第1314話 ピッツバーグ突入
敵の超長距離砲の索敵能力の仕組みを解明した日向たち。
どうやら超長距離砲は、対象が発する熱を感知するらしい。
飛空艇の甲板に移動したエヴァが、超長距離砲の砲撃のタイミングに合わせて、飛空艇の周囲にたくさんの炎を発生させる。飛空艇以外の熱源を作り出し、囮としているのだ。
また、エヴァはアメリカチームから支給された通信機を使い、飛空艇の操縦士を務める北園に、炎を発生させるタイミングを伝えている。これによって北園は、エヴァが発生させた炎に飛空艇が自ら突っ込むという事故を防ぎ、さらには炎に上手く紛れるような飛行も可能に。
「良乃。炎を発生させます。下側に余裕を作っておくので、そこをくぐってください」
『りょーかいだよ! エヴァちゃんもよろしくね!』
「わかりました。では……”アグニの祭火”!」
エヴァの詠唱と共に、飛空艇の前方を覆い尽くすような大量の炎が発生する。これほどの炎であれば、超長距離砲も飛空艇の熱を見失うだろう。
宣言通り、エヴァは発生させた炎の下方向に飛空艇が通れそうなスペースを作っておいてくれた。飛空艇はそこを一直線に飛行。
一方で、前方の空から超長距離砲の砲弾が三発飛んできた。
しかし、やはり超長距離砲は飛空艇を見失っているらしく、三発とも飛空艇の真上の火の海を狙い、そのまま通過していった。
そんな調子で、超長距離砲との攻防を続けながら飛空艇が飛行すること、およそ十数分。
三キロメートルほど先の前方の地表に、大きめの都市が見えてきた。
そして、その街の中に、三基の真っ赤な巨大砲台も確認。
真っ赤な巨大砲台は、よく見ると砲身の両側面と上部に金色の瞳がある。
つまり、超長距離砲は目付きのレッドラムだったのだ。
「見えてきたぞ。あれがピッツバーグの街だ。超長距離砲もあるな」
「うぇぇ、なんか気持ち悪い目が付いてるよぉ……。あの砲台、レッドラムだったんだ……」
マードックとシャオランがそれぞれつぶやく。
そして北園は、目標地点が見えてきたことで気力が湧いてきたようだ。
「よーし! ラストスパート!」
飛空艇の速度がさらに上がる。
はるか先に見えるピッツバーグまで一直線だ。
三基の超長距離砲も飛空艇めがけて砲撃。
それに合わせて、甲板のエヴァが炎の囮を発生させる。
しかし、砲弾はエヴァの炎に惑わされず、三発全てが飛空艇のバリアーに命中した。飛空艇のバリアーに亀裂が入り始める。
「さすがにこの距離だと、向こうもこっちが見えてるから、そりゃ炎で騙されたりもしないよね……!」
少しきつそうに、北園がつぶやく。
ここまでの飛行とバリアーの維持で、彼女の精神エネルギーも限界が近いか。
するとここで、アラムが北園に声をかけた。
「キタゾノお姉ちゃん! そろそろ僕が代わるよ! 休んでて!」
「りょーかい! あとはよろしくね、アラムくん!」
北園は素早く、アラムと操縦係をバトンタッチ。
アラムが操縦桿を強く握りしめると、そこから彼の精神エネルギーが流れていき、ひび割れたバリアーが修復される。
再び三基の超長距離砲が砲撃。
三発の砲弾は全弾、飛空艇のバリアーに直撃する。
「くぅっ!? 強烈……! でも、ここまで近づけばこっちのものだ!」
アラムの言う通り、すでに飛空艇はミサイルの射程圏内に、超長距離砲の一つを捉えている。ここまで一方的に砲撃され続けてきたが、いよいよ反撃開始である。
超長距離砲の周囲には、砲台を守るためか多数のレッドラムの姿もある。
だが、飛空艇のミサイルの火力にかかれば、砲台もろとも吹き飛ばせるだろう。
ミサイル操作を務める子供たちが、アラムに声をかける。
「アラムー! 砲台、ロックオンしたよー!」
「いつでも撃てるよ! もう撃つよ!」
「良いよ! やっちゃって!」
アラムの返事から一拍置いて、飛空艇の左右両舷から金色のエネルギー弾が次々と射出される。十数発のエネルギー弾が、全て超長距離砲に向かって飛んで行く。
その時。
超長距離砲が、薄赤色のバリアーのような念壁に包まれた。
この薄赤色の念壁に、飛空艇のエネルギー弾が命中する。
すると、なんとエネルギー弾が跳ね返され、飛空艇まで戻ってきた。
「うわ!? ウソ!? うわわわわわ!?」
跳ね返されてきたエネルギー弾が、飛空艇のバリアーに次々と命中する。幸い、発射した全てのエネルギー弾に被弾とはならなかったものの、思わぬ痛手を受けてしまった。
さらにそこへ、三基の超長距離砲も砲撃。
目で捉えられないほどの速度で飛んできた砲弾が、容赦なく飛空艇のバリアーに撃ち込まれる。
「くぅぅっ! さっそくきつい……! は、話が違うよぉ! 今のバリアーは何だったの!?」
思わず声を上げるアラム。
その質問に、スピカが答えた。
「今のは、超能力の”反射”だよー! エネルギー系の攻撃を全て跳ね返してくる! あの超長距離砲型レッドラムの能力かな……。これじゃあミサイルも主砲も通じない!」
「ど、どうするの!? ここまで来たのに手も足も出ないの!?」
「落ち着いて! 対処法はあるよー! あの念壁はエネルギー系の攻撃は跳ね返すけど、物理的な攻撃には弱いんだ」
「それじゃあ、もしかして、飛空艇ごと”反射”に突っ込む?」
「あー、それも派手で面白そうだけど、さすがにそれをやったら飛空艇のバリアーにも衝突のダメージが来ちゃう。そもそも、この飛空艇の装甲も光エネルギーの結晶だから、”反射”の反射対称なんだよねー。だから衝突の衝撃も大きくなっちゃう」
「ええと、じゃあどうするの?」
「もともとその予定だったけど、地上部隊を展開しようー! 予知夢の六人とアメリカ兵の皆さんを送り込んで、地上部隊が超長距離砲を直接叩く!」
「なるほど、わかったよ! それじゃあ飛空艇を地上に降ろすね!」
「アメリカ兵の皆さんは、超能力が使える人は何人かこの飛空艇に残ってあげてねー! このままだと、この飛空艇は超長距離砲から一方的に撃たれ続けることになっちゃう。アラムくんだけじゃバリアーが保たないかもだからねー!」
スピカの声を受けて、アメリカチームは飛空艇内の警護戦力の他に、新たに三人の超能力兵士を飛空艇内に残すことに。三人ともかなりの精神エネルギーの持ち主なので、うまくローテーションを回せば、この三人だけでバリアーの維持は保たれるだろう。
一基の超長距離砲型レッドラムだけを集中的に狙うと、残り二基が地上部隊を狙ってくるだろう。集中砲火を避けるために、地上部隊は三つのグループに分かれて、それぞれ同時攻撃を仕掛けて超長距離砲型の注意を引くのが望ましい。
まずは日向たちと、ARMOUREDの四人が地上に降りた。
「へっ、悪いなぁレッドラム諸君。初っ端から真打参上だぜ」
ニヤリと笑みを浮かべながら、ジャックがつぶやいた。




