太陽の勇者は沈まない ～マモノ災害と星の牙～

第5章 人の心 マモノの心

第１１８話 フレアマイトドラグ

「ガアアアアアアッ!!」

「アイツが星の牙……フレアマイトドラグか！」

　咆哮を上げるフレアマイトドラグに向かって、日向たちは構える。

　構えたまま、フレアマイトドラグの様子を窺う。

「さて。思いっきり警戒されてるけど、どうやって攻めたものかな……」

　フレアマイトドラグはマモノ対策室のデータに名前のあるマモノだ。そのため、日向たちは事前に今回の敵の情報を持っている。

　そして、それゆえに日向たちは今、さっそく手を出しあぐねている。フレアマイトドラグが持つ『能力』のために。

「ちっ。睨み合ってばかりじゃ埒（らち）が明かねぇ。とりあえずオレが先行するぜ！」

　そう言って日影がフレアマイトドラグ目掛けて走り出した。

「おらぁッ!!」

　日影が『太陽の牙』を振りかぶり、フレアマイトドラグの腹を狙って振り下ろす。

　しかしフレアマイトドラグは、迫る日影の刃に向かって、自らの頭部を叩きつけた。

　そして『太陽の牙』とフレアマイトドラグの額が激突し、ドゴンッ、と爆発が起こった。

「うおわッ!?」

「日影っ！」

　爆発に巻き込まれ、吹っ飛ばされる日影。

　一方でフレアマイトドラグは軽傷だ。

　先の爆発のダメージはもちろん、『太陽の牙』のダメージも少ない。

「大丈夫か、日影!?」

「日影くん！　大丈夫!?」

　日向と北園が駆け寄り、日影を助け起こす。

　日影はすでに”再生の炎”で傷を再生し始めているところだ。

「ああ、なんとかな。だが、やっぱり情報通りの『能力』を持ってるぜ」

「そうみたいだな。……あ、フレアマイトドラグが動くぞ！」

「ガアアアッ!!」

　フレアマイトドラグは翼を開くと、日向たち目掛けて大きく一回、翼を羽ばたいた。

　すると、翼から黒と赤が混じった粉塵が扇状に放たれ、日向たちを包みこんだ。

「やばい！　『鱗粉』だ！」

「私がバリアーを……」

　バリアーの構えを見せる北園だが、本堂が声を飛ばす。

「待て北園！　すでに全方位包まれてる！　バリアーの裏側からやられるぞ！」

「退避！　退避ーっ！」

　日影と北園を連れて、急いで鱗粉から脱出する日向。

　その後ろに控えていた本堂とシャオランも鱗粉から距離を取る。

「ゴアアアッ!!」

　そして、フレアマイトドラグが火球を吐いた。

　火球は鱗粉が舞う中央の地面に命中し、爆ぜる。

　瞬間、飛び散った火が鱗粉に引火し、凄まじい大爆発を巻き起こした。

　辺り一帯に轟音が響き渡る。

「うわ……!?　あれは確かに私のバリアーじゃどうにもできなかったかも……」

「危うく消し飛ばされるところだった……」

　これがフレアマイトドラグの能力、爆ぜる鱗粉である。

　火薬のような赤黒い鱗粉が身体中に付着しており、軽い衝撃や火気で引火し、爆発を起こす。

　下手に攻撃したら身体の鱗粉が反応し、爆発のカウンターを浴びせてくる。

　群がる敵には先ほどのように鱗粉を散布し、爆発に巻き込んで殲滅する。

　攻防に利用できる強力な能力である。爆発の威力も申し分ない。

「まるで爆破反応装甲だな……」

「ばくははんの……何？」

　日向が呟いた聞きなれない単語に、首を傾げる北園。

「戦車とかに使われる装甲で、ロケットランチャーとかの攻撃を受けたら爆発でカウンターして、攻撃の威力を相殺して防御するの」

「えーと、つまり？」

「つまり、さっきの日影みたいに無計画に攻撃しても、爆発でカウンターを喰らうだけだし、ダメージも大して与えられないってことだよ。『太陽の牙』だって効果は薄いと思う」

