第1315話 超長距離砲型のレッドラム
飛空艇から地上へ降りた日向たちとアメリカチーム。
これより三基の超長距離砲型のレッドラム、そのうちの一基を制圧する。
まずはエヴァが、杖の石突で地面をトン、と突いた。
それと同時に、彼女を中心として、大地に蒼色の波紋が広がった。
街全体に広がるほどの、大きな波紋だった。
「私の『星の力』で、この大地の地盤を固定しました。これでグラウンド・ゼロは、地震で私たちの行動を妨害することはできません」
「助かる、ミス・アンダーソン。突然の揺れで足を止められたり、近くの建物が崩れてきたりと、あの地震にはほとほと困らされていた」
マードックがエヴァに礼を言った。
エヴァもうなずき、話を続ける。
「これくらいはお安い御用です。しかし、この能力はかなりの『星の力』を必要とし、維持するのに集中力も要ります。よって、私自身はこの戦闘にあまり積極的に参加はできないです。護衛をお願いします」
「任せておけ。連中はお前に指の一本も触れることはできないだろう」
頼もしくそう答えるマードック。
その一方で、ジャックが日向たちに声をかけていた。
「ヘイ、オマエら。昨日は休日だったとはいえ、ここ最近は『星殺し』とかいうバケモノの相手ばっかりして、まだまだ疲れが取れてねぇんじゃねーか? キタゾノはここまでのフライトでヘトヘトだろうし、オマエらは後ろで見てるだけでもいいんだぜ?」
挑発するように、ニヤニヤとそう問いかけるジャック。
当然のように、それに答えるのは日影。
「けッ、馬鹿言え。こっちこそ、テメェらだけじゃ心配で、休んでるどころじゃねぇぜ」
その日影の言葉に追従して、日向たちもそれぞれジャックに言い返す。
「え、マジで? そりゃ助かるよ。楽できるなら、それに越したことはないもんなぁ」
「おっしゃる通り、私もうヘトヘトー。お願いしていいかな?」
「さばぬか不足で調子が低下していたところだ。有難い申し出だな」
「やったよ師匠! ボクたち戦わなくていいって! 滅多にないよ、こんなこと言われるの!」
「うふふ、アメリカチームの皆さんの戦い方を後ろから見学、というのも一興かもね~」
「おいテメェらやる気無しか! 北園はともかく!」
「はっは! 相変わらず愉快な連中だぜオマエら!」
日影は思わずツッコみ、ジャックは豪快に笑う。
その一方で、三基の超長距離砲型のレッドラムは次なる砲撃の準備を進めていた。砲口に緋色のエネルギーが集まっていく。砲撃のためのエネルギーをチャージしているのだろう。
「っと、俺たちがサボろうとしても、向こうはお構いなしか。それじゃあプラン通りに行こう。それ行け日影! 派手に突っ込んで玉砕してこい!」
「テメェに言われると腹立つんだよ! ともかく、一基はオレが潰してくるぞ! ”オーバーヒート”ッ!!」
叫び、日影が全身から赤白い炎を上げて、この場から飛び去る。
向かう先は、ここから左前方一キロ先に見える、二基目の超長距離砲型。
向かってくる日影めがけて、二基目の超長距離砲型レッドラムが砲撃。砲口が火を噴くのと同時のタイミングで、巨大な砲弾が日影に直撃。
一方、日影もこの砲撃のタイミングを読んで、全身から噴出している炎の勢いをさらに強めた。
「再生の炎……”落陽鉄槌”ッ!!」
日影と砲弾が正面衝突し、大爆発が巻き起こる。
もくもくと、真っ黒な煙が街の上空に広がった。
その真っ黒な煙を突っ切って、日影が飛び出してきた。
そして、飛行速度を落とすことなく、超長距離砲型レッドラムに突撃。
日影は無事に二基目の超長距離砲型レッドラムの懐に潜り込むことに成功したようだ。さっそく大爆炎を巻き起こして暴れ回っている。
その一方で、今度は日向たちから見て右前方一キロ先の丘陵地帯に陣取っている三基目の超長距離砲型レッドラムが、日向たちに砲口を向けた。遠距離砲撃を撃ち込んでくるつもりだ。
すると、その三基目のすぐ目の前に、日向たちが乗ってきた飛空艇が飛来。
三基目の超長距離砲型レッドラムが砲撃を行なったが、飛空艇が身を挺して日向たちを守ってくれた。飛空艇自身も、自前のバリアーによって機体は無傷。
砲撃を防ぐと、飛空艇から追加の地上部隊が降りていった。
三基目の超長距離砲型レッドラムを制圧するためのグループである。
日影と飛空艇のおかげで、二基目と三基目の砲撃を凌いだ日向たち。
残るは、日向たちが担当する、前方三百メートル先の一基目の超長距離砲型レッドラムだ。
この一基目の超長距離砲型レッドラムも、砲撃のためにエネルギーをチャージしている。もう今まさに、そのエネルギーを射出せんとしているところだ。
これに対して、一歩前に出たのはコーネリアス少尉。
「Time to work」
背中に背負っていた対物ライフルを、義手になっている右腕だけで構える。
そして、そのまま一発発射。狙いは超長距離砲型レッドラムの砲口。
コーネリアスが放った弾丸は、白い気流のようなものを纏っている。
その弾丸が、超長距離砲型レッドラムの砲口に、吸い込まれるように入っていった。
その瞬間、超長距離砲型レッドラムの中で爆発のような音が響き、砲口から白い気流が溢れてきた。
「GA……GAGA……!?」
超長距離砲型レッドラムが悲鳴を上げている。
よく見ると、砲口内部がカチコチに凍り付いていた。
コーネリアスは、エヴァから分けてもらった『星の力』により、”吹雪”の異能を覚醒させていた。いま発射した弾丸は、”吹雪”の冷気を弾丸に乗せたものである。
「弾丸ニ冷気のエネルギーを乗せたものならバ、弾丸の物理的ナ破壊力が優先されルたメ、”反射”で跳ネ返されルこトはなイ。ミス・スピカの言っテいたとおリだナ」
「そして、砲身内部に届いた冷気の弾丸は、内部から超長距離砲を凍らせ、チャージしていたエネルギーの熱量も冷気で奪って砲撃をキャンセルさせる……と。流石ですコーネリアス少尉」
「格好良かったですよ、コーネリアスさん!」
日向と北園がコーネリアスを賞賛。
その二人に対して、コーネリアスは無表情でVサインを返す。
「とはいエ、まダ超長距離砲は健在ダ。トドメを刺しニ行クぞ」
「オーケー。連中に地獄を見せてやろうぜ!」
コーネリアスの言葉に、ジャックが二丁のデザートイーグルを抜きながら、そう返答した。