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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第22章 その艇は嵐を往く
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第1289話 心臓に牙を突き立てろ

 飛空艇がドゥームズデイの胸部装甲に接近する。

 この恐るべき怪物に、最後のトドメを刺すために。


 コックピット内のミオンがコントロールパネルを操作し、飛空艇が主砲の充填を開始する。


 北園は”氷炎発破(フュージョンバスター)”、エヴァは”シヴァの眼光”をそれぞれ準備。一撃で胸部装甲を破壊して決着をつけるつもりである。


 しかし、その時だった。

 ドゥームズデイの胸部装甲の中央部分が、突如として左右に開く。


「え? 胸の装甲が、なんか開いたよ?」


 北園が困惑しながらつぶやく。

 展開したドゥームズデイの胸部装甲の中には、球状の雷の塊が一つ。


 ドゥームズデイの胸部という位置関係。

 そして、なんとなく感じる特別感。


 これらから察するに、この球状の雷の塊は、ドゥームズデイの核……心臓のようなものなのだと思われる。これを攻撃すれば、恐らくドゥームズデイを倒すことができるだろう。


 だが、ドゥームズデイもわざわざ北園たちに狙わせるために、最大の弱点を(みずか)ら晒したというわけではないようだ。


 そのドゥームズデイの心臓に、雷電のエネルギーが集中し始める。このエネルギーの高まり方に、北園たちは強い見覚えがあった。


「まさか……あの雷の主砲を発射しようとしてるの……!?」


「あの胸の部分からでも撃てるというのですか……!?」


「ドゥームズデイめ、初めからこうするつもりで俺達を誘い込んだな。ここまで引き付けられては、もはや回避は不可能だ……」


『諦めちゃダメよ! まだ勝負は決まってない! ドゥームズデイより早く攻撃して、あの心臓を撃ち抜けば……!』


「り、りょーかいです! 諦めないよ、最後まで……!」


 ミオンの声を受けて、北園とエヴァは再び攻撃の準備。しかし北園は、ああは言ったものの、とてもドゥームズデイより先に攻撃できる自信はなかった。


「この距離だと、私の”氷炎発破(フュージョンバスター)”も、エヴァちゃんの”シヴァの眼光”も、ドゥームズデイの心臓に命中するまでに時間がかかっちゃう。その間にドゥームズデイがエネルギーのチャージを終えて、雷のビームを撃ち出したら、私たちの攻撃も、私たち自身も、飛空艇も、全部まとめて消し飛ばされちゃう……!」


 ……その時だった。


 ふらり、と誰かが立ち上がる。

 北園の側で横になっていたシャオランだった。


「シャオランくん!? まだ安静にしてないとダメだよ! 時間がなくて、まだシャオランくんの怪我は完全に回復しきれていないの!」


 北園が慌ててシャオランに説明するが、シャオランはお構いなしだ。ボーっとした様子で、ドゥームズデイの方へ……この飛空艇の前部へと歩いていく。


「シャオランくん……?」


 北園は察する。今のシャオランはボーっとしているように見えて、妙に落ち着いている。もしかしたら、この現状をどうにかするため、何かをするつもりなのかもしれない。


 北園は、見守ることにした。

 今からシャオランが何をするつもりなのか。


 シャオランは飛空艇の先端まで来ると、ぼんやりとした眼差しで正面のドゥームズデイを眺めている。ドゥームズデイは変わらず、心臓へのエネルギーチャージを続けている。


 するとシャオランは、静かに瞳を閉じた。


 その突飛な行動は、目の前にドゥームズデイがいるというのに、もはやシャオランは心さえもこの場に無いのではないかと思ってしまうほど。


 この時、シャオランは全身で、風を感じていた。


 心地の良い風だ。

 身体の隅々(すみずみ)まで清涼感が染みわたるような。


 一瞬ながらも生と死の境目を彷徨(さまよ)った今のシャオランは、一種の極限状態に突入していた。全ての感覚器官が解放され、全身でこの空を、この星を、この宇宙を感じているかのよう。


