第1301話 手も足も出させない
日向たちが外で戦う一方で、飛空艇の中にいるミオンもまた、二体のクロー型のレッドラムと戦っていた。
このクロー型のレッドラムは、コックピット内にいきなり次元に裂け目が開いたかと思うと、その中から飛び出してきた。オネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちを狙おうとしたので、ミオンが子供たちを守るために戦闘を行なっている。
しかし、さすがはミオンといったところか。すでにもう戦闘は終わり、二体のクロー型は血だまりに成り果てていた。やはり彼女の相手には、通常個体が二体程度では話にならない。
「みんな、大丈夫だったかしら?」
ミオンが子供たちに声をかける。
子供たちは、突然のレッドラムの襲撃に怯えている様子だったが、多くの子供たちは努めて元気にうなずいた。
「そう、よかったわ!」
子供たちの返事を受けて、ミオンも明るい声を出す。怯えている子供たちを元気づけるように。
しかしその一方で、ミオンはモニターに映っている日向たちに、心配そうな眼差しも向けていた。
「あの子たちは……劣勢みたいね……。今すぐ手伝いに行ってあげたいけれど、この飛空艇内部にも襲撃があった以上、子供たちを守るために、私がここを離れるわけにはいかないわ」
これは恐らく、レッドラムからの威嚇攻撃だ。
自分たちは、この飛空艇に直接乗り込む手段がある。
その『手段』を見せつけて、ミオンをこの飛空艇内に縛り付けるための襲撃。
もうこれ以上、この飛空艇にレッドラムを送り込むつもりが無いとしても、ミオンは子供たちを守るために、この飛空艇に留まらざるを得ない。
「最低限の戦力の消費で、敵は私をこの飛空艇に縛り付けることができる。残った戦力は、全てあの子たちの始末に回せる。小癪なことを考えるじゃないの。良くない流れになってきたわね……!」
◆ ◆ ◆
一方、こちらは日向たち七人の様子。
スピカが言うには、ここの通常個体のレッドラムたちが今までのレッドラムよりずっと強いのは、将軍型のレッドラムが”精神感応”を使って、他の個体たちに指示を出しているからだという。
「たぶんこれは、一体ずつ指示を出してるんじゃなくて、全ての個体に対して同時に、それぞれの役割に適した指示を出してるんじゃないかなー! それくらいはしないと、いくら口で指示するより速いと言っても、この連携の良さは説明がつかないもんー!」
「できるのかよ、そんなこと。もしもオレが同じことをやれって言われたら、五秒で頭がパンクしそうだぜ……!」
すると、将軍型のレッドラムの左右で、二つの次元の裂け目が開く。そこから追加のレッドラムが飛び出してきた。
「SHAAAAAA!!」
「GIGIGI!! GIGIGI!!」
「クソッ、増援だ! あの将軍型を潰さねぇとジリ貧だぞ!」
しかし将軍型は、日影たちから離れた場所に立っている。攻撃を仕掛けるには遠距離攻撃しかないが、遠距離攻撃が得意な北園、本堂、それからエヴァの三人は、また別のレッドラムと交戦中だ。将軍型の狙撃どころではない。
「ボクがやるよ! 空の練気法”天界”ッ!」
そう言って、シャオランから蒼白いオーラが広がる。今のシャオランなら、空の練気法”無間”を使うことで、このオーラの中にいる敵はどこにいようと拳打を喰らわせることができる。
将軍型は、その場から動かずにジッとしている。
シャオランから広がった蒼白いオーラが、将軍型を捉えた。
その瞬間、シャオランがその場で踏み込み、拳を突き出す。
「今だ! 喰らえぇぇ!!」
……しかし、シャオランは攻撃を繰り出すことはできなかった。
