表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第22章 その艇は嵐を往く
1323/1700

第1291話 根幹の記憶

 これで五回目となる、狭山の記憶の映像。


 まず映し出されたのは、どこか無機質さを感じさせる建造物の中。宇宙線の中にいるような、灰がかった白色の壁や天井。日向にとってはまったく馴染みのない風景だ。


 日向にとって馴染みはないが、どことなくこの光景には見覚えがあった。良く思い返すと、ここは初めて狭山の記憶を見た時の場所……アーリア遊星の王城の雰囲気を感じる。


(ここのどこかに、狭山さんが?)


 すると、日向の前方の廊下の向こう側から、誰かが歩いてきた。毛先が床につきそうなほどに長い銀のロングヘアー。身長は日向より少しだけ高く、目のやり場に困るような露出度の高い装束を着ている。


(この人はたしか、レオネさんだっけ。アーリアの祭祀長で、エヴァと同じく『星の意思』を聞くことができる人。アーリア遊星が滅ぶ時、遊星に残って、遊星と運命を共にした人……)


 日向の近くまでやってきたレオネは、日向のことはスルーして、そのまま通り過ぎていった。日向のことを意図的に無視したのではなく、日向の存在にまったく気づいていないようだ。


(狭山さんの記憶の中だと、登場人物は『外部の人間』である俺の存在は認知できない。いつものことだな)


 日向は、この場を去ろうとしているレオネの後を追いかけることにした。元よりそうするつもりだったが、何か不思議な力が日向にレオネを追いかけさせているような強制力も感じていた。


(今回の記憶が俺に見せたいものが、このレオネさんについて行った先にあるってことなのかな。それはそれとして、いつ見てもすごい露出度だなこの人……。お腹とかわき腹は剥き出しになってるし、スカートには四か所もスリットが入ってるし、胸元も危ういし……)


 レオネが日向を認識しないのを良いことに、放っておけばいつまでも見とれていそうな日向。しかし流石に良心が呵責を訴えてきたので、ほどほどで止めることにした。


 やがてレオネが辿り着いたのは、何かの部屋の扉の前。

 そのドアの前にレオネが立つと、扉が自動で開いた。


 扉の向こう、部屋の中にはゼス王子がいた。幼い頃の狭山誠である。


 ゼス王子は、タブレット端末のような機械を両手に持って、その画面を覗き込んでいた。なにやら文字のような模様がびっしりと並んでいる。恐らくはアーリアの民の言語だ。


 アーリアの言語など日向には分かるはずがないのだが、なぜか今の日向には理解できていた。


(たぶん、これが狭山さんの記憶だからだろうな。狭山さんの記憶ということは、アーリアの民の言語についての知識もこの中にあるということ。狭山さんの中の言語知識を、俺も共有させてもらっているんだ。それで……いまゼス王子が読んでいるのは、このアーリア遊星の歴史みたいだな)


 日向がそう考えていると、レオネがゼス王子に声をかけた。


「王子様、またお勉強ですか。精が出ますね」


「あ、レオネ。うん、べんきょうだよ。ぼく、ちちうえのようなりっぱなおうさまになりたいからさ」


「立派な心掛けですが……たまには外で遊ぶのも良いものですよ。率直に申し上げますが、王子様があまりにも部屋の中で勉強ばかりしているので、従者たちが『王子さまが引きこもりになりそう』と心配しております」


「でも……ぼくはあそんでるじかんなんてないよ。すこしでもがんばって、ちちうえにおいつかないと。ぼくはおうじなんだから」


「王子様……」


 ゼス王子の返答を聞いて、レオネは思わず困り顔になった。


 ゼス王子の父親……アーリア遊星の王は、名君だった。


 厳粛で近寄りがたい雰囲気ではあるが、常に民のことを想い、民たちが日々を健やかに過ごせるように気にかけ、その執政にはいつも迷いがない。強力な超能力の使い手でもあり、武術の達人でもある。


 まさに、全てのアーリアの民たちにとっての畏敬の対象。

 それが、ゼス王子の父親だった。


 しかしその一方で、ゼス王子は父王と比べると、あまり高い能力は持っていなかった。


 超能力の出力はいたって平凡。

 武術の腕は並程度。

 勉学は真面目にこなすが、優れた頭脳を持っているというわけではなかった。


 偉大な父親と比べて、特別優れているわけではない息子(じぶん)

 それが、ゼス王子の悩みだった。


 そんなゼス王子に、レオネは言葉をかける。


「王子様、どうか焦らないでください。焦りは人の視界を狭め、足元をすくいます。落ち着いて、今あなたにできることをこなし、ゆっくりとお父様に追いつけば良いのです」


「うん……わかってる。それは、あたまではわかってるんだ。けど……」


「幸い、我らアーリアの民には、時間は十分過ぎるほどあります。それにお父様と王子様では、ここまでの生における経験の差は歴然です。王子様がお父様と同じくらい生きたころには、きっとお父様に追いついていますよ。このレオネが保証します」


「ほんとうに?」


「ええ。あなたのお父様も、そう(おっしゃ)っていたのですよ」


「え、ほんとうに!?」


「はい。王子様の、困っている者がいれば助けずにはいられない精神性、まだ幼いながらもひたむきに父親の背中を追いかける真面目さ、どれも良き王になるには欠かせぬ物だ、息子はまだ子供なのに、すでにそれらを備えていると」


「おとうさまが、そんなことを……」


「特に、その誰にでも分け隔てなく柔らかく接することができる人格は、つい他者に対して固く接してしまう自分には持っていない素質だ、とも言っておられました」


「そうなんだ……。うれしいな」


「これから先の生、王子様は何度も試練に直面するでしょう。今回のように、何かに対して思い悩むこともあるでしょう。ですが、どうか王子様のその美徳……優しさと誠実さは見失わないでください。あなたらしさを形作る、その二つを。巡り巡って、その美徳はきっと、あなたの助けにもなるでしょうから」


「うん、わかった。ぼくは、ぼくらしさをいつまでもたいせつにするよ」


「ありがとうございます。そのお返事を聞けて安心しました」


「それじゃあ、レオネにもいわれたから、さっそくそとにあそびにいこうかな。なにしてあそぼうかな。そうだ! きょうこそミオンヌクリフェ師匠(せんせい)のあしをひっかけて、すっころばしちゃおう!」


「……この、真面目そうに見えて実はいたずら好きなところは、いったいあのご両親のどこに似たのでしょうか。それだけは分かりませんね……」


 部屋の外へ飛び出すゼス王子の背中を眺めながら、肩をすくめてレオネはそうつぶやいた。そして、王子を追ってレオネも部屋の外へ出た。


 日向の視界が灰色の光に包まれる。

 光はすぐに治まり、周囲の様相が一変していた。


(場面転換か。キリが良いところで終わったと思ったけど、まだ続きがあるのか、この記憶)


 次に映し出されたのは、地球のどこかの古代都市らしき光景だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