
「昨日も話した通り、今日はコロンバスの街を制圧する。ピッツバーグ制圧後、空母から偵察機を飛ばして偵察にあたらせたが、コロンバス付近を飛び回っても偵察機は撃墜されなかった。あの街に超長距離砲型レッドラムを始めとした、航空機撃墜手段は存在しないようだ」
そんな自爆前提の覚悟で偵察させたのか。
そう思いながらも、日向はマードックに返事をする。
「つまりこっちの飛空艇だけじゃなくて、そっちの戦闘機も遠慮なくコロンバス攻略に参加できるってことですね。撃墜される心配がないから」
「その通りだ。しかし、その先の街、コロンバスの次に我々が攻略する予定のセントルイスでは、偵察機は撃墜されてしまったようだ」
「って、撃墜されたんですか!? 乗っていた人は大丈夫なんです!?」
「ん? ああ、安心しろ、その偵察機はAIが操縦する無人機だ。中には誰も乗っていないよ」
「あぁ、なるほど……。どうりで撃墜されてもおかしくない無謀な偵察をさせると思ったんですよ……」
「コロンバス攻略作戦遂行の間、一部の兵士はこのピッツバーグの街に残して、街中に残っている物資の回収を担当してもらう。だから、昨日よりは多少、地上で行動する兵士は減ってしまうだろう」
「まぁでも、そちらの兵士さんも一人ひとりが強者ですし、戦闘機の支援もありますし、いけるでしょう」
「私もそう思っているが、怖いのは例の鮮血旅団だ。あれがどう出てくるか」
鮮血旅団。
その名前を聞いて、日向たちにも緊張が走る。
スピカ型のレッドラム。将軍型のレッドラム。そして、まだ日向たちは見たことがない、光剣型のレッドラム。一体一体が恐ろしいほどの戦闘力を持つ、三体のレッドラムのグループだ。
「昨日、AI偵察機が送ってくれた画像には、コロンバスに鮮血旅団の姿は無かった。しかし、このピッツバーグが制圧されたことは、すでに他のレッドラムたちも知っていると見るべきだ。偵察のタイミングと合わなかっただけで、向こうもコロンバス防衛に参加しているかもしれん」
「いずれ倒さないといけない相手です。見つけ次第撃破……ですかね?」
「可能ならな。だが無理はできない。最悪、コロンバスのレッドラムたちに損害を与えた後、我々の方がこのピッツバーグまで後退することになるかもしれんな」
それは、できれば回避したい展開だ。日向にはタイムリミットがある。そのタイムリミットもすでに、両手の指で数えられるようになる一歩手前。猶予はあまり残っていない。
「そろそろ本格的に、練らないといけませんね。鮮血旅団の対抗策について」
「その通りだな。将軍型のレッドラムは、まだ何とかなる相手だろう。奴の能力は下位個体のレッドラムたちに対する優れた指揮と”次元移動”だが、団体戦については我々アメリカチームも一家言ある身だ。そう簡単に後れは取らない自信がある」
「頼もしいですね。それじゃあやっぱり問題なのは、残りの二体ですか……」
日向がそう発言すると、マードックもうなずいて難しい表情を浮かべた。
スピカ型のレッドラムについては、当個体の最大の風評被害者とも言えるスピカ本人がいる。彼女に聞けば、スピカ型のレッドラムの弱点などが分かるかもしれない。
さっそく日向が尋ねてみると、スピカは得意げに答え始めた。
「ワタシの弱点でしょー? こうして考えてみると、意外と色々あるんだよー。たとえば、心を読んでもどうしようもないくらいのスピードで動かれたら、さすがのワタシも反応できない!」
「……とは言うものの、レッドラムのスピカさん、本堂さんの速度も捉えるくらいには反応良かったですよ」
「ま、まぁ、前もって『相手が動く』っていう覚悟ができると、反応速度もすごく良くなるものだからねぇ……」
するとここで、日影がスピカに声をかける。
「オレが以前、心を読むレッドラムと戦った時は、スピカがオレに声をかけて反応させて、オレ自身も心に思っていなかった攻撃をして、そのレッドラムを攻撃したんだよな」
「あったねーそんなこと。キミの言う通り、『急な心の変化』には対応が遅れるのもワタシの弱点だねー」
「……とは言ったが、これを毎回狙ってやるのはすげぇ難しいだろうし、何回もやればスピカ型のレッドラムも警戒するか」
「まぁ、確かにねぇ……。ワタシにも警戒心くらいあるし」
すると、今度はシャオランが発言する。
「それじゃあ、スピカ型のレッドラムの動きを止めて、その隙に攻撃するっていうのは? そうすれば心を読んでも回避はできないし、バリアーとかを張られても、回避ができないならボクたちの総攻撃でバリアーごと破壊できるかも」
「おおー! 良いアイディアだよシャオランくんー! かく言うワタシも、ちょうど同じような案を考えていたところでー」
「へへ、そうかな。良いアイディアかな」
……と、嬉しそうにしているシャオランだったが、そこに本堂が割って入った。
「待て。動きを止めるとは言うが、具体的な方法は?」
「え? それはまぁ、誰かが隙を突いて捕まえるとか……」
「それが出来れば誰も苦労しない。捕まえる暇があれば直接攻撃すれば良いのだから」
「うぐ、そっか……。あ、それじゃあ罠とか! スピカ型の動きを止める罠!」
「俺達がスピカさん型のレッドラムを罠に誘導しようとしたら、その意思を読まれるぞ」
「あ、あれ? それじゃあもう、どうしようもなくない?」
「少なくとも、罠単体でスピカさん型をどうにかするのは難しいだろうな」
「そんなぁ……。せっかく褒められたボクのアイディアが……」
考えれば考えるほど、難題だ。
最初にスピカは「意外と弱点はある」などと言っていたが、この始末である。
”読心能力”。
”念動力”。
”瞬間移動”。
それぞれ、単体だけならば、まだやりようはあったかもしれない。
これら三つの能力が全てスピカ型のレッドラムに集まってしまったために、攻撃防御移動力の三拍子が凶悪な水準でまとまった怪物が生まれてしまっている。
スピカ型の弱点が極めて少なく感じるのは、シンプルに使用超能力のバランスがとれているからだ。それぞれの能力が、他の能力の苦手分野をうまく補完している。
「いやー……ワタシって、敵に回るとこんなに厄介な存在だったんだねー」
「他人事みたいに言わんでください」
間延びしたつぶやきを発するスピカに対して、日向はそうツッコまずにはいられなかった。