 この宇宙の全てを知ったような気がした。

 その超感覚が、シャオランの”空”をさらに深めた。


 シャオランの全身から”空の気質”が発せられる。


 気質はじわじわと広がっていく。

 その規模は、これまでと比べて二倍以上は大きい。


 そして、シャオランから広がった”空の気質”は、やがてドゥームズデイの心臓をも(とら)えた。


 その瞬間、シャオランが踏み込み、拳を突き出した。


「……もらったよ。はぁぁぁッ!!」


 何もない空間に向かって拳を突き出したシャオラン。しかしその拳の威力は、まだ遠く離れているドゥームズデイの心臓に伝わった。シャオランから広がった”空の気質”を通して。


「RUAAA……!?」


 最大の弱点に強烈な衝撃を受け、ドゥームズデイの全身が硬直する。エネルギーのチャージも中断された。


「い、今だよ! ”氷炎発破(フュージョンバスター)”ぁぁ!!」


「焼き尽くせ……”シヴァの眼光”!!」


『主砲、発射ー!!』


 北園の火球と冷気弾。

 エヴァの熱線。

 飛空艇の光の剣のようなエネルギー波。


 それら全てが、同時にドゥームズデイの心臓に命中。

 大爆発が巻き起こった。


「RAAAAUUUUAAAAAAAA!?」


 ドゥームズデイの身体がくの字に曲がる。

 上体が後ろへと流れ、やがて空中で倒れた。


 ……が、しかし。

 ドゥームズデイは、まだギリギリ生きていた。


「RU……OOOAAA……!!」


 破壊されかけた心臓を、拳を失った右腕で庇いながら、ドゥームズデイは身体を起こそうとする。


 しかし、その時。

 仰向(あおむ)けになっているドゥームズデイの視線の先。

 高い空を、一羽の黄金の巨鳥が横切った。


 その黄金の巨鳥はユピテル。

 ユピテルの背中から、一つの人影が飛び降りる。


 飛び降りたのは、日向だ。

 ”最大火力(ギガイグニート)”を発動し、ドゥームズデイの心臓めがけて落下していく。


「これで終わりだ、ドゥームズデイ!!」


 それを見たドゥームズデイは直感する。

 あれは死神だ。

 自分たち『星殺し』に……アーリアの民に死をもたらす絶対的存在。


「RUUU……!! RUOOAAAAA!!」


 ドゥームズデイは、正真正銘の最後の抵抗を行なう。先ほどチャージを中断されてそのままにしていた心臓部分の雷電のエネルギーを、日向めがけて即座に撃ち出したのだ。


 不完全なチャージでありながらも、ドゥームズデイの雷電のビームは凄まじいエネルギーが凝縮されており、規模も大きい。青黒い光線が日向に迫る。


 これに対して日向は、ただ『太陽の牙』で霞の構えを取る。自身の頭の横で、剣の切っ先を相手にまっすぐ向ける構え方である。ドゥームズデイに向かって落ちながら、日向はその構えを取った。


 ”最大火力(ギガイグニート)”状態の『太陽の牙』を構えながら落ちていく日向は、まるで空から槍が降ってくるかのよう。ドゥームズデイの心臓を狙う、灼熱の槍が。


 そして、『太陽の牙』を構えた日向と、ドゥームズデイのビームが激突する。


「はぁぁぁぁっ!!」


 やはりと言うべきか。

 日向は、ドゥームズデイのビームを中央から貫きながら落ち続ける。


 やがて日向は、ドゥームズデイのビームを突破。

 その先にあるドゥームズデイの雷の心臓に、『太陽の牙』を突き刺した。


「RU……A……」


 日向は落下の勢いのまま、ドゥームズデイの心臓をも貫通。ドゥームズデイの背中まで突き抜けて、その下にいたユピテルの背中に着地した。


 日向は自分の攻撃の成果を確認することもなく、ユピテルに乗って離脱。確かな手ごたえを感じたので、もう確認の必要も無いと判断したのだろう。


 心臓を貫かれたドゥームズデイの全身が、小刻みに震え始める。


「RUA……AA……AAAAAAAAAAAA!?」


 そしてドゥームズデイの全身が、稲妻をまき散らしながら大爆発した。


 大爆発の煙が晴れた時には。

 ドゥームズデイの姿も、気配も、完全に消滅していた。


 これにて、嵐の『星殺し』は(たお)された。

 日向たちの勝利である。

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