第1303話 再会のニューヨーク
突如として現れたジャックとレイカ。
日向たちの窮地を救ってくれたのは、アメリカのマモノ討伐チームだったようだ。
「ジャック! レイカさん! うわぁ久しぶり!」
日向も思わず、二人に声をかける。
声をかけられたジャックとレイカも、明るく日向に返事をしてくれた。
「よーうヒュウガ! 遅れてやって来たヒーローただいま参上だぜ!」
「お久しぶりです日下部さん! お待ちしておりました!」
「ああ、マジ待ってたぜ。マードックは賭けに勝ったワケだな!」
「待ってたって? 何の話?」
「まぁその辺の話は後でな。今は……」
そう言ってジャックは、二丁のデザートイーグルの銃口を将軍型とスピカ型のレッドラムにそれぞれ向けた。レイカも表情を真剣なものに戻し、居合の構えに移行する。
「今は、この感動の再会を邪魔する招かれざる客どもに、さっさとご退場願わないとな?」
「フン、ヤハリ貴様ラダッタカ。アメリカノマモノ討伐チーム」
「いやーホント、招かれざるお客さんはどっちだって話だよねー。もうちょっとでこの子らにトドメを刺せたのにさー」
「招かれざるのは百パーセント、オマエたちだろーが。さっさとこの国から出てけってんだよ」
「この場は私たちが完全に包囲しています! あなたたちはそれぞれ鮮血旅団のトップ。ここで退かないというのなら、刺し違えてでも仕留める準備がこちらにはありますよ!」
「……ト言ッテイルガ、ドウスル、オ前」
「どうしようかねー。この兵隊さんたちも放置しておいたら面倒だし、もう今から剣士くんも呼んで、皆殺しにしちゃう?」
……だが、その時だった。
まず、カタカタという音がこの場に鳴り響いた。
その音がどんどん大きくなり、次第に地面が揺れ動くのも感じる。
「おっと、コイツぁ……」
「じ、地震です! グラウンド・ゼロが私たちを捕捉したようです!」
「チッ、グラウンド・ゼロメ……我々モココニイルトイウノニ、巻キ込ムツモリカ!」
やがて地震は、大地が鳴動するかのような大きなものになり始めた。マグニチュードにして、およそ五か六といったところか。かなり大きな地震だ。
「やっべー! 戦ってる場合じゃねーなこりゃ!」
「そ、総員退避! ビルの倒壊に巻き込まれないよう注意してください!」
「我々モ、コノ場ハ退却スルゾ。興ガ冷メタ」
「りょーかーい。命拾いしたねー若者たち」
将軍型のレッドラムは次元の裂け目を開き、その中へ入ってこの場を離脱。スピカ型も自前の”瞬間移動”で姿を消した。
日向たちは、地震の強い揺れにより、その場から動けなかった。バランスが取れずに立てないというよりは、大きな地震に対する恐怖心で足がすくんでしまっているといったところか。
日向は地震の揺れに耐えながら、状況を確認する。
「ここは周囲のビルから少し距離があるから、ビルが倒壊しても俺たちは安全だろう……。けど、ビルの中にはアメリカのマモノ討伐チームの人たちがいるみたいだ。このまま地震が続くと彼らが危ない……」
しかし、さすがに地震をどうにかする術など日向たちは持たない。このまま、アメリカチームの兵士たちが無事に退避完了してくれるのを祈るしかないようだ。
……そう思ったのだが。
「つまり、この地震を止めれば良いのですね?」
エヴァがそう言って、祈りを捧げるようなポーズを少し見せた後、地面を杖の先端でコツンと叩いた。
その際、蒼い衝撃が大地を奔った。
それと同時に、この場を揺らしていた地震は止まった。
「と、止まった……? エヴァ、お前がやったのか?」
「はい。今の地震は『星の力』を使って引き起こされた、自然ならざる地震でした。ここら一帯だけをピンポイントに狙った地震です。なので、その地震を引き起こす『星の力』を、私の『星の力』で断ち切り、キャンセルしたのです」
