第1308話 鮮血旅団について
日影からの質問を受けて、マードックは日向たちを襲撃した目付きのレッドラム……鮮血旅団についての説明を始める。
鮮血旅団は、言うなればレッドラムの精鋭遊撃部隊。
神出鬼没であり、アメリカ全土でその姿が目撃されている。
今日、日向たちを襲撃した目付きのレッドラムは二体だったが、鮮血旅団は普段、三体の目付きのレッドラムが中心となって構成されている。
「そういや確かに、あのスピカのレッドラムが、剣士がどうこうって言ってた気がするな」
「うむ。順番に説明していこう」
一体目は、スピカ型のレッドラム。
巨大な瓦礫や重機、生きた人間さえも浮遊させてしまうほどの、非常に強力な”念動力”の使い手であり、他にも”読心能力”や”瞬間移動”といった厄介な超能力も併せ持つ。
そんな能力を持っているため、近づくだけでも非常に難しい。よしんば接近戦に持ち込むことができたとしても、”風”と”水”の練気法も使用してくるので、接近戦にもある程度対応できるという鬼畜仕様。
このスピカ型のレッドラムに狙われたら最後、戦車の大隊だろうが、戦艦だろうが、まとめて投棄されてしまう。倒す手段も非常に限られている、極めて厄介なレッドラムである。
「……とのことですけど、どうですかスピカさん?」
日向がスピカに話を振った。
スピカは、まいったような様子で口を開く。
「使える能力まで全部いっしょー……。いやもうホント、名誉棄損も甚だしいよねー」
「心中お察しします。本当、自分の偽物が好き勝手してると困りますよね」
そう言って、日向は日影の方を見た。
「なんだテメェこっち見んな」と文句を言う日影。
「まぁそういうわけで、あのスピカさん型のレッドラムについては、こちらのスピカさんに聞けば、色々と弱点や対策も分かるかもしれません」
「それは助かるな。しかし、その話は後で聞かせてもらうとして、今は残りの鮮血旅団について説明しよう」
そう言ってマードックは解説を続ける。
鮮血旅団、二体目は将軍型のレッドラム。
鮮血旅団のまとめ役であり、スピカ型ともう一体の目付きのレッドラムを率いている。
能力は、日向たちも見た通り「次元の裂け目を開く能力」。
この地球が持つ『星の力』に由来する能力だ。
鮮血旅団の実質的な構成員は三体だが、この将軍型の能力によって、戦闘の際はものの数秒でレッドラムの軍勢が形成される。
そして、普段は個人プレーの意識が強いレッドラムたちだが、この将軍型のレッドラムの指揮下に入った個体は、見違えるように連携行動が巧くなる。
基本的に後方指示ばかりで、この将軍型が自ら戦闘を行なう場面は、まだマードックたちも見たことがない。しかし他所から合流した兵士たちの噂によると、射撃による戦闘を得意とするらしい。
スピカ型と比べると、能力に派手さはないが、間違いなく厄介な難敵の一人である。
ここで、北園がエヴァに声をかけた。
「『次元の裂け目を開く能力』って、私たちが『幻の大地』に行くために求めている能力だよね、エヴァちゃん?」
「そうですね」
「将軍型のレッドラムよりも、エヴァちゃんの方が絶対に『星の力』の量は多いよね?」
「はい。間違いなく」
「その将軍型のレッドラムは次元移動が使えるのに、エヴァちゃんは使えないの?」
「私も『これくらいならいけるのでは』と思って、実際に試したこともあります。ですが……」
「うまくいかなかったんだ?」
「はい。『向こう側』から即座に次元を閉じられて妨害されるのです」
「その『向こう側』っていうのは、やっぱり狭山さん?」
「ですね。そして逆に、あの将軍型は能力を使用する際に、狭山誠に応援を要請して、次元を開く手助けを受けているのだと思われます。だから私よりも遥かに少ない『星の力』で、あの能力が使えるのでしょう」
「なるほどねー。つまり、エヴァちゃんも次元を開くだけなら今でもできるけど、狭山さんの妨害に負けないように能力を使うには、もっと『星の力』が必要ってことだね」
