第1317話 鋼鉄の肉体と冷静沈着
「いや暴れすぎ暴れすぎ。もうジャックとレイカさんだけで、あらかたレッドラム片付いてるし」
少し引き気味に笑う日向。
これは本当に、日向たちはジャックたちの活躍を見ているだけで終わるかもしれない。
一部のレッドラムはジャックとレイカを避けて、日向たちの方に襲い掛かってくるが、こちらはこちらで本堂やシャオランがいるので、接近してきたレッドラムはもれなく秒殺された。
レッドラムも増援を投入したようだが、状況は変わらない。
銃弾と斬撃の嵐が、鮮血の怪物たちを蹂躙していくだけだ。
レイカを後ろから狙おうとするレッドラムを、ジャックが狙い撃つ。
ジャックを横から引き裂こうとするレッドラムを、レイカが両断。
二人はほとんど声をかけ合わないが、その息は異常なほどに合っている。まさに阿吽の呼吸と称するほかない連係プレーだ。
「沖縄の時も思いましたけど、あの二人ってすごいコンビネーションですよね」
日向は、隣にいるマードックにそう声をかけてみる。
マードックもうなずいて、日向の言葉に答えた。
「我々四人は、特に意思疎通をせずとも連携を取れる程度にはチームワークを構築しているが、あの二人は特別だ。正確にはアカネも合わせて、あの一人と二人と言うべきか」
「普段はわりと、ジャックが好き勝手やって、それをレイカさんが諫めて、けっこうな凸凹コンビなのに」
「むしろ、凸凹だからこそ、ピタリと合うのかもしれん」
「なるほど。なんとなく分かるような……」
「私から見れば、お前と日影も似たようなものだと思うが」
「すみませんやっぱり分からないです」
「はは。その反応、ジャックとレイカにそっくりだ。あの二人も、どうして戦場だと互いに息が合うのか、当人たちもよく分かってはいないようでな」
そう言ってマードックは、少し温かい目でジャックとレイカを見る。
どこか、二人の父親かと思うような視線だった。
そんなマードックに、コーネリアスが声をかけた。
「大尉。話していルところ悪いガ、下ダ」
「ああ。分かっている」
「SHAAAAAAA!!」
マードックの足元の地面から、いきなりクロー型のレッドラムが飛び出してきた。どうやら”地震”の能力で地面にトンネルを掘ってきたようだ。
地面から飛び出してきたクロー型は、マードックの脳天を狙って右爪を振り下ろす。
これに対して、マードックは左腕をゆっくりと構えてガード。
金属音が鳴り響く。
クロー型の右爪が、マードックの左腕に受け止められた音だ。
「KA……!?」
「私の義体に使われている装甲は、高周波ブレードでもそう簡単には斬れん。お前のなまくらな爪は、犬のブラッシングでもしているのがお似合いだな」
そう言ってマードックは、空いている右手でクロー型の顔面を鷲掴み。そのままクロー型の頭部を握り潰し、リンゴのように破裂させた。
次は通常型レッドラムが、電気を発する両手でマードックに掴みかかった。
「KIEEEE!!」
しかしマードックは、レッドラムに掴まれるより早く右回し蹴り。
レッドラムの頭が爆ぜ飛んだ。
「うわ。あのガタイでなんとまぁ鋭い回し蹴り……」
今度は筋肉型のレッドラムが大きくジャンプし、一本の太い鉄骨を投槍のように、マードックめがけて投げつけてきた。
「WOOOOO!!」
これに対してマードックは、右の手のひらだけでガッシリと鉄骨をキャッチ。
マードックはそのまま鉄骨を掴み、身体ごと反時計回りに回転。
その回転の勢いで、鉄骨を筋肉型レッドラムめがけて投げ返した。
「ぬぅん!!」
「WOO!?」
マードックが投げた鉄骨は、高速回転しながら飛んで行く。
筋肉型レッドラムは、マードックに張り合って鉄骨をキャッチしようとしたようだが、あえなく吹っ飛ばされた。
相変わらず、マードックの義体の馬力は恐るべきものがある。
異能の怪物レッドラムさえ圧倒しうる、重機並みのパワーである。
そんなマードックの戦いぶりを見て、日向は声をかけた。
「いや、さすがの腕前です、マードック大尉。このぶんなら、異能が使えなくてもまったく問題なさそうでは?」
今、ちらりと日向が言ったが、マードックはジャックやレイカやコーネリアスと違って、エヴァから『星の力』を分けられても、異能は使えなかった。
『星の力』が異能を覚醒させなかったのではなく、そもそもマードックの身体が『星の力』を受け付けなかったのだ。
『星の力』は、言うなれば、この星の『自然』のエネルギーである。
そんなエネルギーに対して、『機械』であるマードックの身体は、致命的に相性が悪かった。
ジャックやレイカ、それからコーネリアスは、義体となっているのは一部のみで、まだ肉体の大部分は生身のままだ。だから『星の力』も浸透したようだが、脳以外の全てが完全に機械となっているマードックは、『星の力』を受け入れることができなかった。
先ほどの日向の言葉に対して、マードックが返答する。
「『星の力』による異能は強力だ。その点において、戦力増強が望めなかったのはなかなか痛かった。しかしこの通り、合衆国の技術の粋を集めて造られたこの義体の性能は健在だ。お前たちの足を引っ張りはしないだろう」
「そうハ言ってモ、異能ガ発現しなかっタ時の大尉ハ、『せっかくだから自分も異能を使ってみたかった』ト、だいぶ落ち込んデいたがナ」
「おい少尉」
マードックの呼びかけは意に介さず、コーネリアスは超長距離砲型のレッドラムに冷気の対物ライフル弾を打ち込み続けている。超長距離砲型レッドラムはボロボロになり、あちこちが凍り付き、もうほとんど機能停止状態だ。
「さて。後は私が重火器で吹き飛ばしてもいいのだが、弾はなるべく温存したい。トドメはお前に任せても良いか、日下部日向?」
マードックが日向に尋ねる。
日向は、待ってましたとばかりにうなずいた。
「弾は大事ですし、ここまで楽させてもらいましたからね。任せてください」
そう言って、日向は超長距離砲型レッドラムの前まで走っていく。
超長距離砲型レッドラムも、日向を迎え撃とうと砲口を向けようとしている。だが、砲身がすでに半壊している状態なので、照準を合わせ直すこともままならない様子だ。
そうしているうちに、日向が位置についた。
『太陽の牙』が、灼熱の炎を宿す。
「太陽の牙……”紅炎奔流”! ”紅炎奔流”! ”紅炎奔流”!!」
振り下ろし、斬り上げ、そしてまた振り下ろしの、”紅炎奔流”三連発。
巨大な超長距離砲型レッドラムが、余すところなく業火に包まれる。
「GIGAAAAAAAA……」
断末魔の悲鳴を上げて、超長距離砲型レッドラムは陥落した。