「原理はともかく、地震を止めるってすごいな……」
ともかく、この場の地震は収まった。
周囲のビルや瓦礫からアメリカのマモノ討伐チームと思われる人々が姿を現す。
その中には、ジャックとレイカの二人と同じく「ARMOURED」のメンバーで、日向たちもよく知っている人物、コーネリアスとマードックの姿もあった。
「久しいナ、お前達。カイン達ガ見つけた乗り物ニ乗っていたのハ、やはリお前達だったカ」
「予知夢の五人、やはりここまでやって来たか。ようこそアメリカへ」
「コーネリアス少尉! マードック大尉も! お久しぶりです! おかげで助かりました!」
「なに、我々なりの歓迎のセレモニーだ。遠慮せず受け取ってくれ。本来ならこのままニューヨークの観光ガイドでもしてやりたいところだが、あいにくこの通り、今この場所は『ニューヨークだった街』に成り果ててしまっている」
マードックの言う通り、この街の被害は壊滅的だ。街を埋めるように建てられていたであろう高層ビルは、およそ半分以上が倒壊して瓦礫の山になってしまっている。
「ここにもレッドラムや『星殺し』が……?」
「そうだ。その単語が出てくるあたり、お前たちもこの星で何が起こっているのか、詳しく知っているようだな」
「ええまぁ、それはもう詳しく」
「なるほど。見たところ、そちらにも新顔のメンバーがいるようだな。その黄金の乗り物についても詳しく知りたい。お互いの情報を交換するべく、一度ゆっくり話ができる場所に移動しよう」
「そうですね、そうしましょう。どこかにアメリカのマモノ討伐チームの拠点か何かはあるんですか?」
「ああ、ある。この近くの湾岸に空母を停泊させてある。今の我々の拠点はそこだ」
「それじゃあ、俺たちはあの飛空艇で移動します。念のため、こっちにガイド役を一人つけてくれるとありがたいのですが」
「それならジャックとレイカを付けよう。二人とも長らく、二人以外の歳の近い人間と話していなかった。友人として、色々と近況などを語り合ってあげてくれ」
「分かりました」
これにて日向とマードックの話はいったんまとまる。
その一方で、日向の他の仲間たちは、ジャックとレイカの二人に声をかけていた。
「やっぱり生きてやがったなジャック。流石だぜ」
「よーうヒカゲ、久しぶりだな! ところでオマエ、一人で勝手に『幻の大地』に向かったって聞いてたが、どういうつもりだったんだ?」
「ああ、オレはもうそれくらいご無沙汰なのか、お前らとは」
「沖縄で戦って以来ですものね、本当にお久しぶりです日影さん。北園さんもお久しぶりです。怪我をされているようですが、大丈夫ですか?」
「お久しぶりですレイカさん! ケガはだいじょうぶ! エヴァちゃんが治してくれました!」
「そうでしたか、安心しました。ところでそちらの銀髪の子は……」
「エヴァ・アンダーソンです」
「エヴァ・アンダーソン……はて、どこかで聞いたような名前ですね。どちら様でしたっけ……」
首をかしげるレイカに、北園が少し気まずそうに説明。
「ええと、あの、ほら、マモノ災害を引き起こした……」
「ああ、思い出しました! ……えっと、なんでそんな子が、あなたたちと普通に行動を共にしているのでしょうか……?」
「それはまぁ、色々あってねー」
まぁそういう反応になるよね。
そんな様子で、北園は苦笑いしていた。
日向と話を終えて移動を開始していたマードックとコーネリアスは、彼らの話し声を背中越しに聞きながら、穏やかな微笑みを浮かべていた。
「ふっ、特に私が指示せずとも、さっそく語り合っていたか」
「彼らハ歳が近イ以前に、戦友ダ。互いの無事ヲ喜び、語り合うのハ自然な事だろウ。立場が同じなラ、俺やお前でモそうしただろうヨ」
「かもしれんな」