第1305話 ここまでの報告
「さて、待たせて悪かったな。こっちの決着はついたから、さっそく話を始めようぜ」
エヴァとの話を終えたジャックが、そう声をかけてきた。
レイカにぶん殴られた頭を右手でさすりながら。
日向は、相変わらずな様子のジャックに苦笑いしながらうなずき、さっそく報告を始めた。
「それじゃあ、まずは俺たちが『幻の大地』に行って、エヴァと戦った時のところから……」
「ああ、懐かしいな。もう何か月前の話だ?」
順を追って、日向たちは説明していく。
エヴァと戦った後、狭山が本性を現し、人類の敵になったこと。
アーリアの民と、その歴史について。
今、この地球を攻撃しているのはアーリアの民であること。
どうにか『幻の大地』を脱出し、紆余曲折あって”吹雪”の星殺し、マカハドマを倒したこと。
中国の武闘大会、そしてアポカリプスとの戦い。
ロシアでの激闘、オリガの死、日向が新たな能力を獲得し、プルガトリウムを滅したこと。
ヨーロッパ圏での冒険の末、ジ・アビスを討伐したこと。
今日、別行動をしていたスピカとミオンの活躍により飛空艇を手に入れ、オネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちを保護し、ドゥームズデイを撃墜したこと。
「……そして、エヴァの能力で新たな『星殺し』の気配を追いながら、小休止できる場所を探していた結果、ここにたどり着いた……ってところかな」
日向たちの話を聞いたアメリカ兵たちは、それぞれの反応を見せていた。地球の未来を案じ、深刻な表情で話を聞いていた者。事態の大きさに実感が湧かず、何とも言えない表情で話を聞いていた者。中にはジャックのように、普通に楽しい冒険活劇として話を聞いていた者もいた。
「はー……なんか知らない間に、すっげーデカい話になってきてんなー。何十億年も昔から続く宇宙人との因縁? そんで、あのサヤマが敵の大将……いや、王子さまだって? もうマモノがどうこうなんて時代じゃねーな、完全に」
映画を観た感想のように、ジャックはそうつぶやく。
一方、カード大統領は青い顔色をしていた。
「さ、狭山が敵だとぅ……!? な、何ということだ……もしかしたらちょっと我々の助けになってくれるかもしれないと期待していたのに……まぁ確かに色々と胡散臭いところはあった男だったが……いやだからって宇宙人は読めんよ流石に……」
「閣下。お気を確かに」
足元がふらつき始めたカード大統領を、マードックが支える。支えながら、マードックはスピカに目を向けた。
「ミス・スピカ。貴女が日下部日向たちに協力しているというアーリアの民で間違いないな?」
「そーだよー。あとここにはいないけど、ミオンさんもねー。ワタシは王子さまにこっぴどくやられちゃって、残念ながら今は非戦闘員なのよね。だから、今はもっぱら知識面でこの子たちのサポートをしてまーす」
「なるほど。ところで、今日そちらも相まみえたと思うが、あの貴女そっくりのレッドラムは、姿かたちが似ているだけで、あなたとは関係が無いのだな?」
「まったく関係ないよーっ! もう、なんなのあれー!? 人の姿を真似して暴れ回るとか信じられないんだけどー! 思ったけど、やっぱり肖像権って大事だよね、うん!」
「はは。なかなか愉快なレディのようだ。アーリアの民については、我々にとってはまさに未知との遭遇。時間があれば、そちらの文化などについても詳しい話を聞いてみたいところだ」
スピカとマードックは、さっそく打ち解けているようだ。
その一方で、コーネリアス少尉は本堂に声をかけていた。
「ジン・ホンドウは随分ト姿が変わっタようニ見えル」
「『星の力』によってマモノとなりました。こうならなければ命を落とす展開に陥ってしまった結果です」
「なるほド。相当な修羅場をくぐってきタらしイ」
「ええ。自分で言うのもなんですが、数え切れないくらいの修羅場を越えてきたと思っています」
「そうカ……」
「む、微妙な反応。我々が頼りないですか?」
「いいヤ……本来なラ戦いとハ無縁に生きルはずのお前たチにこれ以上苦労をかけないよウ、俺たち職業軍人がしっかりせねバと思っただけダ」
「……失礼を承知で言ってしまいますが、貴方からそんな優しい言葉が出てくるとは、少し意外でした」
「ふ……本当ニ失礼だナ。お前たチとの戦いデ変わったのハ、大統領だけでハないトいう事ダ」
「成る程。では、存分に頼りにさせてもらうとしましょう」
そしてレイカは、エヴァを見ていた。
膝を曲げてエヴァと視線の高さを合わせている。
「この子が『星の巫女』……エヴァ・アンダーソンちゃんでしたか。改めて考えると私たち、こんな可愛い女の子一人を倒すために躍起になってたんですね……」
「エヴァ・アンダーソンです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますね、エヴァちゃん。うーんそれにしても、この世間知らずっぽい雰囲気が可愛いです! こんな妹が欲しかった!」
そう言ってエヴァの頭をなでるレイカ。
エヴァは少し迷惑そう。
「い、いきなりなんですか、不服を申し立てます……」
「あ、ごめんね、つい……。そうだ、私も自己紹介。私の名前はレイカ・サラシナ。気軽に『レイカお姉ちゃん』って呼んでくださいね」
「はい。よろしくお願いします、レイカさん」
「『レイカお姉ちゃん』」
「レイカさん」
「れ……レイカお姉ちゃん……」
「レイカさん」
「うう……手強いです……でもいつか絶対お姉ちゃんって呼んでもらうんだ……」
拳をグッと握りしめ、決意するレイカ。
エヴァは、そんなレイカお姉ちゃんをジト目で見つめていた。
するとそこへ、日影がレイカに声をかけた。
「レイカ。そういやアカネは元気なのか?」
「あ、はい。もちろんアカネも元気ですよ。変わりましょうか?」
そう言うと、レイカの黒髪が赤く染まり、青い瞳も赤色に変色した。レイカのもう一つの人格、アカネ・サラシナに切り替わったのだ。
「よお、影男。こんな世の中になっちゃったけど、お互い無事で何よりだねぇ?」
「まったくだ。もっとも、敵を斬りまくるのが人生の楽しみなお前にとっては、むしろ今の時代の方が生きやすいんじゃねぇか?」
「アッハハ! 減らず口は相変わらずだねぇ! 後でちょっと顔貸しな? 久しぶりに人間の剣士と戦り合いたくなってたんだよ」
「いいぜ。こっちも、お前が相手なら良い練習相手になりそうだ」
お互いに不敵な笑みをぶつけ合う二人。
健全な、一触即発の雰囲気である。
エヴァが日影に話しかける。
「日影。レイカさんの姿が急に変わりました。これはいったい……」
「レイカは”二重人格”の超能力者なんだよ。レイカの中にもう一人の人間……このアカネって奴がいるんだ。見ての通り狂犬みてぇな性格だ。気を付けとけ」
「わかりました」
「ちょっとちょっと! これから一緒に戦う仲間になるっていうのに、随分な紹介じゃないかい?」
「極めて妥当な紹介と評価だったと思うけどな」
こうしてアメリカ陣営は、ひととおり日向たちの現状について把握することができたようだ。
その後、シャオランがマードックに声をかける。
「そろそろ、そっちのことも教えてよ。これまでアメリカは何をしていたの? どんな戦いを繰り広げていたの?」
「そうだな。こちらも報告しよう。我々の戦いの軌跡について」