シャオランは、拳を突き出す直前の体勢のまま、その場で固まってしまっている。シャオラン自身も何が起こっているか分からない様子で、動こうにも動けない状態のようだ。
「な……!? う、動けない……なんで……!」
「ざんねーん、ワタシの仕業でーす」
小馬鹿にした風に、スピカ型のレッドラムがそう言った。
シャオランに人差し指を向け、”念動力”を行使しているようだ。
「範囲内なら敵がどこにいても殴れる、回避不可能の打撃……とは言っても、そもそも攻撃できなくしちゃえば無問題だよねー?」
そう言ってスピカ型のレッドラムは、人差し指の先をひょい、と上へ向けた。それに合わせて、シャオランが空高く浮かばされる。
「わ、わ……!?」
「ヒモ無しバンジージャンプは好きかい、少年ー?」
スピカ型がひょい、と人差し指の先を振り下ろした。
すると、シャオランも地面へ真っ逆さま。
「ち、地の練気法”大金剛”ッ!!」
速度がついた状態で、シャオランは地面に叩きつけられた。
アスファルトの道路が陥没するほどの衝撃。
まず普通の人間なら助からないであろう威力だったが、シャオランは事前に全身を練気で硬化させ、防御力を高めておいたことで耐えていた。
だが、シャオランはまだスピカ型の”念動力”から解放されていない。スピカ型が指を動かすと、シャオランは強制的に立ち上がらせられる。
「いやー頑丈だねー! キミ本当に人間ー? どうお客さん、もう一回バンジー行っちゃう?」
「させんぞ……!」
そう言って、本堂がスピカ型に右腕の刃で斬りかかった。
シャオランを助けるため、レッドラムの軍勢を突破してきたようだ。
しかしスピカ型は本堂の心を読み、難なく本堂の斬撃を回避。続いて本堂が放つ凄まじい速度の連続攻撃もまた、あっさりと全て回避してしまう。
「すごいスピードだねー。でも無駄だよー。単純な速さのゴリ押しじゃ、ワタシに攻撃を当てることはできない」
「おのれ……! 心を読まれているとはいえ、この速度にも対応するか……! 」
するとスピカ型が右足に”風の気質”を纏わせ、本堂に回し蹴りを仕掛けた。
「風の練気法”鎌風”っ!」
「く……!」
本堂の心を読み、彼の意識から防御の気持ちがほとんど消えた瞬間を狙った一撃だった。流石の本堂も反応が遅れ、回避は間に合わず、左腕でガード。
スピカの蹴りを受けた本堂は、後ろへと押し下げられ、左腕からも大きく出血。
骨まで硬質化した本堂だから、その程度で済んだのだ。普通の人間なら腕だけでなく胴体まで真っ二つだったかもしれない。
「身体能力は、本物のスピカさんより高そうだな……」
本堂がスピカ型と交戦する一方で、こちらは日影の様子。
彼は群がるレッドラムたちを斬り伏せていたが、とうとうしびれを切らして将軍型へ突撃。
「ああクソ! 次々と増援を送り込みやがって、キリがねぇ! 消し飛ばしてやる!」
「あ、おい待て日影! 敵の頭がこんな最前線に出てきてるのに、何も対策してないわけがないだろ!?」
日向がそう言って日影を制止しようとするが、日影は聞かない。
将軍型に向かって走りながら、日向たちから距離を取る。
そして日向たちを巻き込まない位置まで来たら”オーバーヒート”を発動。まるで至近距離で放たれたミサイルのように、一気に将軍型へ接近。
「再生の炎……”落陽鉄槌”ッ!!」
……だが、その瞬間、将軍型は自分の目の前に次元の裂け目を開いた。
「ソノ攻撃ヲ待ッテイタゾ」
「なッ……!?」
もはや急には止まれない。
日影は、その次元の裂け目の中に飛び込んでしまう。
そして日影が現れたのは、なんと日向たちの頭上だった。
「え……!?」
「うわ、ヒカゲ!?」
「や、やべぇッ!?」
そして、日影が”落陽鉄槌”の勢いのまま地面に激突。
大爆炎が巻き起こる。
日向たちもまた、日影が引き起こした大爆炎に巻き込まれてしまった。