第1300話 将軍型のレッドラム
スピカ型のレッドラムを攻撃しようとした本堂だが、いきなり現れた二体目の目付きのレッドラム……将軍型のレッドラムに妨害されてしまった。
この将軍型のレッドラムは、どうやら次元の裂け目を開く能力を持っているようだ。日向たちは『幻の大地』に行くためにこの能力が必要なので、各地の『星殺し』を倒してエヴァに『星の力』を回収させている。
極めて高位の能力を使用できるレッドラム。
恐らくは、レッドラムの中でもかなりの上位個体なのだと思われる。
将軍型のレッドラムは、目の前の本堂に警戒の目線を向けながら、スピカ型のレッドラムに声をかけた。
「油断ガ過ギルゾ。確カニオ前ノ能力ハ強力ダガ、ソノ抜ケタ性格ハドウニカナラナイモノナノカ」
「ごめんねー、こればっかりは設定だからさー。キミがここに来てるってことは、剣士くんも?」
「奴ハ別行動ダ。ソノ辺デ好キ勝手ニ暴レテイルダロウ」
やり取りを交わす将軍型とスピカ型。
一方、後方の日向たちも、本堂のもとに駆け寄ってきた。
「本堂さん! 吹っ飛ばされてましたけど、大丈夫でしたか!?」
「ああ、大したダメージではない。それよりも、注意しろ。二体目の『目付き』だ」
「スピカさん型だけでも厄介なのに、二体目ですか……!」
改めて対峙する日向たちと、二体の目付きのレッドラム。
将軍型のレッドラムが声を発した。
「予知夢ノ六人カ。大陸ヲ横断シテ、ココマデ遥々ゴ苦労ナ事ダ。ソロソロ、コノアタリデ死ンデオケ」
そう言って、将軍型が右手を挙げた。
すると、将軍型の周囲に六つの次元の裂け目が開く。
その次元の裂け目から、レッドラムたちが飛び出してきた。目は付いていない通常個体だ。数はざっと十体以上。種類は刃型、クロー型、ライフル型、大盾型の四種類で構成されている。
「KIEEEEEE!!」
「SHAAAAAAA!!」
「雑魚どもを召喚してきやがった!」
「二体の目付きのレッドラムを警戒しながら、片付けるぞ!」
日向たちもそれぞれ構え、応戦体勢。
まずは刃型が駆け寄って来て、剣状の右腕で日向に斬りかかってきた。
「SHAAAA!!」
大振りの片刃の剣となっている右腕が、日向に襲い掛かる。
日向はその動きをよく見て、刃型の斬撃を回避しながら胴体を斬りつけようとした。
しかし刃型は、日向に斬りかかる寸前で引き下がった。
おかげで日向も出鼻を挫かれる形となり、動きが止まる。
「な、なんだ? いきなり下がった?」
「ヒューガ! ライフル型が狙ってる!」
シャオランが叫んだ。彼の言う通り、いつの間にか日向の視界から外れるように左へ移動していたライフル型が、日向に向かって右腕のライフルからビームを発射してきたのだ。
「KIEE!!」
「うわっ!? あぶなっ!?」
慌ててビームを回避する日向。
その日向に、先ほど最初に攻撃を仕掛けてきた刃型が再び斬りかかってくる。
「SHAAAAA!!」
「こ、このっ!」
開幕から相手にペースを握られ、日向は非常に戦いにくそうだ。
他のライフル型も日向たちを囲むように展開し、四方からビームを射撃。これに邪魔されて、日向の仲間たちもまた思うように動けない。
本堂は二体の刃型のレッドラムと交戦しながら、北園とエヴァに声をかけた。
「ライフル型が厄介だ。北園、エヴァ、お前達の能力で連中を狙い撃ち出来るか?」
「やってみます!」
「引き受けました……!」
本堂の指示を受けて、北園とエヴァがそれぞれ電撃と火炎を撃ち出し、ライフル型を攻撃。二人の大火力は、ライフル型のビームを呑み込みながら飛んでいく。
だが、二人の電撃と火炎は、ライフル型たちに命中しなかった。
