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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第5章 人の心 マモノの心
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第120話 ワイバーン掃討 その後の夜

 ワイバーンたちの掃討が終わり、討伐チーム一同は飯塚駐屯地へと帰還した。


 到着するころにはすっかり陽が落ち、辺りは暗くなっている。そのため、今日の活動はこれにて終了。明日には両国のチームの連携を高めるための訓練を一通り行う予定だが、隊員たちは既にメインイベントをやり切ったような達成感に包まれていた。


 日向たちも今日はこの飯塚駐屯地に宿泊する。

 今は春休み期間中なので、一日二日の外泊くらい気にならない。皆、思い思いに駐屯地内で時間を過ごしている。


(夕食は食べ終わったし、後はもう消灯までゲームして過ごすかな)


 そう考えながら日向が駐屯地の休憩室に入ると、そこにはブロンドのロングヘアーの、偉丈夫の男性がいた。右腕は頑強な黒鋼の義手になっている。『ARMOURED』のコーネリアス少尉だ。


「……ム」


「あ、どうも……」


 入ってきた日向を見やるコーネリアス。狙撃手らしい鋭い眼差しが日向を射抜く。


(こ……怖えぇ。今ここに入るのはマズかったか……?)


 もともと寡黙なコーネリアスだが、彼は『ARMOURED』のメンバーの中でも最も日本語を苦手としているため、日向たち日本人にはさらに口数が少ない。それでも日向たちに話しかけるときは努めて日本語を使ってくれるが、かなりカタコトだ。

 

 日向としても、そんなコーネリアスに日本語で話しかけるのは悪いような気がして、なんとか英語で話しかけようとするが、緊張から頭の中で上手く英文が組みあがらない。


 気まずい沈黙が続く。

 そんな中、唐突にコーネリアスが英語で日向に話しかけてきた。


「Would you like to play Mario Kart?」


「…………ほわっつ?」


 唖然とした声を返す日向。

 コーネリアスの英語が聞き取れなかったワケではない。問題はその内容だ。


(今、聞き間違いじゃなかったら、「一緒にマリオカートやりましょう」って言わなかったか……? いや、まさか。こんな超クールそうな人がそんな……)


「マリカーするカ?」


(ウッソだろ)


 と、ここに休憩室へと入ってきた人物がもう一人。

 コーネリアスと同じ『ARMOURED』のメンバー、ジャックである。


「コーディ! マリカー持ってきたぜ! ……んあ? ヒュウガじゃねーか。どうしたんだ、凄い表情で固まってるぜ?」


「いや、コーネリアス少尉が『マリカーやろう』って……」


「それがどうしたんだ?」


「え、いや、あの、この人ゲームするの……?」


「するも何も、こいつゲーム大好きだぞ」


「嘘だぁ。ゲームとは無縁そうなクールガイなのに」


「ジャパニメーションも大好きだぞ」


「いったいどういう人生歩んだらそんな面白おかしい人格になるの……?」


「人ヲ見た目で判断してハいけなイ」


「うわぁ当の本人から至極まっとうな正論を叩きつけられた」


「んで、やるのか? やらねぇのか?」


「……やる!」


「よっしゃ決まりだ。俺のコントローラー使え」


 そう言って日向にスイッチのコントローラーを投げてよこすジャック。

 こうして唐突に、三人によるマリオカート対戦が始まった。



◆     ◆     ◆



『ARMOURED』の隊長、マードック大尉が廊下を歩いている。

 全身を鋼鉄の義体に改造している彼は、歩くたびに金属の音が鳴る。


 と、その途中で狭山と出会った。


「これはミスター狭山。今日はお互いお疲れだな」


「やや、マードック大尉。お疲れ様です。何か不便していることはありませんか?」


「いいや。良くしてもらっている。おかげ様で快適だ」


「それは良かった。困ったことがあったら仰ってくださいね」


「ああ。……なぁ狭山。日本は、強力な人材を手に入れたようだな」


「……ええ。彼らには本当に助けられています。これまでの人生で偶然にも異能を獲得した少年少女たちが、偶然にも一つに集まって共通の敵に立ち向かう。自分は、彼らに運命を感じずにはいられません。今はまだ粗削りな部分もありますが、いずれは大活躍をしてくれるでしょう」


