第1298話 赤色の女性
「やばい! ユピテルが墜とされた!」
日向が顔色を青くして叫ぶ。
敵の姿が見えないほどの超遠距離から攻撃を受けている日向たちの飛空艇。その飛空艇と並んで飛行していたユピテルに、砲弾が直撃してしまった。ユピテルは黒煙を上げて地面に落下してしまう。
「急いで助けに行かないと! ミオンさん高度下げて!」
「分かったわ! しっかり掴まっててちょうだい!」
ユピテルを助けるために、飛空艇は着陸する。外に出るメンバーは日向、北園、本堂、シャオラン、日影、エヴァ、スピカの七人。
日向たちは急いで飛空艇の中から出てきて、ユピテルのもとに駆け寄った。
「ユピテル、大丈夫か!?」
「クァァ……」
ユピテルは日向の声に返事をしたが、その返事は弱々しい。
先ほどの砲撃はかなり効いてしまっているようだ。
「ひどい怪我だ……。でも、急いで治せば、まだ間に合う。北園さん、ユピテルの怪我の回復を!」
「りょーかい! 任せて!」
日向の指示を受けて、北園がユピテルの怪我の回復に取り掛かる。他のメンバーは周囲の警戒を担当。超遠距離からとはいえ、攻撃を受けた以上、敵にこちらの位置は捕捉されている。増援が送り込まれてくる可能性は極めて高い。
次に日向は、エヴァに声をかけた。
「エヴァ、こっちを砲撃してきた敵の位置は特定できたか?」
「捜索中です……少しお待ちを。これは”気配遮断”でも使っているのでしょうか、なかなか敵の位置が掴めません……」
目を閉じて能力を行使しながら、エヴァは日向の問いかけに答えた。この様子だと、敵の位置の特定にはまだ時間がかかりそうだ。
しかしその時、エヴァがハッとした表情を見せた。
何かを見つけたようだが、予想外のものを見つけた、といった様子だ。
「これは……!?」
「どうしたエヴァ? 砲撃してきた敵の位置が分かったのか?」
「そっちではありませんが、敵です! 新手です! いつの間にか、私たちの後ろの高い位置に! さっきまで、そこには何の気配も無かったはずなのに……!」
「なんだって……!?」
エヴァの返事を受けて、慌てて日向たちは後方を見てみる。少し背が高いビルの屋上に、確かにレッドラムらしき人影があった。
しかしあの人影は、全体的に赤いものの、顔などは肌色で普通の人間のようにも見える。レッドラムには見えない。腰まで届きそうな真っ赤なロングヘアーをしているあたり、女性だろうか。
「あれは……普通の人間に見えるけど……」
「しかし、感じる気配は間違いなくレッドラムのそれです……!」
「そういえば、ロシアで戦ったゴスロリ型も、見た目はあまり人間と変わらなかったな。そういうタイプのレッドラムなのかな」
その時、そのレッドラムと思われる女性が立っているビルの上端が、突如として崩壊した。何か攻撃を受けたような様子はまったく無く、ただいきなり自壊した。
「な、なんだ……!?」
ビルの屋上に立っていた女性は、ビル屋上の崩壊に巻き込まれて落下した……かと思われたが、女性は落ちていなかった。
女性はビルから落ちず、そのまま空中に留まっていたのだ。空中浮遊している。そして崩壊したビルの瓦礫もまた、女性の周囲に浮かんでいる。
「”念動力”だ! やっぱりあいつ、攻撃を仕掛けてくるつもりだよー!」
スピカが声を上げた。
それと同時に、空中に浮かぶ女性が右手を振り下ろす。
女性の周囲に浮かんでいた瓦礫が、日向たちに向かって一斉に降り注いできた。
『させないわ! ミサイル発射!』
ミオンがコントロールパネルを操作し、飛空艇の左側面からエネルギー弾を撃ち出す。
ここは市街のど真ん中だが、多くの建物が崩壊していることが幸いした。ミサイルは周囲のビルなどに接触することなく射出され、飛んでくる瓦礫を迎え撃つ。
多くの瓦礫はミサイルによって撃ち落とされたが、二つほどの瓦礫はミサイルをくぐり抜けてきた。一軒家ほどもあるサイズの瓦礫である。
『あちゃ~……全部撃墜とはいかなかったわね……! 悪いけど残りはそっちでお願いね!』
「お任せを。これだけ減らしてくれれば十分です。……やぁっ!」
エヴァが杖の先端から雷を発射。
強烈な電流が、飛んできた二つの瓦礫を粉砕した。
やはりあの赤い女性は、日向たちに対して敵意がある存在のようだ。エヴァも言っていた通り、やはりレッドラムなのだろう。日向たちは警戒心を最大に引き上げる。
それから日向は、飛空艇の中のミオンに声をかけた。
「ミオンさんは飛空艇の中に残っていてください! 敵は一人だけとは限らない。どこかに伏兵が潜んでて、この飛空艇に侵入してくる可能性もありますからね!」
『侵入してきたレッドラムが子供たちを人質にでも取ってしまったら、それでゲームオーバーですものね。分かったわ、気を付けるのよ!』
日向の声を受けて、ミオンもアナウンス越しにそう返事をする。
それから今度は、この場にいるスピカが皆に声をかけた。
「それなりに休めただろうとはいえ、キミたちもドゥームズデイとの戦闘からの連戦だ。北園ちゃんなんて起き抜けだしね。無理はしちゃダメだよー! いざという時は、ユピテルを確保次第、即撤退も視野に入れる方向でねー!」
「分かりました!」
「承りました」
「わかったよ!」
そう言って、スピカに返事をした日向と本堂、それからシャオラン。
名前を出された北園も、黙ってうなずいた。
その時、日向はふと思う。
(今の場面、北園さんなら『りょーかいです!』って返事をしそうだったけど、そうしなかったな……。さっき様子がおかしかったのと関係している?)
先ほどは、北園が日向に何かを話そうともしていた。この戦闘が無事に片付いたら、しっかりと北園から話を聞こう、と日向は思った。
するとここで、先ほど飛空艇に瓦礫を飛ばしてきた女性が空中から降りてきた。超能力を使って、ふわりと。
その女性の姿を見て、日向たちは驚愕する。
「え……この人は……」
「おいおい、どうなってやがるコイツは……?」
その女性の身体は、真っ赤なコートを着ているような形状。コートの下の上着やズボンも、本来なら肌色であろう両手も首元も、腰まで届きそうなロングヘアーも、全てが赤色だ。肌色なのは顔だけである。
そして、その女性の顔に、日向たちは非常に見覚えがあった。
見覚えがあったというより、今も普通に見ていると言ってもいい。
「す……スピカさん……?」
日向が、問いかけるようにつぶやいた。
この人間の女性の姿をしたレッドラムは、スピカと瓜二つなのだ。
日向たちと一緒にいるスピカと、このレッドラムのスピカ、顔は瓜二つだが、決定的に違う部分が一か所ある。
それは、眼。
本物のスピカの眼は明るめの水色だが、このレッドラムは金の瞳に赤色の眼孔を持つ。つまり、目付きのレッドラムだ。