第1290話 嵐の終わりに
雷の心臓に『太陽の牙』を突き立て、日向はドゥームズデイの討伐に成功した。
「どうにか、勝てたか……」
ユピテルの背中に乗り、飛空艇へと帰還しながら、日向はつぶやいた。念のために後ろを振り返り、本当にドゥームズデイを倒せたかどうかを確認する。
ドゥームズデイは、もう影も形も無い。
間違いなく、完全に消滅した。
飛空艇へ帰りつく間、日向は今回戦ったドゥームズデイについて振り返ってみる。
ドゥームズデイは、これまで戦ってきた『星殺し』たちと比べても、抜きん出たレベルの強敵だった。街一つを消し飛ばすほどの大火力、そんな火力を持つ戦艦を複数用意できる能力、おまけに飛行スピードも速く、それゆえに神出鬼没。短時間で多くの地域を滅ぼしてしまう。
さらには僚機である異能の戦闘機を製造できる能力を持ち、本体の白兵戦能力も凄まじく高く、極めつけはあの巨大化能力。
日向は改めて、雷という能力が『火力と応用力を両立できる、非常に強力な能力』であるということを思い知らされた。
しかし、だからこそ、そんな恐るべき能力を持つドゥームズデイをここで討伐できたのは、日向たちにとって大きな希望だった。
ドゥームズデイはきっと、狭山が生み出した『星殺し』の中でも最高峰の戦力だったに違いない。そんな強敵をこの時点で討伐できたということは、残る二体の『星殺し』にも勝てる可能性が高いということだろう。
きっと勝てる。
いや、必ず勝つ。
日向はユピテルの背中の上で、改めて決意した。
それから日向は、無事に飛空艇の甲板に到着。ユピテルから降りると、同時に日影も”オーバーヒート”で空から戻ってきた。
「日影、無事だったか。お疲れ」
「ああ」
「……おーい、そこはお前も『お疲れ』って返してくれよー」
「ちッ、なんだよまったく面倒くせぇ。…………お疲れ」
「うわ、日影が素直に『お疲れ』って言ってくれた。明日は大嵐だぞ」
「おいテメェせっかく言ってやったのに何だその態度は。言っても言わなくても馬鹿にするつもりだったろテメェ」
日向の襟首を掴んで詰め寄る日影。
落ち着け話せば分かる、と日影をなだめる日向。
……と、その時、二人は甲板の真ん中にいる本堂と目が合った。
本堂はどうやら、横たえられている北園とシャオランの介抱をしているようである。シャオランは目を開けて起きているが、北園は目を閉じており、意識も無い様子である。
「二人とも、戻ったか」
「本堂さん、お疲れさまでした。それで、その、この北園さんの状態は……?」
「案ずるな、眠っているだけだ。戦闘終了後、俺やシャオランの怪我を回復させてくれて、それで精神エネルギーの限界が来たようだ。倒れるように眠ってしまった」
「そうでしたか。ひとまず無事なようで良かったです」
「戦闘後のイチャイチャがしたかっただろうが、今は休ませてやれ」
「い、いや別にそんなことしなくても大丈夫ですし」
本堂にそう言い返す日向だが、どことなく残念そうだった。
やっぱりイチャイチャしたかったようだ。
それから日向は、北園の隣で横になっているシャオランにも声をかける。
「シャオラン、やったな。皆の仇、討てたな」
「ヒューガ……。うん。ヒューガも、しっかりトドメ決めてくれて、ありがとうね」
二人は、コツンと右拳を突き合わせた。
シャオランの表情は、ここ最近でもっとも爽やかだった。
一方、本堂はユピテルに声をかけていた。
「ユピテルもお疲れ様だ。お前がいなかったら、此度の戦い、こう上手くはいかなかったかもしれん」
シャオランとの会話を終えた日向も、本堂に続いてユピテルに言葉をかける。
「下手すれば負けてたかも……。本当にありがとうなユピテル。特に、俺を何度もキャッチしてくれて」
「ケェェン!」
本堂と日向の言葉を受けて、ユピテルは嬉しそうに鳴き声を上げた。
それから日向は、飛空艇の右舷にいるエヴァにも声をかけるため、彼女のもとへ。
エヴァはドゥームズデイが残した『星の力』を回収しているようだ。空に漂う蒼いオーラが、彼女の身体へと吸収されていく。
「……これで三割五分といったところでしょうか。残る『星殺し』はあと二体。やはりこのぶんだと、全ての『星殺し』を倒したら、私に帰ってくる『星の力』は五割ほどになりそうですね」
「エヴァ。お疲れ様だったな」
「日向、戻りましたか。流石の私もへとへとです。まさかジ・アビスを倒してからたった二日で、こんな厳しい戦闘を行なうことになるとは思ってもいませんでした」
「まったくだな……。それでも、お前の重力制御や電磁場があったから、俺たちはドゥームズデイとまともに勝負することができた。お前がいてくれて良かったよ」
「ま、まぁそれほどでもありませんが」
エヴァは謙遜しているようだが、やはり嬉しそうな雰囲気が滲み出ていた。
さらに、飛空艇のアナウンスからスピカとミオンの声も聞こえてきた。アナウンス越しに日向たちを労ってくれる。
『日向くーん! 日影くーん! おっつかれー! とんでもない化け物だったけど、見事な大勝利だったねー! いやーキミたちも強くなったなー!』
「スピカさんもお疲れ様でした。飛空艇の皆のサポート、ありがとうございました」
『これで残る『星殺し』はあと二体! その次がいよいよ王子さまね~!』
「ですね。終わりが見えてきた……」
狭山との決戦の時が近づいている。
そして、この戦いの日々の終わりも。
日向の中で、じんわりと実感が湧いてくる。
するとここで、日影がアナウンス越しにスピカに声をかけた。
「そういや、他の連中は無事か? オネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちとかよ。最後はこの飛空艇もかなり攻撃されていたみてぇだったが……」
『飛空艇の中の皆は無事だよー。けど……ロックフォールがね……』
そのスピカの言葉を聞いた日向、日影、本堂、シャオラン、そしてエヴァの五人は、一斉にユピテルの方を見た。
ユピテルは、もの悲しそうにうつむいた。
それを見て、日向たちも悟った。
ユピテルが進化し、巨大化した経緯について。
「そうか、ロックフォールが……」
『彼にはすごく助けられたよ。彼がいなかったら、ワタシたちは間違いなくあの時、嵐の戦艦に撃墜されてた……』
「……アラムくんは、大丈夫ですか? 絶対にショック受けてたでしょう?」
『うん、すごいショックを受けてた。けれどそれが彼の精神を成長させて、超能力を覚醒させる引き金になったみたい。息子のユピテルにも『星の力』を引き継がせてくれて、ロックフォールは死後もワタシたちを助け続けてくれたよ』
「感謝しても、し足りないですね……本当に……」
その命を懸けて日向たちの勝利に貢献してくれたロックフォールを、日向は最大級に強い気持ちで悼んだ。
その時だった。
空から灰色の光の球体がふわふわと降りてきた。
恐らくはドゥームズデイが残した狭山の記憶だろう。
つまり、『星殺し』討伐後の恒例行事である。
「さて……これで狭山さんの記憶上映会も五回目を迎えることになるわけだけど」
「そろそろ、あの男の弱点の一つや二つでも教えてほしいところですね」
日向とエヴァがつぶやく。
そして光球は弾け、発せられた灰色が日向たちを包み込んだ。