第1304話 アメリカチームの拠点
アメリカのマモノ討伐チームによって窮地を救われた日向たち。
地震が起こった時、将軍型とスピカ型のレッドラムは姿を消した。今この場にレッドラムはもう一体もいない。戦闘終了である。
北園とエヴァの能力によって、日向たちは傷を回復。
最初に撃ち落とされたユピテルも、すっかり元気を取り戻した。
それから日向たちは、いったん飛空艇に乗り込んで離陸。一緒についてきたジャックとレイカの案内を受けて、アメリカのマモノ討伐チームが拠点にしているという湾岸地帯へ向かう。
飛空艇内にもレッドラムの襲撃があったようだが、コックピットに残っていたミオンがレッドラムを撃退してくれていたようだ。オネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちも無事である。
その後、飛空艇は問題なく目的地に到着。
湾岸地帯に並んで停泊している、数隻の空母。
現在のアメリカのマモノ討伐チームは、ここを拠点としているようだ。
飛空艇は、旗艦と思われる空母に横付けするように、海上に着陸した。反重力により、この飛空艇は海の上などでも着陸ができる。
空母の甲板に降りてきた日向たち。
彼らを最初に出迎えたのは、敬礼するアメリカの軍人たち。
その軍人たちの中に、スーツ姿の小太りの男性が一人いた。
現アメリカ合衆国大統領、ロナルド・カードである。
「おお……何やら未確認飛行物体が飛んできたと思ったら、やはり君たちだったのか。マードック大尉から既に連絡は受けている。よくぞここまで来てくれた」
「お久しぶりです、カード大統領。なんか……少しやつれました?」
「まぁ、な。この国は現在、こんな状況だ。こんな状況になって、もう三カ月ほどが経つ。心身ともに疲れもするというものだ」
「やっぱり、このアメリカも大変なことになってるんですね……」
「うむ。しかし、我ながら現金な性格だよ。君たちが来てくれたと知った今、また少し活力が戻りつつあるように感じるのだから」
「期待されてますね。精いっぱい、頑張らせていただきたいと思います」
「ひとまず、君たちのこれまでと、我々のこれまで、そして互いのこれからについて話し合いたい。兵士たちに案内させよう。まもなくマードック大尉たちも到着する。先に空母の中へ入ってくれ」
「分かりました」
カード大統領とのやり取りを終えた日向たちは、ジャックとレイカに連れられて空母内部へ。
その際、歩きながら日向はジャックに声をかけた。
「なんだかカード大統領、前にあった時より自信が付いてるように見えたよ」
「ああ。オマエらと戦り合った一件以来、人が変わったみてーに積極的に頑張るようになってな。この非常事態にも、戦えない人間なりにリーダーシップを発揮して俺たち兵士や生存者たちを鼓舞してくれてる。変わったよ、あのおっさんは」
「そっか。あの戦いで一番得をしたの、あの人かもしれないな」
「ははっ、かもな。ところでヒュウガ、一国の大統領を相手にあれだけ対等に話すなんて、やるじゃねーか」
「え、いや、そんなにフレンドリーに話していたつもりは……」
「そうかぁ? まるで、ここにいないサヤマの代理みてーに堂々としてたぜ」
「狭山さん……狭山さんの代理か……」
「あん? どうしたヒュウガ、褒め言葉で言ったつもりだったんだが、なんか顔が暗いぜ?」
「いや、まぁ……うん……」
ジャックに言われるも、日向は微妙な反応。
恐らくジャックたちは、まだ知らないのだろう。この”最後の災害”を引き起こしたのが、外ならぬ狭山なのであると。彼らはまだ、狭山を味方だと思っているのだ。
「毎度のことながら、これを知り合いに説明するのは緊張する……」
いずれ狭山さんに文句言ってやろう、と思いながら日向はつぶやいた。
それから日向たちがやって来たのは、この空母の兵器格納庫である。広々とした空間で、日向たちの他にも大勢のアメリカ兵が集まっている。マードックとコーネリアスの部隊も帰還したようだ。
日向たちのグループでこの会議に出席しているのは、日向、北園、本堂、シャオラン、日影、エヴァ、スピカの七人だ。ミオンは別室で子供たちの相手、兼、万一のための護衛を担当してもらっている。
