第1288話 もう一押し
時間は少し巻き戻り、ドゥームズデイのビームが大爆発を起こした直後、飛空艇のコックピット内の様子。
ドゥームズデイのビームを相殺するために飛空艇の主砲を稼働させたアラム。その代償は高く、精神エネルギーだけでは主砲発射には足りず、生命エネルギーまで支払うことになってしまった。
「う……ぐぅ……」
うめき声を上げ、アラムは操縦桿を握ったまま大きくふらつく。もう立っているのもやっと、という様子である。
「あ、アラムくん!」
北園がアラムの身体を支え、近くに横たわらせる。そして操縦桿を握りしめ、アラムと操縦を交代した。まずはモニターで状況を確認する。
「甲板のみんなは……本堂さんは無事。エヴァちゃんとミオンさんも大丈夫。日影くんの姿が無いけど、落とされたとしても自力で飛べるから大丈夫だよね。問題はシャオランくん……!」
北園もこのコックピットにて、シャオランが重傷を負ってしまっていたことを把握していた。ひどい怪我だが、エヴァが何とかしてくれるだろう。
そう考えていた北園だったが、ドゥームズデイがミサイルや稲妻を撃ち出してきた。おまけに異能の戦闘機まで襲い掛かってきて、あっという間に甲板の皆はシャオランに構う余裕がなくなってしまう。
「ああ、大変なことになってきちゃった……! どうしよう、誰かがシャオランくんをここまで連れてきてくれたら、この飛空艇を操縦しながらシャオランくんを回復させることくらい、どうとでもできるのに……!」
今このコックピットにいるのは、北園とスピカ、そしてアラムをはじめとするオネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちだ。北園は飛空艇の操縦を止めるわけにはいかないし、今のスピカは人間を運ぶこともできない。
子供たちもシャオランを運ぶのは難しいだろう。シャオランは見た目に反して意外と重い。おまけに、いくら本堂たちが凌いでくれているとはいえ、暴風が吹き荒ぶ戦場の中に子供たちを向かわせるなど。
「こうなったら、今度こそワタシが魂を燃やして動力になって、その間に北園ちゃんはシャオランくんの回復に向かってもらうしか……!」
……だがその時。
北園が握りしめる操縦桿を、別の誰かが横から手を伸ばして握った。
「え? まさか、もしかして……」
「キタゾノお姉ちゃん……行って、あげて……。操縦は僕がやるから……」
「あ、アラムくん……!」
操縦桿に手を伸ばしてきたのはアラムだった。ひどく苦しそうな様子であり、先ほどの主砲発射の消耗からまったく回復できていないのは一目瞭然だ。
「そんな状態で操縦しようとしたら、命が危ないよ! 代われるわけがない!」
「僕のことはいい……。それより、シャオランだよ……。ここで死なせちゃダメなんでしょ……。僕はまだ、もう少しだけ翔べるから……」
「ダメだよ! それ以上は本当に……!」
……しかし、ここでスピカも北園に声をかけた。
「北園ちゃん、行ってあげて!」
「す、スピカさんまで……!」
「勘違いしないで! アラムくんを犠牲にしようなんて一ミリも思ってないよー! 北園ちゃんがミオンさんと入れ替わりで交代して、あの人にアラムくんと代わってもらうんだよ!」
「そっか、まだミオンさんがいる! りょーかいです! すぐ行きます! ごめんアラムくん、もう少しだけ頑張ってね!」
アラムに声をかけながら、北園はコックピットを出て行った。
それからスピカも、アラムに声をかけた。
「アラムくん、無理させてゴメンね……。いざという時は、このお姉さんが燃料になるからねー……!」
「だいじょうぶ……スピカさんもきっと、ヒュウガ兄ちゃんたちに必要な存在……。僕を信じて、任せて……」
「……強いね、キミは……」
スピカがそう評するアラムは、今にも倒れてしまいそうなくらい弱り切ってしまっている。だが、その瞳に宿る光はまったく死んではいなかった。
◆ ◆ ◆
そういう経緯で、北園が飛空艇の甲板までやってきた。重傷を負ってしまっているシャオランのもとへ急いで駆け寄る。
「遅くなりました! シャオランくん、だいじょうぶ!?」
「え、北園ちゃん!? それじゃあ、飛空艇を操縦しているのは、まだアラムくんなの!?」
