第1313話 超長距離砲の索敵能力
飛行中の飛空艇が、超長距離砲からの砲撃を受けたようだ。
バリアーによって機体へのダメージは免れたが、飛空艇内にいる皆に緊張が走る。
操縦を担当する北園は、試しに機体を左に傾け、少しだけ移動。
しばらくすると、二発目の砲弾が飛んできた。
飛空艇は最初に被弾した場所から移動していたが、この二発目の砲弾もバリアーに直撃させられた。まだこちらから超長距離砲の姿は見えないが、向こうはしっかりと照準を合わせてきている。
「ま、まるで手品だよー!? どうやってこっちの位置を確認してるんだろう……」
敵ながら見事な狙撃能力に、北園も関心の声を上げるしかない。
ここで、マードックが北園に声をかけた。
「ミス北園。バリアーはあとどれくらい保ちそうだ?」
「えっと、この威力だと、まだ二十発以上はいけると思います!」
「なるほど。この飛空艇の速度から考えると、ピッツバーグ到着までおよそニ十分弱といったところか。超長距離砲の射撃感覚は、およそ三十秒に一発。北園のバリアー維持が厳しくなったら、他の人員に交代してもらうことで対処は可能か」
そうマードックがつぶやいていると、さっそく次の砲撃が飛んできた。
しかし、今度の砲弾は三発だった。
三発の砲弾が、連続してバリアーに叩き込まれる。
「わわわ!? 今度は三発も飛んできた!?」
「む……!? これはおかしいな、三十秒に一発のはずだったが……」
「連中、砲台を増設でもしたんじゃねーか? 砲台は一基だけってのも、一か月くらい前の情報だろー?」
驚いている様子のマードックに、ジャックがそう声をかけた。
一瞬取り乱していたマードックだったが、すぐに冷静さを取り戻す。
「砲台を増設か、有り得る話だ。先日、予知夢の五人が来たことで、レッドラムどもも警戒を強めたのかもしれんな。ともあれ、このままではピッツバーグへの到達が厳しくなる。北園、高度を落とせ。低空を飛行し、山脈を遮蔽物にするぞ」
「りょーかいです!」
北園はマードックの指示通り、飛空艇の高度を下げて地表すれすれを飛行させる。
超長距離砲は、地上に対する索敵能力は低い。
であれば、地表近くを飛行すれば、山脈を遮蔽物にせずとも、砲撃そのものが飛んでこない……とはいかなかった。山の向こうから、超長距離砲の砲撃が三発同時に飛んでくる。
しかし、その精度と弾速は先ほどより遅く、全て飛空艇には命中しなかった。遮蔽物となっている山脈越しに飛空艇を攻撃するため、曲射して狙っているからだろうか。
「あぶなかった……。マードックさんの作戦、うまくいってますね!」
「そのようだ。しかし、地表近くを飛行する程度では、こちらの位置は把握されるか。超長距離砲が砲撃してくるのは空高くを飛行する物体だけかと思っていたが、高度は関係ないのだろうか?」
新たな疑問が湧き、マードックは首をかしげる。
日向もまた、マードックの隣で、超長距離砲の索敵能力について考えていた。
「山を遮蔽物にしてもこちらを狙ってくるということは、目視でこっちの位置を確認しているわけではない……? あと考えられるのは……音?」
そう考えた日向は、ミオンに声をかけた。
「ミオンさん! ”静謐”の超能力で、この飛空艇の飛行音を消せますか?」
「範囲は……この飛空艇なら私でもギリギリ包み込めそうね。いいわ、やってあげる~!」
そう返事をして、ミオンが”静謐”を行使。
領域内の全ての音を消し去るフィールドが、飛空艇を包んだ。
……が、山の向こうから超長距離砲の砲弾が飛んできた。
三発のうち、ニ発が飛空艇のバリアーに命中する。
「だぁ!? お構いなしに狙ってくる! 音で索敵してるわけじゃないのか!」
「私も、音というのは良い線いってると思ったんだけどね~……」
さらに悪いことに、砲撃からの遮蔽物にしていた前方の山脈との距離がそろそろ縮まってきた。まもなく飛空艇はこの山脈を飛び越えねばならないが、その飛び越えて姿をさらす瞬間を、超長距離砲は見逃さないだろう。
もし超長距離砲の索敵能力に穴があるのなら、この山脈を飛び越える前にそれを解明し、対策を実行に移せれば、山脈を飛び越える隙を大きくカバーできる。
すると、マードックが何かを閃いたようにつぶやいた。
「目視、音と来たら、次に来るのは、やはりアレか」
「アレというと……やっぱり敵の動きで乱れた気流を読み取る……ってところかしら~?」
「それは風の練気法の”風見鶏”だろう、ミス・ミオン。それができるのは貴女がた超人だけだ」
ツッコミを入れるマードック。
次いで、日向も閃いたらしく、マードックに声をかけた。
「熱……ですかね、もしかして?」
「それくらいしか考えられん。超長距離砲は、高熱を発する物体を捕捉して狙撃するのだ。戦闘機も、この飛空艇も、飛行の際は高い熱を出す。地上を走る車が狙われなかったのは、超長距離砲が捕捉できる温度に達していなかったからだろうか」
「その理論で行くと、オスプレイでピッツバーグに向かっていれば、飛んでも狙われずに済んだんですかね、もしかして」
その日向の言葉を聞いて、マードックは黙って考え込んだ。
「……確かに、これまで撃墜されたのは戦闘機やジェット機ばかりで、オスプレイやヘリの被撃墜報告は聞かなかったな……。そもそも、戦闘機が撃墜されたと聞いて、ならばとオスプレイやヘリをまったく飛ばさないようにしたのだが」
「まぁオスプレイもヘリも撃墜されたら大きな損害ですし、仕方ないですよ。確かめるのは、今からでも遅くないはず。というわけでエヴァ、頼んだ!」
「わかりました」
日向の言葉に返事をするエヴァ。
このコックピットから移動し、飛空艇の甲板、コックピットの天井の上へ。
移動を終えたエヴァは、さっそく杖を構え、『星の力』を充填する。
山脈が目の前まで来て、飛空艇も高度を上げ始めた。
「”アグニの祭火”!」
エヴァが詠唱と共に杖を振りかざす。
すると、飛空艇の上方、山脈の頂上付近の何もない空間に炎が発生。
その炎を狙って、超長距離砲の砲弾が飛んできた。
当然ながら、砲弾は炎をすり抜けて、その向こうの空へ飛んで行った。
砲弾が通り過ぎたところを、飛空艇が一気に通過。
炎を発生させての囮作戦は成功したようだ。
「上手くいきました。私はここで引き続き、砲撃の間隔に合わせて炎の囮を発生させる役を務めましょう。飛空艇の被弾を少なくできるはずです」
見事に超長距離砲の索敵能力の正体を見破った日向たち。
これで、ピッツバーグまでの接近は、ほぼ確実になったと言えるだろう。