ミオンと子供たちをわざわざ出席させなかったのは、この会議に参加したら、子供たちが「狭山校長が人類の敵である」という事実を知ってしまうだろうから、と考えたためである。
周囲の同僚たちを見回しながら、ジャックとレイカが口を開く。
「もっと静かな部屋でゆっくり話し合い……とも思ったんだが、いっそ皆に同席してもらって、一緒に話を聞いてもらった方が、後で一人ひとりに説明する手間が省けるかと思ってな」
「私たちは全員が戦闘員であり、全員がこの戦いの当事者です。だから、少しでも早くあなたたちが持ってきてくれた情報を知りたいそうで……」
「こっちはそれで構わないよ。じゃあ、まず俺たちから……」
「……っと、待ったヒュウガ。それより前に、ちょいと因縁の清算をつけさせてほしい」
「因縁の清算?」
「ああ。そこにいるお嬢ちゃんにな」
そう言ってジャックは、エヴァの方を見た。
エヴァは表情を変えず、まっすぐジャックの視線を受け止める。
「私に何か御用でしょうか」
「ああ。オマエがエヴァ・アンダーソンか」
「はい、そうです」
「あの、マモノ災害を引き起こした張本人?」
「……その通りです」
一瞬だけエヴァは口をつぐむも、すぐにうなずいて肯定した。
それを見たジャックも軽くうなずき、話を続ける。
「俺のこの腕、普通の腕じゃねーだろ?」
「はい。機械の腕ですね」
「前は生身の腕だったんだがな、オマエが生み出したマモノに食いちぎられたんだよ」
「ん……」
「それ以来、俺の人生は狂っちまった。まぁ悪い狂い方じゃねーんだが、狂っちまったのは紛れもない事実だ。どう落とし前つけてくれるんだ? あん?」
気まずい空気が場を包む。
エヴァも少し表情を暗くして、視線を下げている。
日向たちはエヴァに助け舟を出そうかとも考えたが、もう少し見守ることにした。エヴァはああ見えても責任感が強い少女だ。こんな気まずい状況だが、自分なりに決着を付けたがっているかもしれない。
やがてエヴァは、口を開いた。
「私にできる、あらゆる方法で、その罪を償うつもりです。ですがそれでも、あなたに味わわせてしまった苦痛の記憶は消えないのでしょう。本当に申し訳ございませんでした……」
「まぁ……いいぜ。俺だって鬼じゃねぇ。見たところ、しっかり反省はしてるみてーだしな。さっきは地震を止めてくれて、仲間たちを助けてくれた」
あとは、ここからの戦いでしっかり全力を出して貢献してくれ。それでチャラにしてやる。そう声をかけようとしたジャック。
するとエヴァが、それよりも早く言葉を発した。
「つきましては、まず最初に、あなたの腕を戻しましょうか」
「…………ホワッツ?」
「あなたの腕を元に戻します。元の生身の腕に」
「は? え、待て、そんなことできんの?」
「はい。あなたの血液を少しもらえれば、そこからあなたの遺伝子情報を基にして、あなたに適合する腕を生成することができます。もっとも、腕の生成から定着まで少し日数がかかりますが……お望みとあらば、今からでも取り掛かります」
この機会に少しエヴァを困らせてやろうと思い、この話を始めたジャックだったが、完全に言い返される形となった。失った腕が元に戻るのであれば、もはやジャックはエヴァに怒りをぶつける筋合いは何も無い。
望むことすら諦めていた、元の腕を取り戻すチャンス。
……しかしジャックは、首を横に振った。
「今は、いいや。この義手、なんだかんだで戦闘には便利なんだよ」
「そうですか」
「ただし、『今は』だからな! この戦いが終わって、復興が進んで、もうこの義手もいらなくなったと判断した時、しっかりと元に戻してもらうからな!」
「わかりました」
「だから……まぁなんだ、オマエもしっかり生き残るんだぞ! 俺の腕を戻してもらう前に死なれたら困るからな!」
「はい。そのつもりです」
「ったく、まさか具体案を用意してやがったとは……。もう完全に何も言えなくなっちまったぜ……」
頭をかくジャック。
そんな彼に、レイカがくすくすと笑いながら声をかけた。
「こんな小さな子を困らせようなんて、やっぱり悪いことはするものじゃないですね、ジャックくん」
「けっ、まな板が人の言葉を話してら」
「まなっ……!?」