第1319話 動けるデブと無気力兵士
それなりの数のレッドラムを片付けたロドリゴとニコ。
先ほどニコを援護したロドリゴが、自分の活躍をニコにアピール。
「イエア! やったなーニコちん! 俺っちの援護もナイスだったっしょ?」
「あーそうね、はいはい、ないすないす」
「なんか、あまり嬉しくなさそう?」
「ええそうよ。嬉しくないわ。まったく、なんでアタシの異能は一つだけで、このパッパララッパーは”二重牙”なんだか……」
「はー、なるほどねー」
ニコが不機嫌な理由を察したロドリゴ。
彼は、ニコを励ます言葉をかけることにした。
「でもダイジョーブ! ニコちんは何も悪くない! 全ては俺っちの有能さが引き起こした悲劇……!」
「うっさい蹴るよ!?」
「なんでー!? 俺っちはただ、ニコちんを励ましただけなのに……」
「言い方が腹立つのよアンタは!」
やり取りを交わすロドリゴとニコだが、まだまだレッドラムは多い。超長距離砲型レッドラムにアメリカ兵たちを近づけさせまいと、数にものを言わせて陣形を作っている。
「ちっ、まだまだレッドラムは多いね! いいさ、片っ端から蹴り倒して……」
「ぶふふぅ……張り切るのは良いことだけど、僕ちゃんたちの分も取っておいてよねぇ?」
そう言って、ニコの横を通り抜ける、太い影。
この太いシルエットの人物は、パウンド・マイケル曹長。
アメリカチームの中で一番の横幅を持つ、肥満体型の男だ。
沖縄では、的井と一戦交えて敗北した。
マイケルは格闘技のジークンドーを得意とし、その横に大きい体型に似合わず凄まじいスピードの格闘戦を繰り広げることができる、いわゆる動けるデブである。
マイケルの両拳に”地震”の震動エネルギーが宿る。そして近くにいた通常型レッドラムに、素早く二回の打撃を浴びせた。
「ぶふふっ!」
「GYAAA!?」
強烈な震動エネルギーを叩き込まれ、通常型レッドラムは爆散。
一体目が爆散した時には、マイケルはすでに二体目にも拳を打ち込み終えていた。
「GUEEEE!?」
二体目が爆散する頃には、マイケルはもう五体ものレッドラムに拳を喰らわせていた。この三体目から五体目もまた、身体が破裂して絶命する。
マイケルの右側面から、新たに六体のレッドラムが接近してくる。
「SHAAA!!」
「GIGIGI!!」
これに対してマイケルは、右足を左から振り上げ、大きく半円を描くように地面を蹴りつけた。その右足には震動エネルギーが宿されている。
震動エネルギーが宿されたマイケルの右足が地面を叩き、大地に震動が走る。それでバランスを崩しそうになり、マイケルに接近していたレッドラムたちの動きが止まった。
「GA!? 足元ガ破壊サレタ……!?」
「ぶふふ……! もらったよぉ……!」
マイケルは、拳を突き出しながらレッドラムたちの隊列を通過して一閃。二拍ほど置いて、この六体のレッドラムたちも頭部が爆散した。
それからマイケルは、大きくジャンプ。
着地地点には、四体の新たなレッドラムたちが固まっている。
「何カ降ッテクルゾ!」
「デ、デブダ! デブガ来タ!」
「アイツ、両足ニ震動エネルギーヲ! 逃ゲロー!」
マイケルが降ってきた。両足に纏わせていた震動エネルギーが着地と共に破裂し、逃げようとしていた四体のレッドラムを吹っ飛ばす。
この間、わずか十秒ほど。
たった十秒のうちに、マイケルは十二体のレッドラムを葬り去った。
このスピード、アメリカチーム随一の動けるデブの名は伊達ではない。
「ぶふふ……良い調子ぃ♪ けど、デブだから地震起こすイメージって、ちょっと安直すぎるって思うなぁ僕ちゃんは」
つぶやきながら、マイケルは次のレッドラムを始末するべく駆け出す。
そんなマイケルの戦いぶりを、ロドリゴはどこか遠い目をしながら眺めていた。そしてなぜか、その場で拳を突き出してみる。