　しかしフレアマイトドラグは、全身を隙間なく鱗で固めている。爆発のカウンターを受けずに攻撃できる部位は、ほとんど見当たらない。

　厳しい状況であるが、なぜかその中で、シャオランが嬉しそうにしている。

「ボク、手も足も出ないよね」

「まぁ、現状は……」

「じゃあ戦わなくていいよね」

「よくない」

「なんでぇ!?」

「そりゃあ、あの鱗粉をどうにかする方法があるからだよ」

　そう。日向たちだって、ちゃんとマモノ対策室のデータを参照して、策を練ってきたのだ。

「北園さん、凍結能力（フリージング）だ！　パワーアップした吹雪を見せてやれ！」

「りょーかい！」

　フレアマイトドラグの鱗粉の性質は、既存の火薬に極めて近い。

　それはつまり、湿気(しけ)れば使い物にならなくなるということだ。

　だから、北園の吹雪でフレアマイトドラグの鱗粉を封じる。

　そうすれば、日向たちの『太陽の牙』も威力を発揮するはずだ。

　これが日向たちが用意した策である。

「やぁぁっ!!」

　北園が両手に冷気を集中させ、それを放つ。

　岩肌が凍り付くほどの強烈な冷気がフレアマイトドラグに迫る。

「ギャオオッ!!」

「あ、避けられた!?」

　しかしフレアマイトドラグは、空高く飛び上がってそれを避けた。

　そして、攻撃の隙を狙って北園に火球を吐きつける。

「させるかよっ！」

　その火球に向かって、日影が飛びかかる。

　そして、飛来してきた火球を、日影が切り裂き破壊した。

『太陽の牙』は、星の力を用いたエネルギー攻撃を容易く破壊できる能力を持つ。

　火球が破壊され爆炎が巻き起こるが、日影は素早く身を引いて炎を避ける。後ろの北園ももちろん無傷だ。

「ありがと、日影くん！」

「おう！　……けど、やっぱ向こうも冷気は警戒してくるか」

　先ほどは『星の牙』に対して特効を持つ『太陽の牙』を、フレアマイトドラグは真正面から受け止めた。しかし、北園の吹雪は飛び上がって回避した。どちらがより脅威な攻撃か、フレアマイトドラグは分かっているのだ。