「残念ながら、その通りです。その分の『星の力』を取り返すためにも、やはり残り二体の『星殺し』との戦いは避けられません」
北園とエヴァの話が終わったところで、マードックは三体目の目付きのレッドラムについて説明する。
鮮血旅団の三体目は、いわゆるライトセーバーのような二刀の光剣を持った、剣士のようなレッドラムだという。マードックたちはこの個体を「光剣型のレッドラム」と呼称している。
この個体はあまり協調性が無いようで、将軍型やスピカ型とはよく別行動を取っているようだ。実際、日向たちが先ほどスピカ型と将軍型の二体と戦った時、この光剣型のレッドラムの姿は無かった。
マードックたちも何度か、この光剣型のレッドラムと戦闘を繰り広げたことがある。今のところ、特別な能力はほとんど使用せず、純粋に光剣による白兵戦を得意としているようだ。
これといった異能は使用しない。
それだけ聞けば、この光剣型が一番楽な相手に聞こえる。
「しかし……恐らく、あの三体の中で最も厄介なのは、この光剣型のレッドラムだ」
マードックがそう告げた。
日影が首をかしげてマードックに尋ねる。
「何の異能も使わないのにか? スピカ型の方が厄介じゃねぇか?」
「光剣型はシンプルに、そして凄まじく強いのだ。以前、物資調達の際に、運悪く奴と遭遇してしまい、やむなく戦闘を行なったことがあるが……」
「どうなったんだ?」
「こちらの最新鋭タクティカルアーマー、ホワイトメイルを四機投入したが、十五秒足らずで全滅だ」
「じ、十五秒足らずだと……!?」
顔を見合わせる予知夢の五人。
深刻な様子で話し合う。
「ホワイトメイルっつったら、あれだろ? 沖縄でハイネが乗って、オレたちに襲い掛かってきた奴だろ?」
「ああ、アレだな。あの時は一機破壊するだけでも、日向を除いた俺達四人がかりで十分近くは要したか。たとえ今の俺でも、四機を十五秒というのは不可能だろうな」
「私も、あの時より強くなったとは思うけど、それでも難しいと思うなぁ……」
「ボクは……ギリいけるかな? いやでもどうかなぁ……」
「オレもちょいと微妙か? マジでやべぇぞ、アレを十五秒で四機は」
「俺なら、四機が一列に並んでもらえれば、そこを”星殺閃光”で一秒……。まぁ当時、俺はホワイトメイルとは戦ってないんだけどさ」
「私もです。なんですか、その『ほわいとめーる』というのは」
ざわつく日向たち。
そこへマードックが手を叩き、皆を落ち着かせる。
「ともかく、それだけ厄介な相手ということだ。前二体も間違いなく危険だが、特にこの光剣型には注意してほしい」
「分かりました。気を付けます」
これにて鮮血旅団についての解説も終了。
ひとまず、これで両陣営とも、報告すべき最低限の情報は出し尽くした。
まだ超長距離砲破壊作戦の詳細など、決めなければならないことは多い。しかし、今回はここでいったんお開きにして、夕食の用意をしようという話になった。
「腹が減ったら戦争はできねーからなー」
頭の後ろで手を組みながらつぶやくジャック。
レイカも日向たちに声をかけた。
「食糧の備蓄もだいぶピンチですが、皆様に提供できる程度の量はありますよ。何かお好みの缶詰などはありますか?」
レイカの口ぶりから察するに、どうやらアメリカチームの食事事情は、かなり逼迫しているようだ。今日まで兵士たちも生存者たちも、かなり切り詰めて食糧を節約していたのだろう。
そこで日向は、ジャックたちに提案した。
「なぁジャック。お前たち、生野菜とか、サラダとかは好きか?」
「サラダ? まぁ普通に食えるが?」
「よかった。この国の人たちはフライドポテトを野菜だって言い張る人もいるって聞いたから少し不安だったけど、さすがに心配し過ぎか」
「なんだ? サラダでもご馳走してくれるのかよ?」
「ああ。それじゃあエヴァ、よろしくな」
「向こうを煽るだけ煽っておいて、やっぱり私任せですか。しかし、良いでしょう。これからあなたたちは皆、しゃきしゃきの緑黄色野菜の海に溺れるのです」