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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第23章 合衆国本土奪還作戦
1339/1700

第1306話 震災と戦乱、そして決断

 ”最後の災害(テラ・バスタード)”が起こったその日。

 アメリカ合衆国全土は、未曾有の大地震に襲われた。


 その地震は、一つの震源地から震動が伝播(でんぱ)する通常の地震ではなく、複数の震源地からそれぞれ、ほぼ同時に地震が発生するという、本来ならまず有り得ない現象だった。


 おまけに、その地震の一つひとつが極めて大きく、異なる地震同士がぶつかり合った箇所は、その衝突の余波で地上にさらなる被害が出た。


 アメリカにも地震は発生するが、極めて大きな地震となると、その発生率は十年に一度くらいのものになる。そのため、アメリカは日本などと比べると、地震への対策があまり進んでいない。


 その結果、たった一分程度の時間にして、北アメリカ大陸のあらゆる都市は破壊された。


 ここに来る前に日向たちが見たニューヨークの街の惨状もまた、地震による被害である。多くの家屋やビルは倒壊し、大地は粉砕され、山々は崩された。


 おまけに空が(くも)り雲に覆われ、太陽が隠れ始めた時、電話やインターネットといった通信機器も使えなくなってしまった。


 社会も軍部も大きなパニックに見舞われた。

 その隙を突くかのように現れ始めたのが、鮮血の怪物ことレッドラム。


 震災だけでも大勢の人々が死んでしまったが、その生き残りの人間を狩るように、レッドラムは人々を殺して回った。軍部も混乱していたため、本来なら助けることができたはずの人々も、多くが犠牲になってしまった。


 一時は混乱してしまったアメリカ軍だったが、それぞれの州基地はすぐに体勢を立て直し、レッドラムとの交戦を開始した。


 各地で熾烈な戦闘が繰り広げられ、アメリカ軍とレッドラムは長い間、戦っていた。


 だが、倒しても倒しても新たに湧いてくるレッドラムに対して、アメリカ軍は最初の震災の時点で弾薬や兵器を補充する生産ラインがやられてしまっており、ジリ貧に。


 最初の大地震ほど(ひど)い威力ではなかったが、あれ以降も各所で地震は頻発していた。東はニューヨークから、西はロサンゼルスまで、全地域で。


 この地震がアメリカ軍の行動を阻害したり、人員に被害を出したりしていた。こんな調子では、アメリカ軍もレッドラムを相手に力を発揮できるはずがない。


 やがてアメリカ軍はレッドラムに押し切られ、壊滅。

 ほとんどの基地も機能停止してしまった。


 そんな中、遊撃部隊として各地で転戦していたアメリカのマモノ討伐チームは、その実戦経験の高さもあって、今日まで生き延びていた。メンバーもほとんど欠けていない。


 レッドラムとの戦闘が始まって数週間の後、アメリカのマモノ討伐チームの司令も務めるマードックは、壊滅したアリゾナ州から逃げ延びてきた兵士から、気になる報告を聞かされた。


 それは、全身が岩で作られたような人型の怪物の話だ。その岩の怪人が大地を殴りつけると、どこからか大地が鳴動するような音が聞こえたという。恐らく、近場で地震が起こったのだと思われる。


 マードックは、アメリカを襲い続けている地震はこの岩の怪人の仕業だと推測。最優先ターゲットとして定めた。


 話を聞いていて、日向たちは思う。

 恐らく、この岩の怪人は”地震”の星殺し、グラウンド・ゼロだ。

 地震という能力、そして人の(かたち)をした異形。『星殺し』の特徴に合致している。


 この時、まだマードックたちは『星殺し』に関する知識がなかった。

 にもかかわらず、この岩の怪人を最優先ターゲットと定めるあたり、その敵の危険度を察知する嗅覚は流石である。


 戦いを続けている中で、マードックはふと気づく。

 地震はいつも、軍の基地などの要所をピンポイントで狙ってくる。

 そして自分たちが戦闘を始めると、高確率で地震が邪魔をしてくる。


 もしかすると、あの岩の怪人は、遠距離にいる自分たちの位置を特定する能力を持っているのではないか。マードックはそう考えた。


 地震を起こすということは、相手は大地の力を司る可能性が高い。それも、アメリカの国土全てを攻撃範囲に収めることができる規模となれば、その能力の出力自体が相当なもの。


 岩の怪人は恐らく、このアメリカの大地の上に立っている人間であれば、どこにいようが捕捉することができるのではないか。


 そう考えたマードックは、作戦司令部をこの空母に移動。

 地上が駄目なら海上に逃げるという発想だ。


 その結果、地震の被害はおろか、レッドラムが司令部を襲撃してくる頻度も目に見えて減少した。やはり、あの岩の怪物が各所の軍事基地を捕捉し、その情報を(もと)にレッドラムが襲撃を仕掛けていたのだろう。


 それ以降、この空母がアメリカのマモノ討伐チームの拠点となる。


 大西洋はジ・アビスが支配していたはずだが、アメリカの近海まで支配領域を広げることはできていなかったようだ。不幸中の幸いである。


 大地震から一か月ほどが経過し、多くの州基地が壊滅に追い込まれた時、マードックは一つの決断をした。


 悔しいことだが、ここからアメリカの軍事力だけで怪物たちを殲滅することは、ほぼ不可能。このままでは、自分たちは勝てない。


 しかし、まだ負けたわけではない。


 アメリカ以外の国々も怪物の襲撃を受けていることは聞いていた。きっとその中には、怪物たちに打ち勝つことができた国もあるはずだ。マードックはそう考えた。


 世間一般には知られていないだけで、予知夢の五人やロシアのエージェントなど、怪物にも引けを取らない実力を持つ人間は多い。そういった強者たちも、きっとこの事態を解決するために動いている。


 この強者たちを、待つことにした。


 作戦行動を最低限に抑え、資源や食料、人員などを各地からかき集め、来るべき時に備えて耐え忍ぶ。それがマードックの決断だった。


 ほとんど賭け同然の作戦だった。

 それも、極めて分が悪い賭けだ。

 賭けに負ければ、怪物たちに反撃するチャンスもなく野垂れ死に。

 賭けに勝っても、そこでようやく反撃のためのスタートライン。


 遠く離れた場所に住む家族たちは、きっと助からないだろう。その家族たちを助けに行くことも許されない。


 積極的に救助活動を行なえば、助けることができた命も多かっただろう。そういった可能性にも目を(つむ)り、作戦行動はなるべく控え、来るかどうかも分からない援軍をただひたすら待つしかない。


 そんな消極的極まりない作戦だったが、アメリカのマモノ討伐チームの皆は、これが最も勝率が高い作戦だと判断し、マードックの意見に同意した。


「多くの犠牲者を出してしまうだろう。

 多くの者に借りを作ってしまう作戦だ」


「だが、目先の勝利を追いかける余裕すらも、今の我々には無い。いま最も重要なのは、どれほどみっともなくとも、最後には決定的な勝利を掴み取ることだ」


「外国からの支援が来た時、これを全力で援護する。我々には世界最高の軍事力というプライドがあるが、そのプライドを捨てて『助けてほしい』と手を挙げるのは恥ずべき行為ではない。勇気ある行動だ。この国の未来を(おも)うのならば」


「きっと……いや、必ず援軍は来る。

 信じよう。共にこの星で生きる同志たちを」



 そして、マードックたちは賭けに勝った。

 今日、ここに日向たちがやって来たことで。

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