第1321話 ピッツバーグ制圧
三基の超長距離砲型のレッドラム、その全てを陥落させた予知夢の六人とアメリカのマモノ討伐チーム。
その後も、アメリカチームが中心となって、ピッツバーグ市街地にいる残党レッドラムたちを殲滅。エヴァの気配感知能力や、シャオランとミオンの風の練気法”風見鶏”を使い、隠れている個体がいないかも入念に確かめる。
陽が少し夕焼けづいてきた頃にマードックは、このピッツバーグにはもうレッドラムは残っていないと判断。作戦の成功を皆に告げた。
「敵の全滅を確認! 我々の勝利だ!」
そのマードックの言葉を聞いて、兵士たちが一斉に歓声を上げた。
実際のところ、まだ初戦に勝っただけなのだが、最終決戦に勝利したかのような喜びようである。
マードックは、そんな兵士たちを見て少し微笑んだ後、すぐに表情を引き締めて、近くにいた通信兵たちに声をかけた。
「ジュディ! フォーブス! 作戦本部へ連絡を! 敵の超長距離砲型は排除した。予定通りオスプレイで物資を運搬し、作戦本部のリソースの六割をここへ移管! この街を第一前線拠点とする!」
「了解しました! さっそく取り掛かります!」
「サミュエル。お前はブレード兵を率いてもう一度、市街地の探索を行なってくれ。敵はその気になれば、エヴァ・アンダーソンの気配感知能力や、練気法の”風見鶏”を逃れることもできると聞いた。そういった個体がまだ潜んでいるとも限らない。お前たちならば、敵が不意打ちを仕掛けてきても対応できるだろう」
「ふん。雑事を押し付けてくれるものだ。だが、良いだろう。さっそく行動に移るぞ」
「頼む。そうだ、ロドリゴも連れていけ。奴の”千里眼”の超能力ならば、隠れているレッドラムも探し出せるかもしれん」
「なるほど。気配を感知するあの小娘や小僧の能力と違って、ロドリゴの能力は異能による目視。敵を探し出すという結果は同じだが、アプローチの方法が違う。いけるかもしれんな」
周囲は浮かれているが、マードックは冷静な姿勢を崩さない。
兜の緒を締め、もう次の作戦に向けて準備を始めている。
ひととおり兵士たちに指示を出し終えたマードックは、日向たちに声をかけた。
「お前たちもお疲れ様だったな。そちらの助力のおかげで、合衆国本土奪還作戦の初陣を完全勝利で飾ることができた。感謝している」
「いえそんな。俺たちはほとんど見てただけで、大体はアメリカチームの皆さんが片付けてくれたと言いますか」
「ふふ、よく言う。飛空艇で我々をここまで運搬してくれたこと、そして単独で超長距離砲を一基潰してくれた日影の活躍。私に権限があればお前たち全員を二階級特進させているところだ」
「二階級特進させるって、それつまり殉職させるって意味じゃ……」
「普通に、輝かしい功績を称えて特進させるケースもあるぞ。稀だがな。……さて、もう少し和気藹々と話をしたいところだが、そろそろ次の作戦についての話をさせてほしい」
穏やかな表情をしていたマードックが、その表情を真面目なものに切り替えて、そう告げた。恐らくはこちらが本題なのだろう。
日向たちもまた表情を切り替え、マードックの言葉にうなずく。
マードックはタブレットを取り出し、このアメリカ大陸の地図を表示した。
「次の目標はここ……このピッツバーグの街から二百キロと少し先にある街、オハイオ州コロンバスだ。この街から逃げてきた生存者の話によると、レッドラムの軍勢がこの街を占拠し、拠点の一つにしているのだという」
「そいつらを討伐するのが、次の目標というわけですね?」
「そうだ。その気になれば、ここから飛空艇でグラウンド・ゼロのもとまで直接向かうことも可能だろうが、背後に敵の軍勢を残したまま敵将を狙いに行くのは、極めて嫌な予感がするのでな」
「確かに、敵の中には”次元移動”が使える将軍型のレッドラムもいることを考えると、俺たちがコロンバスとかいう街のレッドラムたちを無視しても、将軍型が俺たちのいるところまで、その街のレッドラムたちを直接送り込んでくる……なんてこともできるわけですしね」
「その通り。我々は一つずつ都市を制圧し、一歩一歩、グラウンド・ゼロとの距離を詰めていく予定だ。タイムリミットがあるお前からすれば悠長な作戦に思われるかもしれないが……」
「大丈夫ですよ。慎重な方針、俺も賛成です」
「感謝する。作戦遂行の歩幅は緩やかなものになるだろうが、可能な限り急ぎ、迅速に終わらせることを約束しよう」
真面目な表情は変えず、マードックは軽く頭を下げた。
その後、日向たちはこのピッツバーグの街の国際空港を確保し、ここを拠点とする。
空母から飛んできた複数のオスプレイが多数の物資を載せて、この国際空港までやって来た。中には巨大なコンテナを吊り下げたオスプレイも見られた。どうやらアメリカチームの多目的戦闘用二足歩行ロボット、タクティカルアーマーを運搬しているようだ。
アメリカチームの主力戦力である戦闘機も、この国際空港の滑走路に着陸。この国際空港を拠点に選んだ最大の理由が、この戦闘機の存在である。滑走路がなければ戦闘機は離陸も着陸もできない。
もともとアメリカチームが拠点としていた空母は、備蓄していた物資のほとんどをピッツバーグに輸送した後、最低限の人員と物資、そして大勢の生存者を乗せたまま、しばらくアメリカ大陸から離れるのだという。レッドラムの標的にされないように。
生存者たちもこのピッツバーグに連れてくることができればよかったのだが、三百人以上となると、さすがに数が多すぎる。
かと言って、生存者たちを空母に残すと、彼らにはしばらく不自由と不安を強い、ともすれば向こうの守りが薄くなった上で敵襲の危険にさらしてしまう可能性さえある。
それでもマードック、ひいてはアメリカチーム、さらには生存者たちもこの方法を選んだ。合衆国の明日のためならば仕方ない、と。どうやらアメリカチームは、日向たちの想像以上に、捨て身の姿勢でこの合衆国本土奪還作戦に臨んでいるようだ。
陽が沈むころには、予定していた物資は全て、このピッツバーグ国際空港への運搬が完了。
合衆国本土奪還作戦、その第一前線基地が築かれた。
これが合衆国の、敵対者たちに対する反撃の狼煙となるだろう。