「はは。まるで我が子を自慢する父親だな。お喋りが止まらないと見えるぞ、狭山」


 目を輝かせながら話を続ける狭山。それを楽しそうに聞き続けるマードック。


 ……と、ここで狭山の話が途切れたのを見計らい、マードックが狭山に話しかける。


「なぁ狭山。今日のワイバーンの群れ。アレはお前の仕込みだったんじゃないか?」


「…………。」


 微笑みながら、しかし気まずそうに目線を逸らす狭山。

 なおもマードックは話を続ける。


「大統領から聞いた話では、開催場所にここを選んだのはそちらの判断だという。あのワイバーンの巣がこの近くにあるのを知ってて、その処理を我々に手伝わせるためにここを選んだのでは?」


「…………おっと軍議に遅れてしまう! では自分はこの辺で!」


「おい待て」


「おっふ」


 逃げようとした狭山の首根っこをマードックが掴む。


「今日はもう軍議は無いだろうが」


「おや? そうでしたっけ?」


「まったく。お前の記憶力の良さは私もよく知っている。そんな勘違いをお前がするワケないだろうに」


「……いやはや。これはもう観念するしかありませんね。ええ、大尉の言う通りです。閣下に合同演習のお誘いを受けるまさに直前、今回のワイバーンの巣の発見報告を受けたのです。あの数でしたからどうしたものかと悩んでいたのですが、そこに閣下からの連絡が。しかも場所は自分が好きに決めていいと。これはもう利用しない手は無いかなー、と」


「だからと言って、ワイバーンをここに襲撃させるのはやり過ぎだったのではないか?」


「本来なら、この一日目で両国の連携を高め、二日目でワイバーンの巣を襲撃するつもりだったんです。だから、ワイバーンがいきなりこちらに向かってきたのはちょっと計算違いでしたね」


「そういう真相か。やれやれ。相変わらず、見た目によらずちゃっかりしてる奴だ」


「ちゃっかりついでに、このことは閣下には黙ってもらえないかなー、と」


「ああ、そちらの心中は察するよ。私は何も聞かなかったことにしよう」


「はは、助かります」


「それに、こちらとしても収穫はあった。彼ら五人との出会いは、我々にとって大きな経験となった。とくにジャックは、我々が『世界最強のマモノ討伐チーム』と呼ばれるようになってからこっち、少したるんでいたからな。いい刺激になっただろう」


「なるほど。有意義な時間を過ごしてもらえたようで良かった。では、自分はそろそろここで。大尉もどうぞゆっくりしていってください」


「ああ、そうさせてもらおう」


 そしてお互いは別れた。

 マードックはそのまま、一息つくために休憩室へと立ち寄った。





「Too late.(遅い)」


「ああくそ! コーネリアスさん強ええ!? なんであの順位から巻き返してくるんだ!?」


「マジで強いぞコーディは。俺の場合、得意なコースにアイテム運に時の運、全部そろっても勝てやしねぇ」


「速さが足りナイ」


「そしてどこかで聞いたようなセリフで煽られた!」


「こいつジャパニメーション大好きだからな」




「…………。」


 和気あいあいとゲームに興じる三人を、冷めた目で見つめるマードック。

「たるんでいるからいい刺激になった」と言った傍からこれである。


「……ン、マードック大尉か。お前もマリカーするカ?」


「お、マードックじゃねーか! マリカーやろうぜマリカー!」


「え? マードック大尉もゲームするの?」


「時々な。しかもこのフルメタルハゲゴリラ、その図体に反してキノピオが持ちキャラなんだぜ!」


「ぶっふ!?」(笑いを堪える日向)


「……少尉。我々は合衆国ステイツを背負って立つマモノ討伐チーム。周りに示しが付かないから、今日くらいはゲームは抑えろとあれほど言っただろうに……」


「とりあえずコントローラー設定しておいタゾ」


「少尉。話を聞け」


「キャラはクッパでいいカ?」


「少尉。」



 結局、マードックはなし崩し的にコントローラーを受け取り、四人でレースを楽しむこととなった。その際、先ほど自身に凄絶な罵声を浴びせたジャックをコース外に突き落とし、周回遅れにして制裁を加えたことは言うまでもない。


 明日はメインイベントを失った、二日目の合同演習が待っている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ホント人は見かけによりませんよね~。 マリカーって!(笑)
[良い点] マードックさん大人げないwww(=゜ω゜)ノ マリカー大好き♪ あ、自分はクッパを使います。 最初はボスを扱える事に喜びを覚えていましたが、パワーでねじ伏せる部分が悪役だぁと思いいつの間に…
[良い点] ふ、(ΦωΦ)フフフ… めっちゃ和みました(笑) まさかのマリカー!! なんか彼らが好きになってしまいました(笑)
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