第1286話 接射
シャオランの空の練気法”無間”で繰り出した拳が、ドゥームズデイが突き出してきた左手を止めた。
飛空艇の目の前で静止するドゥームズデイの左手。しかしまだシャオランの”無間”と飛空艇のバリアーを突破しようとしており、力を緩めない。シャオランも拳を突き出したまま、ドゥームズデイの左手を食い止めている。
だがその時。
ドゥームズデイの左の手のひらの中心に、急速にエネルギーが集中し始めた。
「え!? これって、まさか……!?」
シャオランの表情が変わる。
これは恐らく、ドゥームズデイが雷電のビームを放とうとしている。
街一つを丸ごと消し飛ばすほどの威力を有するドゥームズデイのビーム、これをシャオランの”無間”に押し当てたまま接射するつもりなのだ。そんな凶悪なエネルギーを放たれたら、甲板のシャオランたちはもちろん、飛空艇だって消し飛ぶだろう。
他の仲間たちも、ドゥームズデイがやろうとしていることに気づいた。それぞれ、ドゥームズデイの攻撃に対処するために動こうとするが、残された猶予は余りにも少ない。
「ドゥームズデイの奴、まさか主砲をぶっ放すつもりか!? クソッ、今からドゥームズデイの左手甲を破壊しに行くしかねぇ! 間に合うか!?」
そう言って、日影は飛空艇から飛び立とうとしている。
一方、エヴァは杖を甲板の上に突き立てた。
「全力の電磁結界で飛空艇を防護! 敵の攻撃に備えます!」
そして本堂は、反射的にエヴァとミオンの前に立ち、二人を庇う体勢に。
「超帯電体質の俺は、ここにいる面子の中では最も電撃に対する耐性が高い。せめて俺が盾になり、彼女らの生存率を少しでも高める……!」
それから本堂は、シャオランにも声をかけた。
自分を盾として使ってもらうために。
「シャオラン! 此方へ来い!」
……しかし、本堂の呼びかけに対して、シャオランは何の反応も見せない。エヴァの方を振り向くことさえせず、右拳でドゥームズデイの左手と押し合っていた。”無間”により、何もない空間を挟んで。
「シャオラン、何をしている!? ……いや、そうか、動けないのか……!」
本堂の言う通りである。
シャオランは、ここを動くわけにはいかないのだ。
「ボクがドゥームズデイの左手を抑えるのを止めたら、ドゥームズデイはこのエネルギーを放出までもなく、そのまま左手でこの飛空艇を叩き落としてしまう……」
かと言って、このまま何もせず耐え続けていても、まもなく発射されるドゥームズデイのビームがシャオランたちを消し飛ばすだろう。
「だから、ドゥームズデイがビームを放つ、その直前。ボクはもう一度ドゥームズデイの左手に全力の一撃を叩き込んで、少しでもビームの勢いを殺す。分が悪すぎる賭けだけど、それしかできることがない……!」
そしてこちらはコックピット内。
北園、スピカ、アラム、そして他の子供たち。
全員が、緊迫した表情で正面のモニターを注視していた。
ドゥームズデイの雷電の左手が目の前に迫る光景を。
「シャオランくんが耐えてくれている今のうちに逃げないと!」
北園がそう叫ぶが、スピカが首を横に振る。
「ダメだよ! シャオランくんとドゥームズデイは今、正面からぶつかり合って膠着を保っている状態だ! ここで飛空艇が勝手に動けば、二人の拳が滑る! 最悪、その滑ってきたドゥームズデイの左手がそのまま飛空艇に直撃するかも……」
「そ、そんな……!」
「逃げられないなら……立ち向かうしかない!」
操縦桿を握るアラムがそう叫んだ。
そして彼は、操縦桿により多くの精神エネルギーを流し込み始める。
「アラムくん、何をするつもり!?」
「この飛空艇の主砲ってやつをぶっ放して、アイツのビームにぶつけるんだ!」
「む、無茶だよ! それにアラムくん、あの主砲が撃てるだけのエネルギーは残ってないんじゃ……!」
「でも、正念場だもん! これくらいの無茶、喜んでするよっ!」
アラムのその言葉と共に、飛空艇が主砲機構を展開。
主砲の発射口にエネルギーがチャージされていく。
最後は日向。
ドゥームズデイの右脚を付け根から斬り飛ばした後、ユピテルの背中に着地した日向。しかし彼は、その位置関係もあって、飛空艇の危機に気づくのが皆より遅れた。
「ドゥームズデイの奴、まさか飛空艇にビームを直接ぶち込むつもりなのか!? こうなったら、今から”星殺閃光”をぶっ放して、ドゥームズデイがビームを撃つより早く終わらせるしか……!」
そう考え、日向は再びユピテルの背中からジャンプする準備。このユピテルの背中の上で”星殺閃光”を撃ち出そうとしたら、ユピテルまで熱波で巻き込んでしまう。
だがしかし、間に合わない。
ドゥームズデイのビームが、発射される。
それと同時にシャオランは、ドゥームズデイの左手に押し当てていた拳をよりいっそう強く握りしめ、右足で踏み込み、全力の寸勁を繰り出した。
「やぁぁぁぁッ!!!」
それと同時に、飛空艇の主砲も発射される。
光の剣のような、薄く鋭い光線が。
「僕の全身全霊を注ぎ込む!! 主砲……発射っ!!」
ドゥームズデイのビームは、凝縮された雷電の奔流となって発射され、飛空艇を容赦なく押し流して消し炭にする……はずだった。
しかし、偶然にも全くの同時に放たれたシャオランの寸勁と、アラムが作動させた飛空艇の主砲、さらにこの飛空艇を守るバリアーと、エヴァが発生させた電磁結界。
これらがいっぺんにドゥームズデイのビームとぶつかり合い、その結果、ドゥームズデイのビームは押し留められ、その場で大爆発を巻き起こした。
「RUA……!?」
巨大なドゥームズデイさえも怯むほどの、超特大の大爆発だった。
当然ながらこの大爆発は、飛空艇も呑み込んでいる。さらには、左手甲を攻撃しようと飛び立っていた日影や、爆発中心部よりはるかに低高度にいる日向とユピテルまで。
「うおッ……!?」
「うわっ!? 吹っ飛ばされ……!?」
「キュオオッ……!?」
はたして、皆の安否や如何に。