「同じ”地震”の能力者なのに、どーしてこんなにも差があるのかネー。俺っち、いくら地面を殴っても震動なんか起こせないのになー」
それを聞いたニコが一言。
「体重の問題じゃない?」
「じゃあ俺っち、このままでいいやー」
「それで良いと思う」
短いやり取りを終えて、二人は戦闘へ戻ろうとする。
その時、何かの駆動音がした。
超長距離砲型レッドラムが砲身を動かす音だ。
「GAGAGAGA……」
「あいつ、飛空艇からアタシらの方へ狙いを変えてる……! 足元の掃除からしようってわけね……!」
「これちょっとやべーんじゃね? あいつの砲撃、音速レベルっしょ? 見てから回避できるもんじゃないし、今から尻尾巻いて逃げても狙い撃ちにされるし、”反射”の障壁が邪魔だから超能力の遠距離攻撃は跳ね返されるし、手持ちの銃火器じゃ威力不足で攻撃の阻止はできなさそーだし、おすし」
「いいから下がるよ! 何か遮蔽物に身を隠さなきゃ……」
そう言ってニコは、ロドリゴを連れて一時撤退の姿勢に。
しかし、その時。
また一つの人影が、二人の側を駆け抜けていった。
「いやー、ここで後退は悪手っすよ、ご両人」
「あ、カイン!? ちょっと! 危ないわよ!?」
ニコたちの側を通過したのは、カイン・アッシュフィールド曹長。
アメリカのマモノ討伐チームの精鋭近接戦闘兵、ブレード兵の一員である。
「ここまで接近したなら、もう逆に距離を詰めちゃった方がむしろ安全っしょ。あれだけ長い砲身なんだから、真下に潜り込んじゃえば狙えないって」
そう言って超長距離砲型レッドラムに向かって走るカイン。
走りながら、背負っていた二刀の高周波ブレードを抜刀する。
そのカインを阻止しようと、十体近いレッドラムが立ちふさがる。
防御特化の大盾型が三体もいる、鉄壁の布陣だ。
「通シハセン! 大人シク、アノ砲台ニ消シ飛バサレルガ良イ!」
「ほい影分身の術」
カインがつぶやくと、煙と共に九人のカインが現れる。
合わせて十人になったカインが、一斉にレッドラムの群れへと切り込む。
「ナ、何!? 増エタ!?」
いきなり増えたカインに、レッドラムたちは動揺を隠せない。
十人のカイン、ニ十本の高周波ブレードが、レッドラムたちに飛び掛かる。
……ところが、カインたちが高周波ブレードを振るっても、レッドラムたちは傷一つ負わない。それどころか、何らかの物質が当たっているような感触さえ無い。
「何ダト? ドウイウコトダ……」
「そりゃまぁ、影っつうか霧の分身なんで」
カインの声がした。
分身ではない本物のカインが、大盾型レッドラムの頭部を踏んづけてジャンプ。
「GA!?」
「お前を踏み台にして、俺は上に行くっすー。物理的に」
カインが発現させた異能は”濃霧”。
霧で幻影を作り出し、操作する能力である。
先ほど現れた九人のカインは、霧で作りだした偽物だ。
ジャンプしたカインは、超長距離砲型レッドラムの砲口と同じくらいの高さまで飛び上がった。すぐ目の前に砲口がある。今にも砲弾を発射しそうである。
するとカインは、持っていた二本の高周波ブレードを超長距離砲型レッドラムめがけて投げつけ、空いた手で素早く手榴弾を取り出し、それもまた投擲。
投げられた高周波ブレードは、超長距離砲型レッドラムの砲身の両側面を切り裂き、手榴弾は砲口の中へと入っていった。
一拍置いて、投げ込まれた手榴弾が爆発。
その威力で、砲身内でチャージされていた超長距離砲型レッドラムのエネルギーも暴発する。
「GAAAAAAAA……!?」
「これでもう、ご自慢の砲撃は使えなくなったっしょ。投げたブレードは後で回収しないとっすね」
超長距離砲型レッドラムを中破させ、砲撃されそうになっていた仲間たちを救うというお手柄を挙げながらも、カインは騒がず、淡々とそうつぶやいた。