第1310話 死の予知夢
北園が予知夢を見たらしい。
その内容を聞かされた日向。
しかし。
その夢の内容は、日向にとっては、とても信じられない内容だった。
「俺が、北園さんを、突き刺す……?」
ゆっくりと、北園が言ったことを繰り返す日向。
言葉の一つひとつに対して、本当に正しいのかを確かめるように。
日向の確認を受けて、北園は複雑そうな表情でうなずいた。
一方、その北園の反応を見ても、日向はまだ信じられそうにない様子だった。
「そんな馬鹿な、ありえない。なんで俺が北園さんを突き刺すんだ? レッドラムが襲ってくるならともかく、なんで俺が……。そもそも、北園さんが最初に見た『この星を守る予知夢』はどうなる? エヴァ以外の俺たち五人が、狭山さんに挑むんだろ? それなのに北園さんを突き刺して死なせるって、おかしいじゃないか」
「ごめん、私にもわからない……。どこかで運命の流れが変わって、予知夢にも変化が生じたとか、かなぁ……?」
「一応言っておくけど、俺は絶対に北園さんを突き刺したりなんかしないよ。そんなことを考えたことすらない。この予知夢は必ず回避しよう。俺も全力で北園さんを守るから」
「うん。ありがとう、日向くん」
北園の予知夢は、見た瞬間に運命が確定するわけではない。予知夢の映像が現実になるかどうかは、当事者たちの行動と巡り合わせに委ねられる。実現するために動けば高確率で実現し、回避するために動けば実際に回避することもできる。
日向と北園は、考えなければならない。
どうすれば、この予知夢を回避できるのか。
「まず大前提として、俺が自分の意思で北園さんを刺しに行くなんてありえない。敵の何らかの能力で操られて、それで北園さんを攻撃してしまったと考えるのが自然……なんだけど……」
「敵を操る超能力っていえば、オリガさんの”精神支配”が代表的だよね」
「うん。でも、俺がオリガさんの”精神支配”を受けた時は、”再生の炎”がオリガさんの能力を伝って、オリガさんの眼に反撃したんだよな……。”再生の炎”は超能力にも干渉できる。自分で言うのもなんだけど、そう簡単に俺を操ることはできないはずだ」
日向は、簡単には超能力で操れない。
それが逆に、何の能力で日向は北園を攻撃するに至ったか、解明が難しくなる。
「今日のスピカさん型のレッドラムは”念動力”で日向くんの動きを操ってたけど、それかなぁ? スピカさん型が日向くんの手足を動かして、私に攻撃してきたとか」
「ありえない話じゃないと思うけれど、たぶんスピカさん型の”念動力”も、長時間は俺に対しては使えないと思う」
「そうなの? でもオリガさんみたいに”再生の炎”で焼かれたような様子は無かったよ?」
「恐らくだけど、すぐに俺を”念動力”から解放したから、焼かれる前に逃げ切れたんだと思う。たとえ俺がどれだけ弱くても、すぐに解放なんかせずに捕まえ続けていれば、確実にこちらの戦力を削ぎ落せるはずなのに、スピカさん型はそうしなかった」
「言われてみれば、そうだね……。スピカさん型は、日向くんを捕まえ続けたら”再生の炎”で反撃を受けるってことを知っていた?」
「だと思う。シャオランや本堂さんに”念動力”を仕掛けた時は、ずっと二人を捕まえていた。俺だけが明らかに避けられてる」
「だから、『日向くんは”念動力”でも操るのが難しい』と見ることができる。よって、日向くんを使って私を突き刺そうとしてるのはスピカさん型じゃない……ってことだね」
「うん。ただ、あくまで俺を操るのは『難しい』ってだけで、不可能ではないはず。スピカさん型は警戒しておいた方がいいかもしれない」
「りょーかいだよ」
今の話をまとめると、スピカ型はわずかながらも日向の肉体を”念動力”で操作できる。それを利用して、北園を貫かせるように日向を動かした可能性もある、ということだ。
一拍置いて、日向が再び口を開く。
「そういえば……北園さんは何か情報はないの? 予知夢の中はどんな風景だった、とか。周りには誰がいた、とか。そういうのが分かれば、いざ予知夢が実現するタイミングが来た時、前もって『この瞬間だ』って判断して、予知夢が実現しないように動けると思う」
「夢の時間がすごく短くて、一瞬しか見れなかったの。周りには日向くん以外にも誰かいたとは思うけど、それが誰なのか、何人いたのかまでは……。場所もよくわからなかったなぁ……。少なくとも、私は今まで見たことがない、全く知らない場所だったと思う」
「そっか……。うん、分かった」
「この予知夢のこと、他のみんなには話した方がいいかな? 内容が内容だから、まずは日向くんだけに話したんだけど」
「ぜひとも他の皆とも共有した方がいいと思う。もしも本当に俺が操られて、北園さんに危害を加えそうになったら、他の皆が止めてくれるのを期待するしかない。皆にこの事を教えておけば、いざという時の対処も早くなるはずだ」
「わかった、りょーかいだよ」
これ以上議論を続けても、有力な情報は出てきそうにない、
日向と北園は、ここで話を切り上げることにした。
戦闘機格納庫へ戻る前に、北園は再び日向に声をかけた。
「日向くん」
「ん、何?」
「昔の……予知夢を怖がっていた時の私なら、きっとすぐに予知夢を受け入れて、日向くんに私を突き刺してもらうように頼んでたと思う」
「そ、それは……」
「『お前が生きているせいで、現実が余計に悪い方向に進んでしまった』。そんなふうに言われるのが怖くなって」
「そんなことは……!」
「でも、今の私はそんなこと言わないよ。これからも、そしてこの”最後の災害”が終わった後も、日向くんと一緒に生きていきたいから」
「北園さん……」
「あらためて、ありがとうね日向くん。私の生きる希望になってくれて」
「いや、こちらこそありがとう北園さん。北園さんには、俺が頑張るための活力を本当にたくさん分けてもらった」
「えへへー、そう言ってもらえるとうれしい。生き延びようね、二人一緒に」
「ああ、必ず」
絶対に彼女を死なせはしない。
日向は胸の中で、固く、固く誓った。