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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第22章 その艇は嵐を往く
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第1292話 半生の記憶

 引き続き、狭山の記憶を見る日向。


 アーリア遊星でのゼス王子とレオネ祭祀長のやり取りを見終わり、次に映し出された光景は地球のどこかの古代都市らしき風景。


 周辺環境は砂場が多い……というより、砂漠のど真ん中に建てられた国、といった印象である。古代エジプト文明あたりの光景かもしれない。


(さっきの映像と比べて時代も場所もだいぶ変わったな。さて、ここでは何を見せてくれるのか。エジプトと狭山さんって、何の関係性があるのか全然想像がつかないけど……)


 その時、日向の近くを人間の集団が通りかかった。なにやら石材を運んでいる、お世辞にも綺麗な格好とは言い難い服装に身を包んだ人々だ。察するに、資材運びの労働を命じられた奴隷といったところだろうか。


(お疲れさまです)


 そんな視線を少し向けて、奴隷の一団に別れを告げる日向。


 だが、日向は思わず、その奴隷の集団を二度見した。

 なぜなら、その集団の中に狭山らしき人物が混じっているのだ。


(ほぁ!? 狭山さんいる!?)


 確認のため、その狭山らしき人物を改めて観察する日向。


 注意深く観察した結果、やはりその人物は間違いなく狭山だ。他の奴隷たちと同じく布一枚を身体に巻きつけたような薄着で、余裕の表情を浮かべながら石材を肩に乗せて運んでいる。


(どういう状況なんだこれは……。とりあえず、まず第一に、奴隷の格好した狭山さんとか面白すぎるだろ。新鮮すぎて笑う。そしてもうちょっとよく見たら、やっぱり狭山さんガタイ良いわ。普段はあの白黒コートで巧妙に隠してるけど細マッチョの完成系みたいな肉体(カラダ)してるわ。さすが何の能力も使わずに日影を素手でボコっただけあるわ)


 すると、仲間の奴隷らしき人物が、狭山に声をかけた。


「コルナン、随分と余裕そうだな……。俺はもうヘトヘトだよ……」


「いやいや、これでもけっこう疲れてるよ自分も。けど、まぁ、楽しいんだこれが」


「楽しい? お前正気か? こんなキツイ仕事のどこを楽しめる?」


「自分が生まれ育った場所には、こんなふうに石材を用いて建築を行なう文化は無かったからねぇ。知らない文明に(じか)に触れて、その身で学ぶのは楽しいことなのさ」


「はぁ、お偉い学者さんみたいなこと言うなお前。しかしまぁ、ここ以外の国か……。少し興味あるな。お前はどこからやって来た移民なんだ? その肌の色だと、東の方か?」


「東……どうかな。もっと、方角とか関係なくなるくらい、遠い場所かもしれないね」


「なんだそりゃ。まぁともかく、いつか見てみてぇな、ここ以外の世界を」


「見れると、いいね」


 そこで二人の会話は終わった。

 その直後、日向の視界が再び灰色の光に包まれる。

 どうやらまた場面転換のようだ。


 次に映し出されたのは、中世くらいの中華圏の文化を感じさせる平野。そこには多くの兵士たちが武装して並んでいた。戦争でもしているのだろうか。


 兵士の集団の中に、また狭山の姿があった。

 軽装の中華甲冑と長槍を装備している。


 まもなく戦が始まるのであろう物々しい雰囲気。そんな中で、狭山は長槍を左手と左肩で担ぎながら、のん気に本を読んでいた。


 これには周囲の兵士たちも呆れていた。


「お前、正気か……」


「いつ敵が攻めてくるかも分からないっていうのに、のんびり本を読んでる奴があるかよ……」


「まぁ、そうは言っても、ここは最前線じゃないしねぇ。敵が来たら騒がしくなるだろうから、すぐに気づけるはずだよ。もちろん、いざ始まったらしっかり働くから、そこは安心してくれていい」


「まぁ、お前の腕前は知ってるから、そこは信頼してるけどよ」


「ところで何読んでるんだ? ……仏教の経典の写し? お前、仏教徒だったのか?」


「教徒というわけではないけれどね、お釈迦様の説法については色々とタメになるところがあると思ってる。勉強がてら読んでるんだ」


「なんつうか、真面目だなぁ……」


「馬鹿言えよお前、真面目な奴が戦場で本なんか読んでるかよ」


「違いない」


 そう言って肩をすくめる、二人の兵士。


 日向の存在は相変わらず誰からも認識されていないので、日向はおもむろに狭山の隣まで歩み寄り、彼が読んでいる本を横からのぞき見した。


 本の中身は、当たり前だが全て中国語表記である。

 しかし、今の日向はなんとなく、書いてあることが理解できた。

 普段の日向は中国語などほとんど分からないのだが。


(これも、狭山さんの記憶を参照している影響かな)


 狭山が読んでいる本をのぞき見した日向は、そこに見覚えのある言葉が書かれているのを見つけた。それは「因果応報」。狭山がよく口にしていた言葉である。


 すると狭山が、その言葉を見ながら小さくつぶやいた。


「因果応報。この言葉はシンプルで好きだ。良い因を(こと)を残せば、良い(こと)が返ってくる。悪い因を(こと)を残せば、悪い(こと)が返ってくる。この星が自分たちに与えた仕打ちのことを考えれば、この星にも悪い(こと)が返ってきて(しか)るべきだよね」


 その言葉を聞いて、日向は思わず息を呑んだ。今まで狭山がスローガンのようにたびたび口にしていたその言葉は、どうやら狭山自身がこの星を滅ぼすことを正当化するために使っていたらしい。


(てっきり『悪いことをしたら悪いことが返ってくるのだから、悪いことはするべきじゃない』って、狭山さんが優しい所以(ゆえん)として使っていたと思ったのだけれど……騙された)


 その時、前線が騒がしくなり始めた。

 どうやら狭山が所属する軍隊が、敵の軍隊と交戦を開始したらしい。


「おっと、始まってしまったか」


「みたいだな。シェン、読書時間は終わりだ。働くぞ」


「うん。それじゃあ皆、また生きて会おう」


 そう言うと狭山は、敵軍に向かってまっすぐ走り始めた。凄まじい走行速度だ。油断していた日向はあっという間に置いていかれる。


(ちょ、ちょ、待って……)


 急いで狭山の後を追いかける日向。

 狭山は既に敵部隊と交戦しており、見事な槍さばきで敵兵を負傷させていく。


「ぐぁ!?」


「なんだこいつ、将兵でもないくせに強い……!」


「逃げるならば追いかけはしない! 命が惜しければ退くがいい!」


 敵兵たちに向かってそう声をかけながら、狭山は槍を振り回す。その言葉の通り、今のところ狭山の攻撃で命を落とした敵兵はほとんどいないようだ。敵兵たちは狭山の言葉に従って逃げるか、狭山を避けて他の兵士を狙おうとしている。


 無駄な殺生はしない戦い方だ。

 そんな狭山の戦い方を見て、日向は不思議に思った。


(この頃からすでに狭山さんは、この星に復讐する気満々の危険人物だ。それなのに、できるだけ殺しは避けようとするこの姿勢……。もっとレッドラムみたいに『人間は殺せるだけ殺す』みたいなスタンスかと思ったけど、実際はその真逆だ……)


 以前に見た狭山の記憶でも感じた、この違和感。

 まるで狭山の中に、善の狭山と悪の狭山、二人が同居しているような。


 また日向の視界が灰色の光に包まれる。

 戦はまだ終わっていないが、場面転換の時間のようだ。

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