やってきた北園に、驚愕した様子でそう尋ねたミオン。
北園も勢いよく首を縦に振る。
「そうなんです! ミオンさん、アラムくんと操縦を代わりに行ってあげてください! もう本当にアラムくんギリギリなんです!」
「わ、わかったわ! シャオランくんをお願いね……!」
そう言って、ミオンはすさまじい速度でコックピットへ向かった。あの速度なら十秒もあれば到着するかもしれない。
ミオンと本堂は、かなりの数の異能の戦闘機を墜としてくれたようだ。エヴァも現在進行形でドゥームズデイの稲妻を受け止めてくれている。
「今が一番、シャオランくんを回復させるチャンス……!」
さっそく北園は、シャオランに”治癒能力”を行使。北園の手から発せられる優しい青の光がシャオランを照らす。
「……ぅ……く……」
「シャオランくんの意識が戻った! シャオランくん、だいじょうぶ!?」
北園はシャオランにそう呼びかけるが、シャオランはうめき声で返事をするだけに留まる。まだしっかりと言葉で返事をする余裕はないようだ。
北園は引き続き、シャオランを回復させる。
その北園を、風天のミサイルが狙う。
その風天のミサイルを、本堂が素手で受け止めた。
ミサイルの中央部分を掴み、弾頭を触らないように捕まえている。
「くっ……!」
「本堂さん!」
「北園、シャオランの回復を続行しろ! 戦闘機も残り少ない。全て俺に任せてもらって構わん!」
「りょーかいです! お願いします!」
北園の返事を受けた本堂は、さっそく残りの異能の戦闘機の排除にかかる。まずは捕まえたばかりの風天のミサイルを持ち替え、投槍のよう雷天へ投げつけた。これが見事に雷天に命中し、撃墜。
次に雨天が酸の機銃を連射しながら向かってきた。
本堂は酸を浴びながらも、正面から”轟雷砲”で撃ち返す。
一条の稲妻が、雨天を真正面から貫いた。
最後は、先ほど本堂にミサイルを撃ち込んできた風天。風を纏って透明になりながら、飛空艇の真横から本堂めがけて突っ込んできた。機体を本堂にぶつけるつもりだ。
これに対して本堂は、右腕の刃を青くスパークさせる。
「”雷刃一閃”……!!」
縦にまっすぐ降り抜かれた本堂の雷刃は、突っ込んできた風天を真っ二つに切り裂いた。
「ドゥームズデイとて、戦闘機を製造するのにも相応のエネルギーコストがかかるはず……。流石にこれで打ち止めだろう……!」
一方、ドゥームズデイは今もなお左手から稲妻を照射しており、それをエヴァが電磁結界で受け止めている。
「この……いい加減に……!」
長く続くドゥームズデイの攻撃に、さすがのエヴァも疲弊してきたようだ。
だがドゥームズデイはエヴァと違って、疲れて攻撃を中断するどころか、その稲妻の勢いを増してきた。さらに激しくなった電流がエヴァの電磁結界に叩きつけられる。
「く、うう……! まだこれだけの余力を……! これ以上はもう……!」
その時だった。
ドゥームズデイの左手に向かって、右上空から一つの炎の塊が飛来してきた。音速の領域に入っているであろう、ものすごいスピードで。
「よそ見してんじゃねぇぞコラァァッ!!」
この炎の塊は、”オーバーヒート”を使用している日影だ。先ほどの大爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされていたが、復帰したようだ。
飛んできた日影は、その勢いのままドゥームズデイの左手甲に突撃。手甲のひび割れた箇所を貫いて、そのままトンネルのように反対側から飛び出した。
一拍置いて、ドゥームズデイの左手が大爆発。
手甲ごと、ドゥームズデイの左手は消し飛んだ。
「RUAAAAAA!?」
これでドゥームズデイの稲妻攻撃もキャンセルされた。
北園は、もうアラムと操縦を代わっているであろうミオンに声をかける。
「チャンス! ミオンさん、飛空艇を前進させて! 終わらせましょう!」
『了解よ、北園ちゃん!』
アナウンスからミオンの返事が発せられた。
そのまま飛空艇は前進し、ドゥームズデイの懐に潜り込む。
狙いは胸部装甲。
ドゥームズデイの核となっている部分だ。
『出し惜しみ無しの最大火力をぶつけるわよ! これで決着をつけるわ!』
「りょーかいです!」
「いいでしょう……!」