「やっぱりマモノは、人間と大して知力は変わらないってワケか……！」

「ゴアアアッ!!」

　フレアマイトドラグは依然、空を飛び続け、下にいる日向たちに火球を吐きつける。日向たちは現状、火球から逃げ続けるしかない。

「あの野郎、全然下りてこねぇ！」

「あまり飛び続けるとクソモンスター扱いされるぞ！　空の王者（笑）とか言われるぞ！」

　しかしフレアマイトドラグは下りてこない。

　空（ここ）にいれば日向たちは手が出せないと思っているのだ。

「じゃあもうしょうがない。発破かけちゃってください、北園さん」

「りょーかい！　いくよー……！」

　日向の声を受け、北園は右手に炎を、左手に冷気を集中させる。

「空（そこ）なら誰も巻き込まない！　見てから逃げるんじゃ、もう遅いもんね！　いざ喰らえー、私の氷炎発破（フュージョンバスター）!!」

　掛け声と同時に、北園は炎と冷気を同時に射出した。

　炎と冷気はフレアマイトドラグに迫りながら混ざり合っていく。

　フレアマイトドラグは飛来する氷炎から逃げようとする。

　しかしその瞬間、フレアマイトドラグを包み込んでしまうほどの大爆発が起こった。

「ギャアアアッ!?」

　爆発に巻き込まれ、フレアマイトドラグは地面に叩き落とされた。

　倒れた身体を起こすため、地面の上でもがいている。

「今だ、北園さん！」

「りょーかい！」

　日向の声を受け、北園が再び吹雪を放つ。

　吹雪は見事、フレアマイトドラグの背中に命中した。

　赤黒い鱗が真っ黒に変色していく。鱗粉が湿気っているのだろう。

「よし、今だ！」

「いくぜぇぇぇ!!」

　日向と日影が剣を構えながらフレアマイトドラグの背後へと迫る。

　しかしフレアマイトドラグはその背中を使って体当たりを仕掛けてきた。

「ぐええっ!?」

「うおっ!?」

　日向は回避が間に合わず、まともに体当たりを喰らってしまった。

　一方、日影はギリギリで反応するも、身体を引っ掛けられて転倒した。

「隙あり！　……はぁッ！」

　フレアマイトドラグの横からシャオランが接近し、背中目掛けて拳を突き出す。

　だがフレアマイトドラグは素早く反応し、まだ鱗粉が無事な肩を使ってシャオランの拳を防御した。瞬間、爆発が起こった。

「うわぁぁっ!?」

「シャオランくんっ!?」

　素手の攻撃で、爆発のカウンターをもらってしまった。

　腕が千切れ飛んだのではと心配し、思わず北園はシャオランの名を叫ぶ。

「い……痛い……だから戦うのイヤだったのに……」

「あ、良かった！　ちゃんと生きてる！」

「良くないよぉ!?　見てよこの腕！　黒焦げのボロボロだよぉ!?」

　シャオランは無事だった。『地の練気法』のおかげだろう。

　腕はズタズタになっているが、ちゃんとくっついている。

　あれなら北園の治癒能力（ヒーリング）で治療できるだろう。

　北園はシャオランを治療したいところだが、シャオランはまだフレアマイトドラグの近くにいる。何とかしてシャオランの後退と回復の隙を作らなければならない。

「とりあえず、もう一発吹雪を……！」

　フレアマイトドラグに向かって吹雪を放つ北園。

　目論見通り、フレアマイトドラグは飛び上がり、吹雪を避ける。

　おかげでシャオランとの距離を開けることができた。

「ガアアアッ!!」

　しかし、フレアマイトドラグは思わぬ反撃を繰り出してきた。

　北園から数メートル左に離れた地点に火球を吐きつけたのだ。

　その場所には何もない……と北園は思ったが……。

「……え!?」

　火球が爆ぜると、その地面に溜まっていた鱗粉に引火し爆発を引き起こしたのだ。これまでの戦闘で、周囲にはフレアマイトドラグの鱗粉が散乱している。

　そして鱗粉は北園の足元まで続いており、さながら導火線の如く爆発が北園に迫ってくる。

　こと火力に関しては五人でも随一の北園だが、こういった戦闘面での駆け引きにはまだまだ疎い。そして身体能力も大して高くはない。そのため、迫る爆発に回避行動が追い付かなかった。

「いかん、危ないっ！」

「わっ!?」

　しかし、そこに本堂が助けに入った。

　硬直していた北園の襟首を掴み、爆発の範囲外から引っ張り出したのだ。

「あ、ありがとう、本堂さん。助かりましたぁ……」

「ああ。しかしヤツめ、唐突に動きが良くなってきたな」

　本堂の言う通り、フレアマイトドラグは吹雪を受けて追い詰められたどころか、逆に五人に手痛い反撃を食らわせてきた。恐らく、五人を明確に脅威と見なし、本気で排除にかかってきたのだろう。

「つまり、ここからが本番ってワケだ！　……ほれ立て、日向」

「む、無茶言うな日影……。こちとら大型自動車に跳ね飛ばされたあげく、全身を内側から焼かれているような状態なんだぞ……現在進行形でな……」

「うるせー、いいから立て」

「お前、鬼か……」

　”再生の炎”で身を焼かれる日向を、日影が無理やり助け起こす。

　北園もこの隙にシャオランの怪我を回復させる。

　そして五人は、決着を付けるべく駆け出した。