ライフル型たちの前には大盾型のレッドラムが立ちはだかっており、二人の攻撃を盾のバリアーで防御してしまったからだ。
「FUSHUUUUUU……!」
「ああもう! 邪魔された!」
「それなら、これでどうですか!」
そう言って、エヴァが空に杖の先端を向けた。
それと同時に、空からゴロゴロという雷音。
恐らく、ライフル型たちに落雷攻撃を仕掛けるつもりだ。
「撃ち抜け……”ゼウスの――」
……と、エヴァが詠唱していた、その時。
エヴァの背後からクロー型が接近し、右爪を一閃。
「SHAAAA!!」
「くっ!? 危ない……!」
間一髪でクロー型の気配を察知し、エヴァは杖で爪を防御。エヴァがここまで敵の接近を許すとは、恐らくこのクロー型は気配を消す能力の使い手なのだろう。
どうにかクロー型の暗殺を凌いだエヴァだが、先ほど攻撃しようとしていたライフル型に背を向けてしまう形に。
そして背中を見せたエヴァを、ライフル型が後ろから撃ち抜いた。
「SHAAA!!」
「あうっ……!?」
「エヴァちゃん!? だいじょうぶ!?」
エヴァの悲鳴に、北園が気を取られた。
その瞬間、また別のクロー型が北園に接近。
「SHAAAAA!!」
「あ、しまっ……きゃあ!?」
クロー型が爪を振り抜き、北園が切り裂かれてしまった。
ダメージは大きいようだ。腹部から、かなりの出血が見られる。
北園がダメージを回復させる前に、クロー型はトドメを刺しにかかった。北園に赤く鋭い爪が迫る。
「KIEEEEEEE!!」
……しかし、その横から日影が接近。
燃え盛る『太陽の牙』で、クロー型の首を斬り飛ばした。
「おるぁぁッ!!」
「GYAAA!?」
なんとか、クロー型が北園に攻撃を仕掛ける前に、クロー型を仕留めることに成功した日影。
だが、その日影の背後から刃型が飛び掛かって、日影を狙って右腕の刃を振りかぶる。まるで、先ほど始末されたクロー型と事前に打ち合わせでもしていたかのように、鮮やかに日影の不意を突いてきた。
「KUAAAAAA!!」
日影の脳天めがけて振り下ろされる、大振りの刃。
まだ日影は、刃型の方へ振り返ってもいない。
しかし鳴り響いたのは、日影の肉を斬る音ではなく、金属音だった。
日影は『太陽の牙』を横向きにして頭上で構え、刃型の斬撃を受け止めていたのだ。彼は、きっと他の個体が背中を狙ってくるのではないかと思い、敵の接近に反応するより先に身体が動いたようだ。
「あっぶねぇ! やっぱり狙ってやがったか!」
「ヒカゲ!」
シャオランが日影を援護するために、刃型に接近。
震脚と共に右拳を突き出し、刃型を一撃で粉砕した。
「ありがとよシャオラン。しかしこのレッドラムども、なんか、やたらと動きが良いぞ。オレの気のせいじゃねぇよな? 連携が取れているっつうか」
「うん、間違いないよ。こいつら、今までのレッドラムより強い」
二人の言う通りだ。スペインでは三百体ほどのレッドラムの軍勢にも快勝を収めたこの六人が、今はたったニ十体足らずの通常個体のレッドラムに押されている。
するとここで、スピカが声を上げた。
敵のスピカ型のレッドラムではなく、日向たちの味方の、幽霊のスピカである。
「将軍型のレッドラムが念波を発してるのが見える……。たぶんレッドラムたちの動きが良いのは、あの将軍型が”精神感応”を使って指示を出してるからだと思う!」
「あの野郎、そういうカラクリか!」
スピカの言葉を受けて、日影は鋭い目つきで将軍型のレッドラムを見た。
日影の視線を受けた将軍型は、口は無く、目元もあまり動かなかったが、どこか日影のことを鼻で笑ったように見えた。