第1307話 質問と作戦立案の時間
「……以上が、ここまでの我々のおおよその歩みだ」
そう言って、いったんマードックは話を区切った。
日向たちはそれぞれ、いま聞いたマードックの話を整理する。
「きっとそうだろうとは思っていたけど、やっぱりアメリカもひどい有様みたいだ」
「うん……。けれど、それでもアメリカのマモノ討伐チームの人たちは、これだけ残ってる。やっぱりすごい人たちだよね」
「”最後の災害”が始まって、既におよそ四カ月が経過している。だというのに、まだこれほどの人員と物資の量は……流石としか言いようが無いな」
「それはそれとしてさ、話の途中に出てきた『地震を引き起こす岩の怪人』って、やっぱり『星殺し』のことだよね?」
「だろうな。次にオレたちが戦う『星殺し』はグラウンド・ゼロってことだ」
「この大陸全土を能力の射程範囲に収めるほどのチカラ……かなりのものです。恐らくは『星殺し』の中でも、特別強く設定された存在かもしれません」
「アメリカ合衆国は世界屈指の強国だしねー。確実に制圧するために、強い『星殺し』が送り込まれたのかもねー」
やり取りを終えて、日向がマードックに質問を投げかけた。
「マードック大尉。今の話だと、アメリカチームはグラウンド・ゼロの居場所を把握したようでしたけど、グラウンド・ゼロが今どこにいるのかは分かるんですか?」
「ああ。奴はここからはるか東、グランドキャニオンにいる。最初にあの場所に出現してから、ずっと同じ場所に留まっているのだ」
「グランドキャニオン……ええと、名前はすごく聞いたことあるんですけど、どのへんでしたっけ……」
「アリゾナ州北部……と言っても分からんだろうな。距離にすると、ここからおよそ三千キロといったところか」
「いや遠いっ!? とはいえ、飛空艇があれば、まだどうにかできるかな……」
そうつぶやく日向だが、その横からシャオランが苦い表情をしながら日向に尋ねる。
「でもヒューガ。アレはどうするの? ほら、ボクたちが最初にニューヨークに来た時、どこからか飛空艇やユピテルを狙撃してきた砲撃は」
「あー、あれがあったか……。飛空艇にはバリアーもあるから、その気になれば強行突破もできそうだけど」
日向とシャオランが話をしていると、そこへマードックも意見を述べた。
「あの砲撃は、敵の超長距離砲によるものだ。ここからおよそ三百キロほど先にあるピッツバーグという都市から撃ってきている。射程距離はおよそ四百キロ。無理やり突破したとしても、しつこく後ろから砲撃してくるだろうな」
「三百キロ先から狙撃って、頭おかしいんじゃないの……? あ、すみません素が出ました。続きをお願いします」
「まぁ気持ちは分かる。君たちも見たと思うが、敵の超長距離砲は弾速が極めて速い。だから、それだけ離れていても、かなりの精度で標的に砲撃を命中させてくる。ただ、飛んでいる標的には敏感だが、地上の標的には注意が緩いようでな」
「そういえば確かに、俺たちが地上に降りた後は、全然砲撃が飛んでこなかったような」
「見ての通り、ここには戦闘機やオスプレイなど、航空戦力も充実している。しかし、あの超長距離砲がにらみを利かせているせいで満足に動かすことができない。これを存分に動かせるようになれば、戦局はこちら側に大きく傾くことになるだろう」
「グラウンド・ゼロのところまで空から直行するにしても、超長距離砲を始末しなかったら、俺たちの飛空艇に乗せられるだけの戦力。超長距離砲を始末したらオスプレイを飛ばせるようになるから、追加の戦力を乗せられる。戦闘機も飛び回れる。良いことづくめですね」
「その通りだ。日下部日向、君のタイムリミットに余裕が無いのはこちらも把握している。しかし、基盤を固めるというのは戦闘においても非常に重要だ。まずはこの超長距離砲を排除し、これからの戦いの足掛かりとすることを提案するが、どうだ」
「それで行きましょう。航空戦力の火力と利便性は魅力的ですからね。俺たちも日本では、マカハドマを倒すために、駆逐艦や銃火器みたいな軍事力にすごく助けられました。異能だけで勝てるなら苦労しないんですよ、『星殺し』って」
「ふっ、流石はあの岩の怪人……グラウンド・ゼロに匹敵する化け物を五体も葬ってきた実力者だな。言葉に重みがある」
日向の質問から始まった会話の流れで、最初の作戦の内容がおおよそ決定した。まずはピッツバーグにあるという、敵の超長距離砲を破壊する。
ここで、本堂もマードックに質問する。
「マードック大尉。其方はこれまでの間、作戦行動を極力控えてきたとのことでしたが、それにしては随分と敵の情報が充実していますね。何か諜報活動を行なっていたのですか?」
「そうだな。諜報活動もしていたが、一番大きな情報源となったのは、各地から集めた生存者や生き残りの兵士たちからの証言だ」
「各地から集めた生存者……。しかし先程の話では、あまり生存者の救出活動は出来なかったと……」
「さすがに食糧や物資を調達する中で偶然に発見した生存者を見捨てるほど、我々も冷血漢ではないよ」
「ああ、成る程。これは失礼致しました」
「構わん。もっともな疑問だ。そういうわけで、情報面に関しては、それなりの支援ができるはずだ」
「それは頼もしいですね。地域の現状に詳しいガイドの存在がどれだけ助かるかについては、此方も身に染みていますから」
本心から、本堂はそう述べた。
きっとアメリカチームも今日という日が来ることを信じて、敵の情報を可能な限り、かき集めてくれていたのだろう。
本堂の質問が終わると、それを見計らって、日影もマードックに質問。
「それとマードック、アイツらについても教えてくれよ。今日オレたちを襲撃した、スピカみてぇなレッドラムと、将軍みてぇなレッドラムについてだ。鮮血旅団……とか言ってたが」
「うむ、そうだな。連中もまた、我々のグラウンド・ゼロ討伐において、必ず立ちはだかるだろう。さっそく説明しよう」